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#9 さらなるスパイラルアップ ~実行策 応用編part1

ゼロから始めたIR。準備から5年経過し、これまでの活動は果たして成果は上がったのでしょうか。更なる展開を進めました。
 

本当に成果は上がったのか?


 
 ゼロから準備をして5年、2016には株主構成はほぼ当初目標に近づき、業績向上と相まって時価総額も5倍ほどになりました。夢中で施策を実行した結果、成果は伴いましたが、活動の効果は本当に上がっているのか、疑問でした。

 何故ならば量的には達成できても中身の個別投資家は目指す長期保有投資家になっているのか、或いは、年間300件のミーティングを実施したが、その結果自社の株購買に繋がっているのか否か、解らなかったからです。

 つまり、長年『存在すれども見えない企業』という状態から脱却し投資家に『見える企業』になった、に過ぎないのではないかという気付きです。従ってこの水準を一過性に終わらせずに維持し、さらなる持続的成長を続けるにはIR活動を含む企業活動全体の質的向上を図る必要があります。
 そこで一定の基本的戦略活動が一巡したので、次のスパイラルアップを図りました。
 

5年間の成果分析から新たな方針、目標策定


 次なるステージへのステップアップをするには、まず現状分析と戦略構築が必要です。基礎編により所謂PDCAの“P”と“D”を実行してきましたので、“C”を行い、次なる“A”を実施することです。

 目標とした株主構成の変化を量と質から分析します。まず量的変化は、当初目標比率の外人:15%、国内:30%、そして個人を30%程度という構成は15年度(16/3月末)にほぼ達成、16年度(17/3月末)には外人26%、国内29%(機関14%、持合い等15%)、個人26%となり、機関投資家が大幅向上して理想の構成に近づきました。国内の政策保有減少、個人投資家減少の受け皿として外人投資家を増加させる狙いどおりの結果となりました。


 一方、質的な中身は何が起きたのでしょうか?それには投資家ポートフォリオ表の分析が効力を発揮します。投資スタイル、エリア等内訳を細かく分析することにより、実態の特徴や今後の方向性が見えてきます。
 それによると、パッシブとアクティブの比率は1:3、但し国内と海外では構成が異なり、海外はアクティブが7割に対し、国内は9割と大半でした。
 アクティブの投資パターンでは海外はGrowth、Generalist の成長系が7割以上を占めますが、国内はGARP、Valueの割安系が6割を占めていました。
 エリアでは北米比率が6割と高い状況でした。売買回転率はHighの短期が半減し、ModerateやLowの中長期が倍増しました。

 またミーティング状況では、ファンドマネジャー(FM)とアナリストの割合は4:6、Holder投資家とTarget投資家もほぼ4:6、そして優先(aランク)と 以外(その他)も同様でした。

 以上のようなミクロ的状況認識に加え、マクロ的将来予測も行います。

 2016年当時は今後世界の金融資産、運用資産は従来以上の伸びが予測され、内訳としては世界的な高齢化の影響による年金運用や中間層個人投資家の伸び、地域的には従来の欧米に比べ、アジア太平洋地域の増加が予測されていました。また欧米、特に米国ではパッシブ化の流れも進むでしょう。一方国内金融市場では既に傾向が出ている政策保有株式の売却がますます拍車がかかることは必定でした。


1)方針,目標


 上記の現状認識、分析から得た今後の活動方針は、量的には国内金融、個人投資家ともに市場流動性、成長、手間等から従来以上にさらに減少させ、その受け皿として従来の対応である外人投資家のシェアをさらに増やすことでした。目標としては外人投資家比率を40%まで高めます。

 また質的には割安系から成長系にシフトします。
 
長期安定スタイル(Growth)投資家を増やす基本方針として、『持続的成長の可能性』を訴求していきます。

持続的成長とは

1.3年後の営業CASH確保
2.それを実現する営業利益(マージン)
3.そのための展開ストーリーとドライバーと年度毎のマイルストーン

を示すことです。

 活動の基本戦略として、量と質の改善を図っていきます。
 まずミーティングは受身専門のミーティングからターゲットを定め自社からより能動的に動く『待ちのIRから攻めのIR』を目指します。同時に活動成果の検証の質を高め、仕事の生産性を上げます。
 次に.開示情報(説明資料)も質的改善を図ります。内容は長期安定的な企業の成長ストーリーとして事業戦略はもとより、今後の企業価値向上に必須のESG等非財務情報をより充実します。そのストーリーを実現するために必要な投資、利益、資本政策、さらに実現を担保するガバナンス策も強化していきます。

