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落下傘ノスタルヂア(14)終
「だから」
と微妙に節をつけ、吐き捨てる。何度もこの言葉を繰り返しているらしいぞ、と気づく。
だから、と言うたびに、奈津美のほうは、はあ、と語尾をきつく吊り上げる。だから、と、はあ、の相乗効果で、ただの道案内が、だんだん口論らしくなってくる。
「バスターミナルに着いたでしょ、バス。で、まっすぐ来たね。そしたら、でかい道に出たでしょ。そこで右に曲がる。曲がったね」
「曲がったよ、たぶん。分かんな
落下傘ノスタルヂア(13)
山本が置いていったハッピは、ぺらぺらしていて、最悪の着心地で、通気性も悪く、ごみぶくろでもかぶったような感じがする。佐藤が、それなら脱げばいいと、口をとがらす。
「いや、もどってくるまで着てる。テントのなか、すずしい。座れるし」
「まあ、いいけど」
となりで、佐藤もおそろいのハッピをはおっている。ヨーロッパの街にも似て、教会を中心に、宿舎と宿舎のあいだへ放射状に道が通っている。教会にあたるのは
落下傘ノスタルヂア(12)
「で、どういう意味だと思う」
「分かんない」
「考えようともしてないじゃないか。考えろよ」
「いや、本当に分かんない。え、なにそれ。やどかり、って」
「なんでしょう。分かる、分かる。十分ヒントあたえたはず」
「分かんない」
「もういいよ、じゃあ」
「なに」
「十秒でいいや、まじめに考えてみな。いち、に、さん、し、ご」
うねうね曲がりくねった縁石を綱わたりしてきて、どこまで来たのか、そろそろたしか
落下傘ノスタルヂア(11)
この前泰子たちと入ったときは、カレーの具になったような気分だったが、ひとりきりでつかっていると、また別のおもむきがある。天窓から、まっ白な光が、サスペンションライトのように降りそそぐ。わたしの目の前で、星雲の映像みたいに、お湯の表面をきらきらさせている。天窓のむこうは、あの天窓さえ越えれば、と、お尻をすべらせて、耳まで沈みこむ。そうか、アンドロメダまで一直線なんだな、と思う。
朝風呂、といって
落下傘ノスタルヂア(10)
「学習しない人間は馬鹿だ。成長しない人間は、くずだ」
生きているだけで十分、みんな人生とうまいこと折り合いをつけようと、がんばっている。わたしはそういう博愛主義者なので、泰子のありがたい箴言にも、ちょっと賛成しかねる。とはいっても、いまのわたしは貯金を食いつぶしながら、お店の座敷で生活、というか座敷に生息しているだけで、馬鹿かもしれず、くずかもしれない。学習、成長、たぶんわたしにあてはめると、奈
落下傘ノスタルヂア(9)
「どんな子ですか。かわいいですか」
「さあ。ふつうだと思いますけど。でも、若いぶんだけでも、わたしなんかより、ぜんぜん」
「そうですか。まあ、別にそんなことで採用かどうかなんて、決めませんけどね」
「いい子ですよ。素直で」
店長は、わくわくするのをまったく隠さず、さっきから泰子のことばかり言っている。自転車をあいだにはさんで、なにか聞こうとするたびに、こちらへにゅっと首を伸ばしてくる。
「そんな