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バローチの集落へ

車はナショナルハイウェイを離れ、インダスハイウェイへと入っていった。この辺りから風景は農村地帯へと変わっていく。綿花畑や麦畑が広がり、遠くには遊牧民と思われる集落も見られるようになった。きっとあれはバローチ族だよ、とガイドが教えてくれる。車を停めハイウェイから徒歩で集落へと近づいていくと、集落の長と思わしき男性が近づいてきた。バローチ族はとても保守的な民族であり、外国人が近づくことはおろか、写真撮影などもってのほか。特に女性に関してはさらに保守的なのだと言う話は聞いていた。他の男性に笑顔を見せただけで殺害されてしまう、なんていう嘘のような本当の事件もあるというほどだ。だから、僕らは車の近くで待機し、ガイドに交渉をお願いする。旅の間は基本的にこの繰り返しだ。そうしないと、会話すらできない。

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この集落では結果的に交渉がうまくいった。照れながらではあったが、こうして写真も撮らせてもらうことができたのはラッキーだ。この美しい民族衣装はバローチ族の特徴。女性は特にこのように着飾っているという。決して豊かな暮らしではないだろう。ただ、貧しいとも思ってはいないはずだ。この暮らしが全てであり、どのような変化も望んでいない。そう感じた出会いだった。

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その後、僕らはバザールに立ち寄ることにした。きっと外国人が来ることなどないようなバザールだから、僕らはすぐに人に囲まれた。だれもがフレンドリーで握手を求めてくるし一緒に写真を撮って欲しいとスマホを出す青年もいる。僕は騒然とした雰囲気の中を少し歩いてみることにした。

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こうして仕事終わりにバザールに来てチャイを飲むのが楽しみなのだとガイドが教えてくれた。娯楽が少ないため、これが唯一の楽しみなのだという。幸せの価値観は、その人が置かれている環境で変わるのだというのを実感する。豊かになりすぎた日本では考えられない。

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いよいよ明日はバローチ族が多く暮らす山岳地帯へと向かう。こういったバザールともしばしのお別れだ。ハイウェイのように整備された道も今日で終わり。明日からは道無き道を進むアドベンチャーの始まりだ。

(つづく)

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