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#8 ゼロから始めるIR~番外編

 これまで考え方から具体的実践方法までお話ししてきました。
タイトルにあるように「ゼロから始めた」わけですから、紆余曲折が多くありました。
その失敗談やヒントのいくつかを今回はご紹介します。


貴社のような無責任な発行体には投資できない


初期のミーティングでの失敗談です。

 ミーティングで先方の外人投資家からブランド別エリア別損益情報を質問されましたが、回答に窮してしまいました。もちろん、ディスクロージャーコードがありますから全て開示出来るわけではないのですが、実態として連結ベースの詳細な損益を社内情報としても把握してなかったのです。

 その一瞬の応対から「持っていない」という印象を先方に与えてしまったものですから、先方は不快の念を露わにしました。
「我々はスポンサーから何百ミリオン$の資金を預かって運用している。そのような無責任な発行体には投資できない」とミーティングを早々に中断されてしまいました。
コミュニケーションの拙さとして大いに反省しました。

 実はこれには後日談がありました。

 その投資家はもともと前職株を長年持っていたのですがあまりに不動なので直近で売却していたのです。
 ところが売った途端にちょうど値上がりしたものですから、その時点でも機会ロスを被っていて、ミーティング時はもともと大層印象が悪かったようです。

 その後、すぐに前職株を買いなおし、順調に値上がりしたものですから、翌年海外ロードショーで訪問し再会した時は、そのファンド・マネジャーは満面の笑顔でハグして迎えてもらえました。


GICのお褒め


 筆者が海外ロードショーを行ったときは筆者と担当と2人で回りました。各ミーティングでは経営方針、戦略、強み弱みを社長の代行として簡潔に説明し、質疑も行いました。

 シンガポールの投資家(昨今西武プリンスHDを買収したGIC)からは「日本の担当者は何人も部下を連れて訪問する割には有意義な議論が出来ないことが多い。貴社は珍しい」とお褒めの言葉をいただきました。

 どうも日本企業は黒服をきた担当者がゾロゾロと何人もつれてくるが、無言の出席者が多いようです。彼らはミーティングで発言しない出席者は無用と判断します。まして出張費をかけて出席するのですからなおさらです。
担当者も社長プレゼン同様、自信と誠意を持って臨むことが必要です

そのプレゼンの仕方の良い例があります。

 晩節を汚してしまいましたが、見事にV字回復を実現した元日産CEOのゴーン氏の話です。
 日産経営を預かることになった当初、記者会見で盛んにコミットメントを宣言し、長時間原稿も見ずに発表していました。
ある時記者が“何故長々とそのように何も見ないで話せるのか”と質問したそうです。
 氏が答えました。“あなたは恋人に思いのたけを伝えるのにいちいち原稿を見て話しますか?私は日産の復活を真剣に考えているのです。”

 やはり自分の言葉で話すのはかなり重要な要素であります。

 但し内容が伴わなければなりません。トップの『想い』を述べるとはいえ、可もなく不可もない抽象論や精神論に終始してはいけません。思想家ではなく経営者ですので経済論理性と数字の組み立ては必須です。
 とはいえ、間違いを犯してはいけないからとスタッフが用意した資料を丸読みするというのは最悪です。昨今はプレゼン資料を画面表示しながら説明することも多いのですが、画面を見ながら説明者に背中を向けて話すこともタブーです。
 きちんと会場出席者に向いて話すべきです。

 

情報の些細な改善


 投資家目線の情報の端的な例はPL内訳費目の売上比、前同比及び比較の追加でした。

 決算短信では多くの企業がそうであるように当期、前期の実額しか表示していません。毎決算時、東証で筆者が発表する際に会議室で資料を見た記者は必死にその場で電卓を使って売上比、前同比を計算し、増減割合を判断して短い時間の間に筆者に質問していました。

 売上比、前同比などは秘匿するものでも何でもなく計算すれば直ぐ解るものです。予め用意するというのは最低限のサービスでしょう。
売上ドライバとなる広告費、販促費なども後日有価証券報告書に記載されますが、この有価証券報告書が追加に追加を重ねた資料(まるで増築を繰り返していびつになった家のようです)なので探しづらく、時期的にも遅い。
 
 開示資料の改善としてまず上記を補足資料として追加しました。顧客視点のサービスと考えてもほんの些細な情報ですが、当たり前のように役立ちます。
 
 相手の立場になって考えると様々な改善がみつかります。



 さて、ゼロから準備をして5年、一定の成果を上げて一巡しましたので、次回から更なるステップアップについてお話しします。


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