ピンチをピンチに! ~ハブタエンヌは眠らない~ その9


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  *  *  *

 神棚の骨ガムを探すコブタエ。

「あれ? ないですね」

「俺が探す」神棚を夢中で探すシロネ。

 そこに、シンケイが入って来た。

 シロネの姿を見つけたシンケイが問う。

「いかがいたした?」

「骨ガムどこだよ!」

「それなら、ブタエが持って出かけたが」

「何で!」

「なぜブタエ姉さまが?」首をかしげるコブタエ。

「骨が二つに割れていたので、金継ぎ師のところへ遣わしたのだ」

「ガムはいつ戻る?」焦るシロネ。

「修繕に4日はかかりそうだと、ブタエから連絡があったところだ」

「それじゃ間に合わねえ!」頭を抱えるシロネ。

「そのままいったん戻すか?」シンケイが聞く。

「じゃあ、そうして…いや、折れたまま犬狛国に渡すわけには…」

「骨ガムを渡すのを待ってくれるよう、王女にお願いに行きましょう」コブタエが言う。

「だが王女に断られた時、あの犯人が4日も待ってくれるとは……」うつむくシロネ。

「諦めちゃダメです! 出来るところから、ひとつずつ解決するんです!」

「コブタエ…」

「とにかく王女のところへ行きましょう」

「そうだな」

 部屋を出ようとしたシロネが、ふと気づいた。

「ちょっと待て。おまえは執事のフントに顔が割れてる」

「変装します」

 白いロングローブの上に緑の葉っぱをまとうコブタエ。

「柏餅です。これならバレません」

「ああん?」眉間にしわを寄せるシロネ。

「大丈夫。シロネとクロネくんのために、ピンチをピンチに変えてみせますから!」

 コブタエは強いまなざしでシロネを見つめた。

  *  *  *

 マイヌの前で、深々と頭を下げるシロネとコブタエ。

「どうかお願いします」シロネが頼む。

 マイヌの横にたたずむフント、メガネを少し上げ、コホンと咳をする。

「先にツナ缶を渡した場合、骨ガムがこちらに渡る保証はございませんが」

「そこは信用していただくしか…」

 シロネが言うと、フントは待ってましたとばかりにマイヌのほうを見る。

「姫さま。では例の件を条件にしてはいかがで…」

 マイヌが、コブタエが持参した山盛りの羽二重餅に手を出そうとしているのに気づいたフントが、険しい顔になる。

「姫さま! 餅など食べている場合ではございません!」

 ちらりとフントを見るが、羽二重餅をパクリと頬張るマイヌ。

「姫さま!」

 マイヌに駆け寄ろうとしたフントがコブタエとぶつかる。コブタエのまとっていた葉っぱが落ちる。

「わっ」慌てるコブタエ。

「失礼いたし…ああっ。おまえはあの時の金庫破り!」

 コブタエの正体に気付いたフントが叫んだ。

 とっさにコブタエが頭を下げる。

「この前はごめんなさい! 怖くて逃げちゃったんです」

「盗人が何を言う!」

「盗人ではありませんから!」フントに言い返すコブタエ。「羽二重餅を献上しに来た時に、パラグライダーから落ちてしまったんです。それで塔の屋根を突き破って、金庫の上に落ちたら、倒れて金庫の扉が開いちゃったんです!」

“…そうだっけ?”顔をしかめるシロネ。

「そんな言い訳が通用するか」フントが声を荒げる。

「もうよい、フント」口に付いた片栗粉をナプキンで拭いながら言うマイヌ。

「ですが姫さま…」

「いわば過失です。その程度で壊れる屋根と金庫にも問題があるのでは?」

「姫さま…」

「おいしい羽二重餅が食べられたのは事実です。その件はそれでよしとしましょう」

「恐れ入ります」マイヌに頭を下げるシロネ。

「いいえ~ん」マイヌの尻尾が大きくバタバタと動く。

 フントが苦々し気に言う。「わかりました。シロネ王子、お供の方の件は大目に見るとしましょう」

「かたじけない。それではツナ缶の件に話を戻します」

「あ。ちょっとお待ちになって」マイヌがシロネに微笑む。

「何か?」

「彼女には…」コブタエを見つめるマイヌ。「次回、シロネ王子がいらっしゃるまで、私の元にいてもらいます」

「コブタエに?」

「私に羽二重餅を作るのです」

 マイヌの満面の笑みを見たフントとシロネが顔をしかめた。

 咳払いするマイヌ。「とにかく、この程度の交換条件は必要と考えます」

「わかりました。従います」コブタエが言う。

「でもおまえ、ハブタエンヌ試験が…」

「試験でしたら、ツナ缶引き渡し日の午後ですから、ギリギリ間に合います」微笑むコブタエ。

「だが…」

「大丈夫ですから。それに、美味しいと言って下さる姫さまに、もっともっと羽二重餅を食べていただきたいです」

「まあ! 話のわかる子だわ」口元によだれが浮かぶマイヌ。

「では、よろしく頼む。コブタエ」

「はい」

 部屋を出ていくシロネ。閉まったドアの外で、コブタエに深く頭を下げると、急ぎ廊下を駆け抜けていった。

“俺は俺で、自分にできることを精一杯するんだ”

 マイヌは手元のハンドベルでメイドを呼んだ。

「コブタエちゃん。お部屋に案内させますから。どうかゆっくりとおくつろぎになって」

「ありがとうございます」

 コブタエは、メイドと共に部屋を出て行った。

 その後も、羽二重餅を食べ続けているマイヌ。横にいるフントが苛立たし気に言う。

「せっかく、あの話を持ち出すチャンスでしたのに」

「だって、おいしくて、それどころじゃなかったんですもの」

「その食いしん坊が、今のピンチを招いているのですぞ!」

 フントに叱られ、不満げなマイヌ。

「で、そっちは間に合うのかしら?」

「二日後までに何としてでも」

 フントは低い声で答えた。

  *  *  *

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