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詩作集・天網恢恢

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この世界はみんなで見ている夢にすぎない。そこを出発点として。
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#コラム

#9 祭りのあと、天竺に魂をしずめて

#9 祭りのあと、天竺に魂をしずめて

きみは魂を沈めるのか、鎮めるのか。それとも静めるのか。

心は硝子(ガラス)の器にあふれる濁り水のようなもので。

そっと静かに置いておけば、水を濁らせていた泥は器の底に沈んで、きみの落ち着かぬ心はやがて鎮められてゆき、少しずつ透き通り、いつの間にか澄み渡り、そして体の隅々までも良気が満ち渡る、そうだ、しみじみと高気が冴え拡がる。

扉の向こう、窓の向こうには、眩しいほどの曇天の下に駐車場として使

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[随想詩] 言の葉のさざ波立って風涼し

[随想詩] 言の葉のさざ波立って風涼し

そうです、これはある類型の、
絶対的に言葉には写しえない、
この身のうちにまさに今この瞬間やどっている、
不可思議奇妙な気分についての、

そもそも言葉というものは、
この世界で生じる現象の、
不完全な写像(マッピング)にしかすぎないのですから、
いくら地図をよく読み解いて、
そこに描かれているすべてを頭に入れて、
そのすべての相関関係にまで思いを至らしめたとしても、

所詮地図は地図でしかなく、

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[随想詩] 自己充足と相互承認としての世界

[随想詩] 自己充足と相互承認としての世界

数学の世界の初めに空集合があるように、宇宙の初めには無限小の一点があり、空集合がゼロから初めてイチ、ニ、サンと無限への階段を歩み続けるときに、宇宙は一挙に爆発して素粒子の踊りを始める。

渾沌の玄妙空無なる道(タオ)から生まれいでたぼくたちは、不可思議な個別性を背負って旅に出ることになった。

個体という容れ物の中に臓器と魂を収めて、やがて訪れる死という次の旅立ちのときまでを、浮き世でヤドカリのご

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3.11+3.11i

3.11+3.11i

今日しか書けないことがある
だから今日書く

今ここで感じていることを
今ここで書く

生きる苦しみも喜びも
すぺて書く

あの日の絶望を忘れずに
あすへの希望を書く

今日は書けないことがある
だから今日は書かない

今ここで感じていることなど
言葉にできるわけがない

生きる苦しみも喜びも
味わうしかない

あの日の絶望を手放して
あすへの希望を忘れて

実在に虚在を足し合わせたとき
真実が現

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[全文無料・小さな詩]天人午睡

[全文無料・小さな詩]天人午睡

とことん
眠りにうつつを抜かすのだ
午後の白い光の中

安宿の
くたびれた寝台の上で
寝返りを打つきみは

悪夢未満の
寝心地の悪さが身に沁みて
脳の芯まで浸して

切りのない
寄せては返す自己否定の
波また波の珊瑚の浜を

いつか見た
砂漠の駱駝に重ね見て
奈落の底を仰ぎ見て

そうだ
まばゆい地獄へと昇ろう今こそ
微熱に包まれた背中には

かげろうの羽
光きらめかせ軽く風に乗って
重力のくびき

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