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地下労働単価からの脱却、その後

 2022年7月に『WEBTOON地下労働単価からの脱却』という記事を書いた中日翻訳者の戸谷です。あれから早いもので2年近くが経とうとしています。みなさまお変わりはございませんでしたか?

 現在のわたしはというと、個人事業主から法人成りして株式会社戸谷翻訳事務所という小さな翻訳事務所を立ち上げました。従業員2名、パートナー翻訳者30名とともに日々ゲームや書籍、ドラマの字幕などの翻訳をさせていただいています。
 ……自分でもけっこう思いきったなと思います。
 
今日は地下労働単価脱却後から現在にいたるまでの簡単な流れをざっとまとめて行こうと思います。よろしければおつきあいください。


ゲーム翻訳者になりたい

 地下労働単価を脱却したわたしの次の目標は「中日ゲーム翻訳者になる」ことでした。ゲームが好きだったから……ということもありますが、正直言ってその翻訳単価に強く惹かれたためでした。フリーランスでも中国語1文字10円近くまで目指せるということをX(旧Twitter)で知り、それなら目指すしかないだろ、と思ったのです。

 自分なりのリサーチの結果、フリーランスの場合、かけだしで1文字3円から4円、中堅で5円から6円、トップ層で7円から10円まで稼げるらしい、という結論に至りました。(実際のところは定かではありませんし、もっと上下に幅がある気がします)

 せめてなんとか中堅層に滑り込みたいな……

 そう思ったわたしは、手当たり次第にゲーム翻訳のトライアルを受ける、という暴挙に出ます。
 トライアルはアメリアLinkedIn経由で受けたものもあれば、翻訳者ディレクトリ経由で受けたものも、Indeed経由で受けたものもありました。
 最初の方は一週間に5本から6本受けたでしょうか。

 もちろん結果は散々でした。

 実力が圧倒的に足りていませんでした。産後5年間ほど寝込んでいたこともあり、最新のソシャゲ類にいっさい触れていなかったこと、そもそもトライアルの回答のしかたをわかっていなかったこと……原因を挙げだしたらきりがありません。

 最初のトライアルなんか忘れもしません、ストーリー翻訳の地の文を絵本のようにわかち書きにして一瞬で落とされました。たしかにポケモンなどの有名どころはわかち書きにされているかもしれないけど、ゲーム翻訳のトライアルで求められているのはそこじゃありませんでした。しかも、訳しっぱなしでろくに申し送りもせずに提出していました――というか、申し送りってなに状態でした――これでは落とされて当然です。

 頭をかかえながらX(旧Twitter)で先輩翻訳者さんたちのつぶやきを追っているうち、「どうやらトライアルには『申し送り』ってものが必要みたいだぞ」ということや「日中のゲーム用語を自分の中でアップデートしなきゃお話にならない」ということに気づかされました。

 そこからわたしがやったことは以下の通りです。

 ①日中のゲーム攻略サイトを比較して単語や表現をたたき込む
 ②言語切り替えができるソシャゲに触れる
 ③トライアルの申し送りは事細かに記載する

 ①②は当たり前すぎるので割愛します。③も書き始めたらきりがないのであんまり触れませんが、たとえば「叠加」という単語があったとして「重ねがけ」と訳したとします。そして欄外(もしくはコメント欄)に「○○という世界観なのでこの訳を選びました。他には△△や××、□□などという訳も考えられます」などと書いておく……というのを設問ごとに繰り返していきました。

 そうこうしていくうちにトライアルに受かるようになってきました。
 趣味で小説を書いていたこともあり、ストーリー翻訳に関しては比較的早い段階で評価していただけて、とあるゲームパブリッシャー様と1か月200時間での長期契約を結ぶまでに至りました。(ちなみにこのゲームパブリッシャー様との出会いはLinkedInでした)

もっと単価をあげたい

 1日少なくとも6,000字、多いときで9,000字ほど翻訳する日々が続くようになりました。稼ぎとしてはサラリーマン時代の2倍の額を安定して得られるようになっていたものの、同じくらいの文字数を翻訳している先輩ゲーム翻訳者さんたちの収入が月に100万円をひょいと超えていることを考えると、わたしなんてまだまだです。日々のノルマに追われ、ただ心の余裕だけがなくなっていきました。

 そして、すさんだ心で思うようになるのです。
「単価をあげたい」と。「単価を上げて文字数を減らしたい」と。
 いったんあがった収入が減るのは嫌なんですね。浅ましいものです。

