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#1 マーケティングにより株価5倍

日経平均の動きにも業績変化にも微動だにしない自社の株価。そんな老舗の株価を上げ、時価総額を上げたストーリーを株価対策でお悩みの方々にご紹介します。

株価を上げるということ

私は老舗企業の森永製菓にて経営企画、コミュニケーション部門で企画、執行の両業務を経験し、リタイアしました。

広告部長時代に広告主社団法人の会合で新任部長さんが「広告経験が全くないのですがご指導宜しくお願いします」という挨拶を10年前頃からよく聞くようになりました。現場経験がなくいきなり責任者というのも油断ならない広告業界では多難だな、というのが当時の印象でした。

一方、私は広報も担当しておりましたが、2012年当時、所謂株式持ち合い解消が謳われるなかで、外部コンサルタントからIR(インベスター・リレーションズ)対策の必然性を指摘されておりました。ところが、前職の森永製菓は株価が日経平均や業績変化の増減にも微動だにしない、数十年低位安定の俗に言う塩付け状態の老舗企業でした。にもかかわらず、私ももともとIRのノウハウがあるわけではなく、まさしく上記の新任広告部長さんのような状態だったのです。

しかし、企業ブランドを価値提供するというマーケティング・セオリーを愚直に実践した結果、業績好調も伴い、株価/時価総額を5年で5倍迄に引き上げ、偏重していた株主構成もあるべき構成への誘導に成功しました。老舗企業にありがちな、株主・株価対策は決算対応だけという受動的広報活動に対し、戦略的能動的にIR戦略を実行するという180度変換を、まさしくゼロから始め実現しました。体験した5年間のこの変革ストーリーを株価対策で同じ悩みを抱える企業・ミドル企業人の方々に、是非お伝えし実践的に役立てていただきたいと考えました。

従って、これからご紹介するストーリーの読者ターゲットは上場企業のIR担当者、それも初心者で、俗に言う「いまさらきけないIRの話」を望む方々です。目指したのは、単なるセオリーだけではなく、また、ある固有企業のサクセスストーリーのHowToものではなく、誰でもが自ら習得して自身の自己啓発に活用し、実践に役立てること。その狙いから考え方やシナリオを重視している側面もありますが、従来の知識や技術の学びに加えて、それらの応用、自立に役立つと確信しております。是非自身の能力開発に活かし、ますます今後混沌とする経営課題の解決にお役立て頂ければ幸いです。

IRの本当の目的って、なんだろう

さて、IR活動なるものが何故必要かという、そもそも論をまずお話しします。

多くの企業は株主・投資家には配当を続けていれば良い、資本調達は金融筋から調達すればよい、情報開示は法定開示を遵守していれば良い、そもそも株価なるものは企業が操作できない受動的なものだと考えていると思われます。かつての私もそうであり、ことさら経営陣は課題視しない状況が続いておりました。

しかしバブル崩壊後、国際会計基準導入で日本金融業界は瓦解し、従来の企業と金融の持ち合いによるデット経営が困難となりました。元来「企業は社会の公器」であり、株主他ステークホルダーにとって資本政策を駆使しながら企業価値を上げる、即ち価値提供を続ける責務があります。企業は株主・投資家には最終的に経済価値を生み出す、即ちキャピタルゲイン並びに配当によるリターンを行い、企業と投資家・株主との価値提供⇔価値購買の良好な関係を構築しなければなりません。そう、単に銀行との関係を維持していれば良いという昭和の時代はとっくに終わったのです。

では、どうすれば良いか?

それには、株価やIRに関する、意識・考え方を変える必要があります。

その第1点は、株価とは受身・待ちではありません、誘導するものだ ということです。これは私も当初そうでしたが多くの方が勘違いしていると思います。株価は業績そのものや経営方針の影響に直結しますが、それだけでなく株式市場の需給影響も受けます。この市場の動きに出来るだけ影響を受けないように、リスクヘッジしたり、或いはチャンスを活かすことが基本的に必要です。

2点目。それには適正な株主構成を創ることがまず必要です。自社株を保有する、主に国内金融機関・海外機関投資家・個人投資家の三主体の適正なバランスを維持することです。何故なら各々の投資行動が同一でないため、株価の変動を抑える役割を果たしてくれるからです。従って理想は各々が同率で拮抗している状態です。

これらを実現するために数ある企業の中から顧客(投資家)に「企業という商品」を正しく理解し購買(投資)してもらうための財務機能とコミュニケーション機能を結合して行われる戦略的、全社的マーケティング活動が必要です。つまりIR活動を単なる広報活動と捉えていてはより良い成果は得られないということです。

ここにIR活動により適正な「株価」を実現し、企業価値を上げるという、本来の目的があります。

株主構成が適正になると、その結果、適正な株価が実現します。株価は投資家が将来得ると期待されるキャピタルゲインのリターンを反映したものですので、企業に対しての投資家からの信頼性が高まり、高い要求リターンも減ります。結果として株主資本コストが低くなり、他の企業価値増大に転用でき、企業の持続的成長に繋がります。また、企業価値(時価総額)が上がれば、本来の買収防衛にもなります。

近年グローバル新自由主義により、便利でモノは溢れましたが、一方で格差拡大、地球環境汚染、心の絆崩壊と様々な歪が露呈しました。昨今はその反省から、企業の社会的責任:CSRに社会問題解決を付加することは経営姿勢として常識になりつつあり、機関投資家の投資スタイルにもESG投資が急激に拡大しつつあります。コロナ禍はその傾向に拍車をかけました。正しい理解のために、財務アセットには表れない理念、想いといった非財務アセット(インタンジブルアセット)を投資家に説明することはIR活動の「質の高い情報開示」の重要な役割となります。また、機関投資家の考え、志向を経営にフィードバックし、経営に反映することもIR活動の重要な責務です。


2014年2月に「日本版スチュワードシップ・コード」が、同年6月からは「日本版コーポレートガバナンス・コード」が導入されました。これらは企業と投資家による建設的で目的ある質の高い対話により、企業の価値向上と持続的成長を狙った施策です。


現在の市場環境とこれから

今後ポスト資本主義として見直しが入っていくでしょうが、どのような是正が入るにしても経済がある限り、程度の差はあっても金融市場は外せません。その為に株価、株式市場の実態を知り、正しい対策を講じることは絶対必要です。しかも日本は長い間組織的思考停止が続いた為、経営効率、生産性と言った点で、先進国に比べ周回遅れの感が否めません。昨今話題となったデジタル化の遅れと同様の課題です。

これら難題に対峙するには「論理的・倫理的・社会的能力、教養・知識・経験を含めた汎用的能力」が必要となります。しかし日本人は一般的に決められたことはキッチリこなしますが、多様な課題に対して新たな視点に立って、適切な解決案を導き出し実践するのが苦手です。知識や経験があっても自社の現場の改革に活かせない、そのような悩みが多々あると思います。

私が改革を体験した5年前に比べ現在は海外投資家の日本市場熱もやや冷めています。また2022年からは経営の質を高め上場基準を厳しくした東証の市場再編がスタートします。ガバナンスや社会倫理を重視した経営はさらに望まれ、社会、経営環境はより厳しくなるでしょう。

しかし、基本に忠実にというスタンスはどのような時代、環境にも必須で、ますます必要となると思います。

効果に結びついたIRの実戦的基本的セオリーを今後5回に分けてご紹介していく予定です。

宜しくお願い致します。


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