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#5 IR活動の真実 ~価値生む具体策 基礎編part1

活動は行動によって価値を生む、つまり、実施する意味のあるものでなければなりません。本編からは価値を生む具体的な実践方法、所謂、「誰に」「何を」「どうやって」のHowToについて説明していきます。まず「誰に」伝えれば意味のあるIR活動が可能となるか、お話しします。

 

具体策の「質」を維持するために


 一般的にはこのHowToに特化、時には、この部分のみ紹介している情報や記事、書籍が散見されます。しかし、このHowToだけ覚え実践しても、企業の業界特性、企業風土、組織、人財能力差や、時代背景、環境のタイミング等の諸条件の違いにより当然ながら結果は異なります。

 従ってHowToを読者が活用するには、そのまま使うのではなく必ず読者、企業に合った微調整(チューニング)が必要となります。そのチューニングを行う際に、「価値」、「質」を落とさずにアレンジするには各実行策の意味合い、Whyを理解しておくことが必須です。意味を理解せず、成功方法を改造すると多くはバランスが崩れ、失敗することが常です。

 その「質」を維持するために、これまで基礎知識から始まりセオリーの概要を説明してきました。この「意味を理解する」という姿勢は新たに取り組む初期設計だけでなく、稼働後も経済環境、市場、競合、自社実力に併せて常に改善する必要があります。それがPDCAマネジメントの本来の目的であり、マーケティング活動たる所以です。

 

 さて、その「質」の必要要件は、「誰に」(ターゲティング)「何を」(情報)「どうやって」(イベント・ツール)発信するかの3要素です。

各々要件の詳細テーマは下記です。

 これら全てが自社の実力レベル・組織の実行力に合ったバランス良い総合力を発揮して活動しなければならない訳です。

 前職の改革の当初のPDCA計画は下記でした。それを全て一気に実施するのではなく、年度ごとに順次実行し、スパイラルアップしていきました。そこで基礎準備からミーティング改善、海外ロードショー実施により成果が表れた当初4年間の基礎編と次なるステージへステップアップした応用編の2パートに分けて説明します。


誰に:ターゲティング


ターゲティングのプランニング

 まず、ターゲティング、即ち投資家マネジメントの基本です。あるべき株主構成を構築するためにどのような投資家に投資してもらうかというターゲティング方針を決めます。ミーティングはその実現のための実行手段です。

 但し株主は「選択的ステークホルダー」、即ち企業が選ばれる立場ですので、必ずしも企業の方針通りにミーティングが実現できるわけではありません。従って投資家からのミーティング申し入れは基本的には応じますが、先方の意向に沿ってただ流されるだけでなく、意思を持って臨むことが必要です。それがプランニングです。

 前職では国内外優良機関投資家を優先とし、個人投資家の優良化は優先度を下げました。また、既存株主(Holder)と新規開拓では、まずは既存株主を優先し順次非株主を攻めるようにセグメント化しました。

 この基本方針に沿って具体的投資家の選定に入ります。これはIRデータサービスにより主要機関投資家の保有状況を掴みます。各投資家の自社、他社の保有状況、それを現在のみならず過去の状況も調べます。同時に海外投資家であれば、日本株運用資産額並びに日本株運用資産額に占めるセクター資産額をみて、日本株組入れのポテンシャルも把握します。自社の保有状況の詳細は株主判明調査により可能です。

 以上を総合的に勘案し自社の株主構成の安定性を高めるために有利な個別投資家の選定をHolder(株主),Taget(新規開拓),両セグメントに行います。これが投資家選定戦略立案業務です。

 優先度の基準として、まずActive運用を対象とし、機械的に決められるPassive運用はミーティング効果がないので外します。次に投資スタイルと「運用自由度」即ちファンド・マネジャーの裁量権により優先付けをします。その結果、投資スタイル優先度は

Growth>Generalist>GARP>Value>HF(ヘッジファンド)

とし、国内より海外投資家の優先度を高くします。投資スタイル順は、そのままファンド・マネジャーの自由度の高さを意味していますので、どのセクターでも共通といえます。

 

ミーティング実行

 ターゲット投資家を絞ったらミーティング実行です。ミーティングは先方を個別訪問する1on1ミーティングが基本です。但し必ずしも全て訪問するわけでもなく、電話会議、WEB会議で対応することもあります。エリア、優先度により方法は選択します。また、重要投資家にはトップミーティングも時にはセッティングします。

 先方は裁量権があり時間的余裕がない「FM(ファンド・マネジャー)」を最優先とし、逆に分析主体の「アナリスト」は複数まとめて対応するスモールミーティングを駆使することも考慮します。

 昨今はオンライン主体ですが、コミュニケーションの微妙なニュアンスを伝えるにはやはりリアルが効果的です。

 また証券会社のIRアレンジについては国内投資家向けアレンジでは質の優劣は付け難く結果として量の勝負となりがちです。一方トップとのミーティングが主体となる海外投資家向けアレンジ(海外ロードショー)では対応が異なるので、有効に活用しなければなりません。

 

チェック&アクション

 ミーティングの実施により本来の目的、「あるべき株主構成構築」にむけて成果が上がっているか、即ち投資されたか否かを検証します。

 実際の結果は株主判明調査を待たなければ解りませんが、それまで手探り状態というのはマネジメント上もリスク管理上も課題が残りますので以下の運用体制を導入しました。

【月次】 : 毎月末1回、IRデータサービスの投資家最新情報を取得。投資家ポートフォリオ管理表(投資家カルテ表)を更新し、直近の四半期データと比較し増減を予想する。同時に競合の最新情報も取得し比較分析する。【四半期】 : 最新の投資家カルテ表から四半期決算ミーティングの優先順位を意識してスケジューリングする。
【半期】 : 株主判明調査により保有状況詳細を取得(3月/9月)。IRデータサービスの情報と比較し増減予想の正否を確認する。
【年度】 : 年に1回、投資家カルテ表の優先順位の見直し実施(3月)

 

 上記の運用に欠かせないツールがIRデータサービスと投資家ポートフォリオ管理表(投資家カルテ表)*1)です。

投資家カルテ表

 投資家カルテ表は投資家毎に優先度IRデータサービス情報(最新/直近)増減、株主判明調査情報(最新/直近)増減、投資スタイル(Active or Passive)(スタイル)、売買回転率、ミーティング状況(誰と何時、何処で、どのような内容か)を一覧で把握できるようにした前職(筆者)のオリジナルデータベースです。
 このカルテの分析・評価により自社のIR活動の状況・進捗が把握出来ます。そして「投資家ターゲティング」といった、能動的、主体的な行動が可能となります。こういったマネジメントスタイルの確立によってターゲティング、投資家とのアクセスの拡大、それに経営層を巻き込んでゆく、この手順をきちんと踏むべきでしょう。

 もちろん、ミーティングがいくら効率よく実施されても、肝心要のミーティングの中味が顧客満足を果たせない、即ち適切な情報発信が出来なければ元も子もありません。次回は何を(情報)どう発信するか、その内容について説明します。

*1)投資家カルテ表他詳細は拙著「ゼロから始めるIR」で後日紹介予定

 

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