【短編小説】タイムカプセル
土曜日の午後。雲一つない良い天気だ。陽射しも3月中旬とは思えないくらい強い。
実家の物置に詰め込んである段ボール取り出し、中に入っているものを確認していた。なぜ、そんなことをしているかというと、学生時代に読んだ名著を久しぶりに読みたくなったのだ。大学の頃に購入したのははっきりと覚えていた。自分の家にあるだろうと思ったが、見つからない。そこで、実家にやってきたのだ。後で妻も来ることになっている。
「これも違うな」
いくつか段ボールを引き抜き、中を確認したが書籍を保存している段ボールは今のところ無かった。
確認した段ボールを庭に積み、次の段ボールを引き抜く。
「これは軽いな」
今度の段ボールは、色は褪せ、側面にも埃が付着している。歴史を感じる外観だ。
段ボールが軽いので本は入ってないだろう。中を見る必要もないが、何が入っているのか興味が湧き、段ボールの蓋を開けた。
「これは・・・」
段ボールにはランドセルが一つ入っていた。
色は基本的に黒だ。背中に接する部分と肩紐の裏側はクリーム色だが、経年で色がくすんでいた。材質的にはビニールだろうか。
マグネットを外し、かぶせを開けた。前段には名前カード入れがあり、そこには私の名前が漢字で書いてある。この字は母親が書いたのだろう。
このランドセルを背負って毎日学校に行っていたのだ。私が小学生だったのは20年近く前。あの頃のことはほとんど忘れてしまっている。一方で覚えていることもいくつかある。ランドセルを見回しながら、しばらく昔の記憶の世界に浸っていた。
私は、ふと、教科書を入れる大マチの中を確認してみた。何も入ってないだろうと思っていたが、そこには封筒が入っていた。糊で封はされていない。中には便箋が入っているた。
「なんだろう」
自分が使っていたランドセルというのに、秘密を覗きこむという感覚になり、鼓動が早くなった。
折り畳まれた便箋を取り出して開いてみた。横書きの便箋に子供の字が書いてある。文は、便箋の三分の一くらいだ。
この字は間違いなく私の字だ。ボールペンで書いてあるようだ。まだ子供の字だが、文章はきちんと読める。
私は、自分の字をゆっくり読んでいった。
「あなた」
後ろから、妻の茉莉が声をかけてきた。
「おっと。びっくりした・・・」
「何してるの?」
「本探していたら、小学校の頃使っていたランドセルが出てきてね」
「今、何か読んでいたでしょ?」
「あ、ああ・・・」
「何か出てきたの?」
「ランドセルの中に、俺が書いた手紙が入ってたんだ」
「手紙?」
「そうなんだ。ちょっとびっくりしたよ」
「何の手紙?もしかして、ラブレターとか?」
茉莉はからかうように微笑みながら言った。
「そう、みたいだ」
「え?そうなの?私、知ってる人かな。私達と同じ小学校にいた娘?」
「ああ、そうみたいだ」
「誰?」
私は、便箋をたたみ封筒に入れて、妻に渡した。
「読んでいいの?」
「もちろん。茉莉あてのラブレター。やっと君に渡せたよ」
(終わり)
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