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#ギュンター・グラス

グラス 詩抄 (5) Translated by Toshiya Kawamitsu

グラス 詩抄 (5) Translated by Toshiya Kawamitsu

  ひとりごと

たった ひとりで ことば 噛み
溶けてしまって 彼に 聞く
わたしは 彼に 聞かれてる
彼は わたしで 説得で
意見で うそで 泣く 笑う

雰囲気よくて 機嫌 よく
だけど ふたりは いつわりで
顔を 見あわせ 吹き出して
なんにもいらない 塩 少々

だまった 彼に 話しかけ
死んだ友達 知っていて
多すぎる 敵 知っていて
指おり 数える いま 彼も

すべての女を 数えあ

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グラス 詩抄 (4) Translated by Toshiya Kawamitsu

グラス 詩抄 (4) Translated by Toshiya Kawamitsu

  郵便カタツムリ

長い手紙を 友人へ
死んでしまった 友人へ
かなしく みじかいなら 愛へ
すぐに 消え去る あの 愛へ
ときどき とても あいまいで
時間を つらぬくほど 鋭利
時間がとまったかのように

あせりと 倦怠 やせていく
いま に ついても 話そうか
ことばに 酔った 目撃者
株式市場の顧客さま
なにが 子供になるだろう
何人 孫が いるだろう
どんなことばが 生きている
どんな

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グラス 詩抄 (3) Translated by Toshiya Kawamitsu

グラス 詩抄 (3) Translated by Toshiya Kawamitsu

  夕焼けの殉教者

子供のころは 神さまが
いつも すべてを ごぞんじで
ジュッターリーンの壁の文字
こわがる わたしを 凍らせて
いまは 神さま いなくなり
頭上の無人偵察機
百の目 光らせ 眠らずに
忘れないよう ノート とる
祈りのかけら 口にして
慈悲と ゆるしに 口ごもり
子供のころの 口ずさむ
ベッドのひととき 思い出し
ささやくように 告白し
わたしの心に 告白し
天上 あなたに 

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グラス 詩抄 (2) Translated by Toshiya Kawamitsu

グラス 詩抄 (2) Translated by Toshiya Kawamitsu

  無限線上

立ちのぼる いま 沈殿は
足あと できて はにかんで
あわてて もどる 底のほう
つまずき ころんで 坂の下
自分で自分をつかまえて
ふらつき だけど けがもなく
橋のたもとに ころがって
くるりと まわって 気をつけで
マークタイムを もう一度
出かけよう マーチ まっすぐに
道に迷ってしまっても
かかと 鳴らして もう一度
見つけられると 信じてる
風景は 丘 いいえ 顔
彼女

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グラス 詩抄 (1) Translated by Toshiya Kawamitsu

グラス 詩抄 (1) Translated by Toshiya Kawamitsu

  あたらしい葉に

赤いチョークで えんぴつで
ガチョウの羽根ペン インクに ひたし
シャープペンシル それとも 絵筆
シベリアの森の木炭で
水彩 えがく 水彩の上
黒には 黒を 白には 白を
灰色 かさねる うろこ雲
影から 銀の きらめきを 生め
詩神のくちづけ わたしを起こす
死の眠りから 光のなかへ 赤裸々に
葉と 葉と 葉と 葉
黄色に 憑かれ
からし色には 魅せられて
赤く 燃やされ

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