 そこで考えたのがチームで翻訳をすることでした。
 複数人で仕事をわりふって、1人あたりの負担を減らしつつ(減るのかな?)かつ品質を研ぎ澄ましていけばおのずと単価はあがるはずだと思ったのです。単純ですよね。
 でも多少の社内翻訳歴があるとはいえ、フリーランスになって1年ちょっとのひよっこと誰が組んでくれるでしょうか。

チームを組むには 

 さて、ゲームパブリッシャー様からの安定した依頼と、数か月単位の短期案件をあわせて売上げがそこそこに伸びてきたこともあり、「法人成り」という言葉が頭をかすめるようになってきました。
 中国のゲーム会社さんと直取引するためには法人化して信用度を上げておいたほうがなにかと契約が結びやすいという情報も、耳にしたのはこのころだったでしょうか。

 たとえば小さな翻訳会社をたちあげて……
 HPきっちり作って……お問い合わせフォームとかつけておけば……
 あっちからいい仕事が舞い込んでくるのでは?
 (日本語ネイティブの中日翻訳者さん、足りてないし)

 いい仕事が舞い込んでくるようになったら……
 ネイティブチェックや校正をつける余裕もでてくるな……
 そこまで環境をととのえられたら、わたしとチームを組んでくださる方もいるのでは……!!?

 当時の圧倒的な文字数に押しつぶされそうになっていたときの思考回路は大体こんな感じでした。「対応文字数を減らして心にゆとりをもった生活をする」という道もあったはずなんですが、よほど嫌だったとみえます。そして、ついに法人成りを税理士さんに相談することにしたのです。

法人成りへ

 ちょうどインボイスが導入されるとかされないとかで世間がさわぎはじめた頃でした。「確定申告の時期になると、税理士さんが捕まらなくなるぞ」とも言われていたので、確定申告をしてくれる税理士さんを探すついでに、それとなく法人成りについて聞いてみようと思ったのです。

 相見積もりサイトのやりとりで印象のよかった、名古屋・名東区星ヶ丘の西本美幸税理士事務所を訪ねることにしました。確定申告の話もそこそこに、自分のおかれている現状と今後どうなっていきたいかを話すと、先生は「いいですね!  やりましょう!」と言ってくださいました。
 フリーランスの主婦で会社勤めをしているわけでもないから失うものがなにもなかったというのが大きいのだと思いますが、ワラにもすがる思いだったので本当に救われました。

 そして名古屋・名東区のさかい司法書士事務所の酒井先生をご紹介いただき

 名古屋・名東区のながくてデザインさんでHPやロゴ、会社運営に必要な名刺などのペーパーアイテムを作ってもらって

 東京ゲームショウ2023の直前、2023年8月4日に株式会社戸谷翻訳事務所が誕生いたしました。

 そこからはとにかく運がよかったです。
 運よく東京ゲームショウでのビジネスマッチングシステムを使った商談を通して新たに3社とお取引できるようになり、運よく同じ市内在住の日中ネイティブで英語堪能なKさんが弊社に入社してくれることになり……。

 まさに天の時、地の利、人の和がみっつそろってしまった感じでした。
 いや謙遜ではなく本当に運がずば抜けてよかった……そろそろなにかに足元をすくわれるんじゃないかとヒヤヒヤしています。

おわりに、ちょっとだけ会社紹介

 ここまで読んでくださってありがとうございました。
 最後に少しだけ会社紹介をさせてください。

 弊社は中国語⇔日本語のエンタメ翻訳を専門的に請け負う翻訳会社です。
 (最近、英語⇔日本語にも対応できるようになりました)
 ターゲット言語ネイティブによる翻訳→ソース言語ネイティブによるチェック→ターゲット言語監修者による訳文ブラッシュアップ→ツールを使った校正→目視による校正、という流れで訳文を磨き上げていきます。お客様がそのまま使える訳文を目指します。
 ゲーム、漫画、書籍、ドラマ字幕などの翻訳実績があります。1,000字までの無料トライアルにも対応させていただきますので、お仕事の際はお気軽にお声がけください。

 また、登録翻訳者様も随時募集しております。
 チームを組んでやってもいいよ、という方はぜひHPのパートナー募集からご応募ください。お待ちしております。

 みなさまに近況報告ができてよかったです。
 X(旧Twitter)によく浮上しておりますので、見かけたら声をかけていただけるととても嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします。
 それではまた。 

 




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