旅はいよいよバロチスタンへ
シンド州の旅を終え、明日にはバロチスタンに入るという夜、ハイデラバードの街に宿をとった。毎日の出会いに興奮していたこともあるが、一晩中続く騒音が僕の眠りを浅くしていた。日の出前にベッドを抜け出し部屋の窓から街を見下ろしてみる。空気はかすみ、遠くでコーランが聞こえてくる。
パキスタンへの入国ビザは持っているとはいえ、州を超えるにも特別な許可が必要だった。ここからは州警察の同行が必要なエリアで、僕ら観光客が自由に旅をすることは許されていない。これまで以上に緊張感が漂う。
今回護衛してくれたのが彼。これから先、寝るのも食事も、ずっと一緒に過ごすことになったのだが、彼の話は後ほど触れたいと思う。
今回向かった場所は、ホテルなどないエリアの旅なので、アラビア海に面したビーチにベースキャンプを作る。昨日までの霞んだ空とは違い、星が煌めいていた。北部パキスタンに比べるとこれでもまだ霞んでいるというが、星が水面に映り込むほどの星空だった。
この地に暮らすのが彼らバローチ族。都会からはるか離れた場所に暮らす遊牧の民だ。背景に見える泥火山の風景も旅のハイライトなのだが、なによりも彼らとの出会いがこの旅を豊かにしてくれていた。僕はドキュメンタリー作家ではないけれど、純粋に彼らと対話したいという衝動が生まれたのも事実だ。
(つづく)
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