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読書レビュー エネルギー危機の深層

 面白さ★★★★★
 オススメ★★★★☆
 難しさ★★★★★
 ページ数:270

 ひとことで表すと……ロシアとウクライナを巡る情勢について、エネルギーの観点で知れる本

 この本では、ロシアとウクライナを巡る昨今の複雑な情勢について、欧州とロシアのエネルギー事情やそれに伴うカーボンニュートラルなどの人類共通の命題、といった観点から現状について考察している。またそんな現状から、終章では日本がどうしていく必要があるかについての著者の考えが紹介されている。

 そもそもウクライナにおける現在も続く戦争は、エネルギーの問題が深く関わっていることがこの本を読んでよくわかった。ロシアは唯一の余剰産出国であるLNGガスについて、ウクライナを通して欧州各国に輸出している。これは戦時中である現在も継続されており、ロシアとウクライナにとって相互利益のある状況である。ロシアは外貨を稼ぐ手段として、ウクライナはガスが通ることによる通行税のようなものを得ることができる。だがこの通行税の割合交渉が上手くいかなかったり、それに伴うウクライナのLNGガスの中抜きのような事態、ロシアの政治的供給量調整、欧米による締め付けなど複雑な事情が絡みあい、現状のような戦争が勃発してしまっている。

 また、カーボンニュートラルの流れもこの事態の一因であると考えられる。化石燃料使用量を減らす流れであり、ロシアとして世界の影響力が減っていく流れであることは間違いない。

 ただし、著者も書いているようにこれらの要素だけでは戦争までに発展するとは予想できていなかった。実際に現在の状況はロシアの経済成長にかなりの打撃を与えており、このエネルギーの要素以外の様々な政治的不安定さが戦争を招いてしまったと考えざるを得ない。

 この本を読むことで、この現代において戦争が起こる原因ともなるエネルギーの重要性について再確認できた。また、その上で大エネルギー消費国である日本に生きるエンジニアとして、この状況を改善するべくカーボンニュートラルについて真剣に考える必要があると強く感じた。ロシアとウクライナの戦争は、日本において全く他人事ではないということを認識することができ、現状を正しく認識する意味でも非常に有用な本だと言える。

今回の本:エネルギー危機の深層-ロシアウクライナ戦争と石油ガス資源の未来 著 原田大輔 2023 筑摩書房

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