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日本発の表現力豊かなダンスで、認知症の人々の記憶と感情を整える手助けを

THE STRAITS TIMES SINGPORE に掲載された記事の日本語訳です。

出典:THE STRAITS TIMES SINGPORE "Japanese expressive dance to help people with dementia tune in to memories and emotions" (2023/9/11掲載)
執筆:Judith Tan
日本語訳:石居萌

認知症を患うことはしばしばとても孤独なことだ。徐々に低下する認知力と共に、世界、友人、家族、さらには自分のアイデンティティから切り離されるような感覚が強まるからだ。

それでも、認知症の人が音楽や大切な記憶に合わせて身体を動かす時、例え言葉を扱うことができなくなってしまっていても、彼らとその介護者の間には精神的なつながりが生まれるようだ。

そこで鍵を握るのが、「とつとつダンス」である。ゆっくりと、揺らぐように、ためらいすら含んだような動きは、日常的な身体コミュニケーションとしての実験的なダンスだ。完璧さを目標に据えるダンスとは全く異なる。


「『とつとつ』、あるいは『ためらう』ダンスと名づけたのは、洗練さはないけれど、ポテンシャルに満ちているからです」このプロジェクトをはじめた振付家、砂連尾理氏はそう語る。

そこで言葉は不要である。そのかわり、参加者は彼らの大事な記憶や日々のこと、感情、そして無意識の考えまでをも、表情豊かなダンスで表現することを学ぶ。

Dementia Singaporeでは日本の実験的振付家、砂連尾氏と協力し、この新しいダンス・セラピーへの取り組みを進めている。

8月、砂連尾氏は「入門編」とも言える導入セッションのためにシンガポールを訪れ、社会福祉団体のスタッフ及びボランティアにとつとつダンスの基礎を紹介した。同月には認知症の人々とその介護者に向けたワークショップも行った。

砂連尾氏は去る土曜日にシンガポールを再訪し、Our Tampines Hubで4名の認知症の方とその介護者に向けてセッションを開催。彼らは以前Dementia Singaporeが開催したアート・プログラムに参加し、クリエイティブ・ダンスなどを受講した参加者だ。

参加者は彼らの興味と身体能力に基づいて選ばれた。

認知症は短期記憶、言語能力、問題解決能力、推論能力の障害を含み、コミュニケーションを含んだ日常的なタスクや機能に影響を与え、当事者のイライラ感、孤独感、虚脱感の誘発につながる。

表現力豊かなダンスは認知症の人々の意識を外へ向けるのに役立ち、洗練されていない自発的な動きは溜め込んでいたストレスの発散を可能とする、と砂連尾氏は言う。


とつとつダンスは2009年に京都の特別養護老人ホーム「グレイスヴィルまいづる」で生まれ、砂連尾氏は当施設の高齢入居者のためにワークショップやパフォーマンスを続けてきた。

Alexandra病院勤務の老年科医、Hong によると認知症の人々の介護に追われる家族・友人にとっても、とつとつダンスは効果的だ。

「ダンスの場では、各々の役割はありません。一緒に身体を動かすことで、認知症の人も、介護する人も、共生することを学びます」そう砂連尾氏は言う。

Dementia Singaporeの役員であり、認知症と知的障害を専門とするChen Shilling医師は、即興的な方針を活用したとつとつダンスの取り組みは、「さらに深いつながりを見つけるドアを開くだろう」と期待する。

「ステップに間違いがないこと、そして覚えるべき振付がないことは、参加者が(家族や介護者と)つながる新しい方法を模索する余地があるということです」と彼女は語る。

Lim氏は、今後もDementia Singaporeと砂連尾氏率いるとつとつチームのコラボレーションは続いていく予定だとしている。

「アートを基盤としたプログラムがいかに認知症の人たちの幸福度を促進させ、心へ働きかけ、気分を好転させるかということを、実践を通じて深く理解することができました」

「達成感をもたらす手工芸も有効ですが、ダンスは認知症の進行を遅らせるために非常に有効だと確認できました。音楽と動きを組み合わせ、自由に自己表現することで、参加者は身体的にも社会的にも、現在という意識を維持することができるのです」

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