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#7 IR活動の真実 ~価値生む実行策 基礎編part3

具体的な実践方法 part3。意味のあるIR活動をする最後の仕上げ。「どのように」演出するか。


 ターゲットが明確、情報内容がしっかりしていても、プレゼン、説明方法、或いはIRサイト等のツールの巧拙でやはり印象、理解の差が出るものです。そもそもIRは機能としてはPR,広報の一環です。ただ漫然と報告するのではなく、プロモーションの事前準備を充分行うことは広報業務の要です。

 さて、ここでコミュニケーションという活動を読者にも改めて考えていただきたいと思います。

 正しく理解してもらうためには聞き手の意識レベルによって同じ内容でも表現方法、伝達手段が異なる筈です。
 さらに、しっかり理解してもらうためには一方的に話す、或いは、資料を配布、掲示するだけでなく、対話による質疑が効果的です。詳細な説明が必要な内容でも、対話があり、なおかつ、少人数のミーティングのほうが効果を期待できます。

 #4の情報やイベント・資料のマトリクスでIRミーティング、決算説明会を重視しているのはそういう意味ですが、対象も頻度も非常に限られているのが難点です。それ故に効果的に設計する必要があります。

 一方それを補完する解決策として、昨今はHPを通して株主総会、決算説明会の動画を一般に公開する企業が増えてきました。かつては株主や説明会出席者だけのクローズの情報、イベントだったのが、いずれも誰でも何時でも取得出来るオープンな情報、イベントに変わりつつあります。
 これは情報の透明性、公平性拡張の趨勢でありますが、メリット、デメリットがあります。
 メリットとしては非顧客、即ち株主以外へのアプローチが容易となったこと、デメリットとしてはすべてオープンになるという前提ですので相当ディスクロージャーコードに気を遣う必要があるということです。

  以上のように「どうやって」情報を発信するか、と一口に言ってもケース・バイ・ケースですので、きめ細かく対応する必要があります。
そこで対話が期待できるイベントとできない場合のツールについて各要領を説明します。

 

説明会充実(イベントタイプ、プレゼンのコツ)


1)社長プレゼン (決算説明会、株主総会)

 決算説明会も株主総会同様、社長がプレゼンするのが原則です。資料をなるべく見ないで自分の言葉で話すことが好印象に繋がります。特に細かい単位は不要ですが主要な数字、目標は記憶しておくことが望ましいでしょう。投資家、アナリストはストーリーが論理的組み立ての下、数字の合理性を持って成り立っており、それが社長自身のものかどうかを見ます。
 なお余力があれば見映え、パフォーマンスに気使うことも必要でしょう。プレゼンの成否として見映えは非常に大きな効果があります。

 配布資料については情報発信で述べた「ビジョン➡シナリオ➡施策」の流れに沿って、実績と将来について数字のエビデンスとセットで簡潔にまとめることです。
 忘れてはならないのは、顧客(投資家・アナリスト)は企業の経営の展開の話を聞くために出席しているのであって会計の話を聞きに来ているわけではないということです。財務、会計はあくまでも補助です。
 かといって抽象的な説明に終始するのはイメージが掴めませんので、実績と将来、情報の粒度のメリハリ、バランスに留意しなければなりません。

2)IRミーティング進行

 社長ミーティングの場合は上記決算説明会と同様のスタンスで臨む必要があります。IR担当が行う場合も社長の代行というスタンスで臨まなければなりません。経営方針、戦略、強み弱みを社長の代行として簡潔に説明し、自信と誠意を持って臨むことが必要です。
 何れも部下を何人もつれていくのは非常に悪い印象となります。特にIR担当の場合は結構細かい専門的質疑になるケースもありますが、その場合でも怯むことなく、もしその場で応えられない場合があっても後日回答しますとお応えしたほうがよほど効果的です。

 なお、ミーティングの進行は顧客の意向に沿ってアジェンダを用意しておいたほうが効率よいし、スマートです。通常ミーティング時間は1時間が標準です。先方もどのようにミーティングを進めるかを描いて臨むことが多いので、まず先方の意向を聞いて、臨機応変に進行をアレンジすることが肝要です。ミーティングは時間厳守ですので有意義に効率よく終わることが好印象に繋がります。
 
 こういった配慮も顧客志向のマーケティングとして大切な要素です。

 

IRツール/サイト充実と役割整理/組織


 対話が出来ない状況での情報伝達手段として、現代はHPというITツールにより誰でも、いつでも、無料で情報取得が可能になりました。完全に情報の主導権が企業から顧客、社会に移転したのです。
 このように経営環境が激変したのですから、その目的、効果、コストを考えて運用を再検討する必要があります。

1)企業情報開示制度と課題

 企業情報開示は大別して、法定開示、適時開示、そして任意開示に分かれます。

各種類は下記です。

 従来の日本式デット経営の経済環境ならば法定開示主体に間違いを犯さず、つつがなく、従来の形式の資料を踏襲していれば良かったかもしれません。
 しかし時代は変わり、新たな投資家の獲得、そして既存株主にはより深い好意的な企業価値の理解、これらが投資家レベルの高低に関わらず促進する必要が生じています。そういった観点で見ると従来の情報開示だけでは内容、タイミングに課題があります。

 それを解決する手段・ツールを真剣に検討しなければなりません。

そこで、まず着手すべきは,IRサイトを含めた企業情報サイトの充実でしょう。

2)企業情報サイト(IRサイト)の充実

 HPはそもそも招集通知や株主通信のように対象者に企業側が一方的に情報を送付、見てもらうのではなく、ユーザーが能動的に閲覧することで初めて役割を発揮するものです。
 株主・投資家、或いは、将来の株主がどのような情報を求めているかを考え、内容を構成していく必要があります。情報が不足しているのは問題外ですが、見やすさにも配慮しなければなりません。例えば解りづらい、見づらい、サイト内回遊性が不足している等を避ける工夫が必要です。

 従って初めての顧客、投資家を想定して設計しなければなりません。


 IRサイトとして用意すべき項目は下記です。

  • 経営理念、経営方針、経営戦略

  • 事業理念、事業戦略、事業環境(市場、競合等)

  • 業績ハイライト

  • IRライブラリ

  • IRカレンダ

  •  株式情報

  • CSR,環境情報、コーポレートガバナンス

  多言語は外人投資家の理解を得るならば英語は必須です。特に決算短信は外人投資家、アナリストとコンタクトがない時点ではIRサイトに英訳を掲示していても先方からサイトに訪れることは、まずありません。
当方からメール配信することが必要です。

 
 昨今はコーポレートブランディングの高まりから、販売訴求する商品サイトとは別に企業情報サイトを充実する企業が増えてきました。
 そこで注意が必要なのはCSR,環境情報等の非財務情報です。前述したように投資家の関心は「投資が最終的に必ず何らかの企業価値向上、牽いてはリターンに繫がる」の一点にあります。ESG、CSR情報も企業価値向上に繋がるというストーリーを用意しておくべきでしょう。

 なお、企業情報サイト・IRサイトを充実することにより、既存資料は見直すべきです。株主通信が担っていた役割の多くはHPに吸収可能で、かつ、対象を株主限定から一般社会に大幅に向上できますので縮小が可能です。これを機会に総務、広報の役割分担も整理すべきでしょう。

 

*1)開示情報等詳細は拙著「ゼロから始めるIR」で後日紹介予定


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