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シンド州の奥地へと

ハイウェイを外れて車は山岳地帯へと向かい始めた。時折現れる集落のようなものも徐々に規模が小さくなり、人影もまばらになっていく。バザールのようなものも通過するが、これまでの人通りと比べれば静かなものだ。途中、ラクダをトラックに乗せている人々に出会った。どうやらラクダ市が開かれていたようで、買い取られたラクダを町へと運ぶのだという。ラクダも自分の運命を感じているのだろうか、必死に抵抗してトラックに乗ろうとしない。大勢の男たちが寄ってたかってラクダを押したり引いたりを繰り返している。

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農場では綿花畑で作業する家族と出会った。彼は小学生くらいだろうか。たくましい手と足に鋭い眼光。アックスを担いだ姿が頼もしい。学校には通ったことはないという。学校へ行く時間があれば家の手伝いをするというのだ。同じ時代に生きながら、これほどまでに環境が異なるのも世界の現実なのだ。それでも彼の目に一転の曇りもない。まっすぐに前を見ている姿が印象的だった。

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この集落を超えた辺りから次第に悪路になり、何度も川を渡り始める。道はあるようだが、所々崩壊しており急にペースが落ち始めた。この先は遊牧民しか暮らしていないエリアのようで、人の姿は全く見えなくなっていた。川を渡り、瓦礫の間をすり抜け、車はゆっくりと進んでいく。あいにく前日までの雨で道は泥濘み、さらにペースが落ちていく。

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どれくらい走っただろうか。距離にしてはそれほどでもないのかもしれないけれど、随分と奥地にやってきたような気がする。周りの景色は昨日までとは全く異なり、岩と低木に覆われた山岳地帯だった。人の気配など全くなく、この先に遊牧民の集落があるとは到底思えないような奥地。仮にあったとしても、車など持たない遊牧の民がバザールのある町まで行くのに、一体どれくらいの日数がかかるのだろう。

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そんな時、突然民家が見えてきた。家というには質素だが、確かに人が暮らしている様子だ。家畜もいて暮らしの痕跡がそこかしこにある。ふと見ると、家の玄関と思われるところに子供の姿があった。こちらの様子を訝しげに伺っている。目を斜面に向けると、この家の主人と思われる男性がこちらに向かって歩いているのが見えた。ガイドを通じて話をきくと、この場所に住んで3世代目なのだという。女性は周囲に生えている草でマットを編んでいる。なんて慎ましやかな暮らしだろうか。僕らはお礼にマットを1枚買い、彼らのもとを去った。

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(つづく)







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