見出し画像

5.12(83/89日目) 廃墟宿

深夜1時、めずらしく時刻表通りにノルド駅の21番ホームからバスが出発しマドリッドへ向かった。

「ENATCAR」のバスは装備も充実していて、相変わらず座り心地もよかった。

深夜便なのでさすがに車内は空いていた。スペイン語の歌が流れるラジオを聞きながらバルセロナの街とお別れ。市街地のオレンジ色の街灯をしみじみと眺めていたら再びうるっときてしまった。

絶対にまた来よう。

バスはいつものように前を走るトラックなどを煽りながらかなりのスピードで疾走し、サラゴサまでの3時間は休憩なしで一気に走り続けた。

午前4時過ぎ、サラゴサに到着しターミナルに降りたが店は全部閉まっていた。今までの深夜バスは夜中に着いても何らかの売店は開いていたと思ったが。休憩を終え4時45分、マドリッドに向けて再出発。またまた猛スピードで駆け抜け、朝8時30分にマドリッドの南バスターミナルに到着した。スペインを3分の1週してきたことになる。

再しぶりにマドリッドに帰ってきた。

このターミナルからトレドやグラナダに行ったのを思い出す。しかしバスの冷房が効きすぎていたせいか、鼻の奥が染みるように痛く感傷に浸っている気分ではなかった。

メトロでSol駅まで行き、この旅の初日に行ったマヨール広場のインフォメーションオフィスで再びマドリッドの地図をもらい改めてマドリッド市内の位置関係を再確認。バルセロナの開放的な雰囲気とは真逆で、大人しく上品なマドリッドの空気が懐かしく思えた。

バルセロナで出会ったギターの黒田さんから、マドリッドに一泊1,000Ptsという破格中の破格の宿があると話していたのを思い出し、教えてもらった場所に地図を見ながら訪ねてみた。

徒歩30分、目的の宿を発見。
1階の扉は開いていたのでそのまま中に入り、エレベーターで3階まで行ってみた。

エレベーターを降りると、シーンとしていて人の気配はなく受付のあるエントランスのドアも開けっぱなしだった。窓からの日の光でかろうじて室内の家具などの配置が確認できるが、ホテルとは到底思えないほどガランとしていた。

受付からはホテル感があまり感じられない、というかここは空き家かというくらい何もない。ギシギシと鳴る床を歩き奥まで進んでみると、大きめの窓とダイニングテーブルがあるリビング的な部屋があり、受付よりは明るかったが相変わらず人が住んでいる気配はまったくなかった。

一度1階まで降りて改めてチャイムを押してみた。しかしチャイムが壊れているのか、鳴らない。

もうホテルは廃業してしまったのだろうか。バルセロナに続き格安のホテルはまたも幻に終わってしまうのか...。

再び3階に上がり、リビングからさらに奥に進んでみると、ほこりが被った棚やイスなどが乱雑に置かれていて、到底ホテルと呼べる雰囲気ではなかった。はっきり言うと廃墟である。

そういえば旅の前半で、オバケ屋敷かと思うくらい真っ暗闇になるホテルに泊まって怖い思いをしたが、ここの雰囲気はドラッグ漬けのヤバいやつが部屋の隅にうずくまっていそうな感じの怖さを感じさせた。

いくら呼んでも待っても人が来ないので半ば諦めつつも、ダメ元で公衆電話から電話をしてみることにした。

すると、10コール程待ったあと、年配の女性が電話に出た。

...、あの部屋のどこにいたのだろうか...。
ゾワッと鳥肌が立った。

まさか電話に出る人がいるなんて思っていなかったので、一瞬頭が真っ白になったが、

「一泊したいが、部屋は空いてますか?」

と言うと電話の女性がものすごいマシンガントークで何か言い返してきて、右耳から左耳にオノマトペが突き抜けるくらの勢いで電話をガチャリッ!と切られてしまった。

部屋が空いていると言っているようには到底聞こえなかった。おそらく交渉不成立。

深追いするのはやめた方がいいと直感が訴えてきたので諦め、別の宿を探すことにした。
体調がいまいち良くないという事もあり、地球の歩き方にも載っていた日本人経営の宿に行ってみることにした。

Pensión Árbol del Japón。

空き部屋はあるか聞くと丁寧に部屋の説明をしてくれて、ダブルの部屋しか空いていないがシングル料金で泊まらせてくれると言ってくれた。

明日シングルの部屋が空くので今日はここで我慢してとのこと。

日本人ばかりの宿はバルセロナのチキートで懲りているが、この体調だということもあるので、最後くらい贅沢をしてもいいのではと自分を説得し、少し高いが日本に帰るまでの5泊をコチラでお世話になることにした。
星なしのホテルだが、日本語が通じるという点ではホテルリッツ以上の贅沢なサービスである。

チキートと同じく決まり事が他のホテルより多いが、主人はとても良い人そうだしホテルの雰囲気も自分好みだ。
13時まで清掃で入ることが出来ないと言われたので、一旦宿を出て大量のフルーツを買い込むためにメルカートに向かった。

するとマヨール広場に通じる道路でお祭りの準備らしきものが行われているのを見かけた。マヨール広場に行ってみると「San Isidro」と書かれた幕が貼ってあった。祭りが近いうちにあるのかそれとも終わったばかりなのかは分からないが、つくづくスペインは祭りの多い国である。

14時前にチェックインし、かぜ薬とビタミンたっぷりのフルーツを一気に摂取してすぐにベッドに横になる。
6時間後、爆睡から目覚めたが体調は変わらず...。そのまま一晩寝て、翌朝治ることを祈る。

本日の出費

朝食 600Pts
メルカート 400Pts
メトロ回数券 670Pts

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?