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#6 IR活動の真実 ~価値生む実行策 基礎編part2

具体的な実践方法 part2。意味のあるIR活動をするには「何を」伝えるべきか。

 

意味ある適切な情報発信とは

 

 IR活動は基本方針で述べている通り、『投資家とのコミュニケーション活動を通して自社の実態価値を正確に伝える』ことが目的です。それにより投資家の正しい理解と好意的な印象を得て自社に投資を誘導します。
 
 それには実績よりもむしろ将来この企業は確実に成長するであろうという計画(中計、予想)の信憑性(投資に値するか)がまず必要です。同時にその実行進捗(計画が達成しているのか、否かの増減分析)が必須となります。しかもその説明には、ガバナンスコード対応の観点からも、論理性、正確性、合理性(属人的でなく仕組みで対応)、そしてスピード(開示要件)が伴わなければなりません。

 その上で相手の投資家・アナリストは、プロであることを思い出してください。投資対象であれば彼らは自身のノウハウで短中期予想をシミュレーションしています。

 ミーティングは、持続的成長が出来るか否かのストーリー(作戦)と資源配分(ヒト、モノ、カネ)の確度の確認の場です。従って対応する企業側にその論理的組み立てたシナリオが無い、課題認識が無い、解らない、というのは問題外です。

 どこまで開示するかは、自社のディスクロージャーコードとの兼ね合いですが、ことばに表さなくても五感を使ったコミュニケーション手段によりニュアンスを伝えることはいくらでも可能です。
少なくとも説明当時者は先方の要望、質問に応えられるだけの情報は手持ちとして把握しておく必要があります。

 

 では、どのような情報を用意すべきでしょうか。繰り返しますが投資家の関心毎は「如何に持続的成長により企業価値を向上して、投資に値するリターンが得られるか」の一点です。その期待に応えるためには、ストーリー、シナリオ、作戦とその進捗が必要です。何よりも必要なのは、その組み立てのバランスです。

 成長は一朝一夕ではありません。良い時もあれば悪い時もあります。高収益の事業、商品もあれば、逆もあります。中長期と短期、全体と部分、維持・継続と革新、各々相反する要素のバランスを保ってトータルで持続的成長を続ける、それが経営でありマーケティングです。
 投資家はその組み立てを、ストーリー性を持って、解りやすく、論理構成と目標とエビデンスを明確に提示することを期待しています。従って、何でも細かければ良いというわけでもなく、逆に抽象的過ぎても確信が得られません。
 
 ただ時間軸で言えば、3~5年スパンの中長期的計画はむしろ経営者の「想い」を主体的に述べるべきです。企業理念に 沿って如何に事業展開していくか、事業以外の社会的責任をどのように考えるのか、それに沿ったステークホルダーへの価値配分の方針はどのようなものか、ある程度ラフな数字的組み立てをもって説明すべきです。経営環境がどのように変わるか解らない中で精緻に組み立てても意味がありません。投資家も承知しています。

 逆にその中長期的成長に向かって、短期、3年中計から当年度の計画に対しては、確度と信憑性が求められます。当然ながら直近が実現出来なくて中長期の実現などあり得ないからです。情報の粒度、メッシュも細かさが必要です。特に当年度は市場に約束するわけですから確実性と覚悟が必要です。商品計画、売上計画、コスト計画各々が綿密な計画の下、組み立てられて然るべきです。

 

 

投資家目線の情報

 

上記のビジョン➡シナリオ➡施策の流れに沿った投資家目線から望ましい情報とはどのような内容でしょう。

 

 ストーリー展開は「好結果、悪結果の分析を行い、市場、競合に対して良い材料はさらに伸びる、悪い課題は改善して伸びる。その展開を中計、当期予想、実績について、いずれも将来『伸びる』という印象に誘導する」というものです。このビジョン/戦略を実現させるためのインフラ、具体的には業務システムやIT、組織、人事の仕組みの優位性や改善も成長ドライバーの根拠として有効です

 シナリオ骨子と情報粒度は、財務情報は既存事業 / 成長事業の売上、利益ポートフォリオと利益増減分析が必要です。内訳としてセグメント(カテゴリ、ブランド)別、エリア別(国内/海外)、そして利益増減となるドライバーと資源配分は何かを明らかにします。そしてその実現を支える資本政策、配当政策、資本調達(自己資本/他人資本)を何よりも重視します。
 一方、非財務情報は、21世企業として最低限のESG(環境・社会・ガバナンス)の考え方。但し企業はNPOではありませんので、社会貢献事業が利益に直結しなくてもブランディングとか何らかの企業価値向上に役立つストーリーは必須です。
 
 最後にこれらを達成するための業務施策。いちいち説明する必要はありませんが、シナリオと紐付けされる実務紹介をエビデンスとして用意しておくと信憑性が高まります。

 

 法定開示と適時開示に準拠しているだけであった前職の開示情報について、業界での状況、セクターの競合数社の開示情報との比較評価を行い、ターゲットとディスクロージャーコードに則ってアレンジ、改善に臨みました。
 
 要点は、予想情報の充実、利益増減分析(営業利益)の充実、そして売上、利益増のドライバーの明確化です。利益増減分析においては要因因子をシンプルにまとめ、継続するようにしました。従来も実績の要因分析は行っていましたが因子が決算の都度変化することがあり、投資家・アナリストの分析継続観点からみると不安定でした。

 また、売上比、前同比の比率表示や広告費、販促費などのドライバー追加も決算短信開示時に行いました。それらは計算すればすぐわかる、或いは、後日有価証券報告書で確認すれば解りますが、探しづらく、時期的にも遅い。顧客視点のサービスと考えてもほんの些細な情報ですが、当たり前のように役立ちます。

 こういった相手の立場に立って、解りやすく、シンプルに、訴求ポイントを強く、というスタンスが肝要です。多くの企業が該当するでしょうが、これらはマーケット・投資家とどう向き合うかの企業のスタンスの問題でしょう。企業価値を正しくマーケットに理解してもらおうという能動的なスタンスなのか、余計なことは開示しなくても良いという日本企業にありがちな受動的スタンスなのか、の違いと思います。

 

 さて自社の企業価値を正しく伝えるための要件、「誰に」、「何」をというコミュニケーションのポイントを説明しました。あとは仕上げの「どうやって」という点です。この仕上げというのが実は成否を決めます。8割、9割が完璧でも最後の1割、2割を疎かにしたために結果が伴わないという例が多々あります。次回にその要点を説明します。

 

*1)情報メッシュ等詳細は拙著「ゼロから始めるIR」で後日紹介予定

 


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