2)具体的施策展開


 施策の要件は基本編の展開と変わりません。即ち「誰に」(ターゲティング)、「何を」(情報)、「どうやって」(イベント・ツール)発信するかの3要素ですが、各々内容をよりレベルアップします。
 

ターゲティングの改善


 ターゲティングの基本方針である『Holder Keep, Target 新規開拓』を強化するために従来からの投資家優先順位ランクをさらに明確にします。

1)ミーティングの生産性向上

 投資家スタイルの優先順は、海外(Growth>Generalist>GARP>HF)>国内投信>国内年金 ですので同ランクを摘要します。
 エリア優先度は長期指向の欧州を最優先、バリュエーション基準の米国を2番目、ついでアジア、国内とします。
 対象パースンはファンド・マネジャー>バイサイド・アナリスト>セルサイド・アナリスト とします。
 
 対象投資家、対象パースンを絞りこんだら、次にミーティング方式を改善します。まず、優先ミーティング(対象:aランク投資家のファンド・マネジャー)は当方から1on1ミーティングを申し入れ、原則訪問とします。次に『それなり』ミーティング(対象:他ランク投資家のアナリスト)は個別ミーティングを避けスモール・ミーティングを四半期毎、年4回実施して効率化を図ります。アナリストはセルサイド、バイサイドを別々に行います。その他は現状通りの運用を原則とします。
 
 この運用は基本編の方針と変わらないのですが、これまでは方針はあっても残念ながら「守り、待ち」の姿勢であったため、なかなか実態が伴わなかったので再度強化します。
 
 そのために投資家ポートフォリオ表管理の更なるレベルアップにより活動のマネジメントを強化します。即ち基本編で述べた【月次】【四半期】【半期末】の運用を実施し、正式状況は半期1回の判明調査に頼らざるを得ませんがラフでも常に最新の傾向を認識する習慣を目指します。それにはHolder実績を詳細にリアルに把握することが活動管理の要綱になりますので、投資家ポートフォリオ表をさらにHolder表とTarget表に分けて詳細を管理します。

 以上の改善により活動状況を精緻に把握し、目指す株主構成に向けて、成行きでなく能動的に誘導していきます。

2)海外ロードショーアレンジ改善


  次に長期指向の海外投資家との関係性強化に非常に重要な効果がある海外ロードショーアレンジの改善を図ります。
 
 海外ロードショーアレンジは従来は企業が証券会社にロードショーのロジスティクス、ミーティングアレンジを依頼していました。ロジスティクス費用は企業負担でしたが、その他のコストに関しては全部証券会社持ちでした。
 それが2018年1月から始まったMIFID2(第2次金融商品市場指令)により従来のようなアレンジが難しくなり、企業は自主的アレンジを余儀なくされつつあります。MIFID2とは投資会社がブローカーに支払う売買手数料とリサーチに対する対価の分離を規制するもので、投資家保護の強化と市場の透明性向上を目的としています。既に欧米の投資家はMIFID2制約の中で運用しており、日本も将来そうなる可能性は多いにあると思われます。

 将来に備えて経験を積むために、既にコンタクトを取っている株主は企業が直にアポイントし、新規は証券会社に依頼する、というようなメリハリをつけていく事が肝要です。

・そのために、有力海外投資家は社長が毎年定期的(2回/年)、Holderと新規開拓を分けて訪問する。一度始めた投資家は継続する。
・アレンジの証券会社のグリップ力を上手に活用し、訪問エリアによりパートナーを選定する。

というような点に留意し、企業自らが主体的に海外ロードショーを設計することを心掛けなければなりません。

 ミーティングの質的生産性向上を図ると同時に、情報発信についてもその本質に迫りました。次回は、その内容について説明します。
 

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