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末っ子理論


もう何年も一緒に音楽活動している友人、岡林立哉。
彼にはハッとさせられることが多い。
付き合いが長くても、何か心に刺さる言葉を言われる時があるのだ。

最近のマイブームになっているのが、その岡林さんが提唱した「末っ子理論」だ。

あれは去年の12月の頃だった。
ツアー中のドライブの間、ふとこんな話題になった。

Q:ちょっと癖があるお店の人やオーガナイザーとどうやって仲良くなれるのか?

僕と岡林さんと同じバンドメンバーの、健さん。
人懐っこい性格でもある彼は、ミュージシャン仲間から度々こんな質問を受けていたそうだ。

我々ミュージシャンは仕事上、ライブハウスや飲食店などのお店の人やライブ企画者の人と接する。

しかし中には一風変わった人も多く(ミュージシャンも他人のことは全く言えないが)、無愛想だったり、頑固な人だったりして、最初の印象を引きずってしまい、なかなかうまく付き合えない、そんなことも多い。

しかし、そんな時でも健さんは懐にすっと入って、ライブが終わる頃には握手して笑顔で別れている、なんてことが良くある。

人柄、と言ってしまえばそれまでだが、確かにそんなシーンを度々みかける。
自分なら、無理!と心のシャッターを下ろしてしまっても、健さんならいける、そんなことがある。

そして実は、それは岡林さんも一緒なのだ。
二人にはそんな魅力がある。

どうしてなのだろう?
岡林さんに聞いた。
彼は一瞬考えて答えた。

「末っ子だからかな」


意味がわからなかった。
再度聞き返したら、彼はこう答えた。

「最終的には、きっと気に入ってもらえるはず、と思ってるから」


ですよね?健さん、ときき、確かにそうだね、と健さんは同意した。

お姉さんがいる男の末っ子(末っ子長男)は特にその傾向が強いと思う、と彼は付け加えた。

末っ子だから、気に入ってもらえる確信があるから、難癖ある人とも仲良くやれてしまう。それが岡林立哉の提唱する「末っ子理論」だった。

まさか、そんな。
最初は冗談を言ってるのかなと思ったが、どうやら彼は本気だった。
ガラス入りの右目がキラリと光っていた。確信がある時の彼は結構厄介だ。

これまでにもよく、あの人は末っ子だから、長男だから、とカテゴライズする人はいた。そんな人の話を、これまではずっと話半分で聞いてきた。

心の中では、人ぞれぞれだろ、と思っていたのだ。

家庭環境にも色々あるし、兄弟姉妹間の関係性だって十人十色、家庭の数ほどバリエーションがあるはずだ。

そもそも幼い頃の兄弟姉妹の関係だけで、その後の社会での人間関係が構築されてしまうことがあるとしたら、ズルくないか? 生まれてきた順は選べないのだから。

しかし簡単に認める気持ちになれなかったが、反証する根拠も足りなかった。

躊躇している間、二人は、あの人もそうだね、この人もそうだ、という症例をあげていた。
確信の城の周りに、更に土嚢をせっせと積み上げ、確固たる砦を築き上げていた。

しょうがなく自分も考えてみた。親しい周りの友達の顔。
そしてその兄弟姉妹の有無についても。
あいつはお姉さんがいたな、あいつはどうだったかな。

途端に恐ろしくなってきた。
一瞬身体が、ブルっ!と震えた。寒くもないのに。

なぜだろう。

親しくしている男友人達は、なぜか皆だいたい末っ子だったのだ。
そしてお姉さんがいるやつが多い。
なんてことだ、あいつも、あいつも、あいつも、あいつも、あいつもだ!!

よく言われている、末っ子気質。

甘え上手、要領がよく世渡り上手、観察力が高い、ちょっと寂しがり屋、好奇心旺盛、マイペース、もちろんわがまま、だけど良いタイミングの引き際も知っている、甘え貯金を持っている人からはとことん貪る、負けず嫌い、決断は人任せ。

確かにこういう要素は大抵当てはまっている気がする。

そして自分は長男だからだろうか。
周りには本当に末っ子が多かった。
気づいたら、末っ子ホイホイみたいになっているではないか。

あいつも末っ子だったから、こういう行動だったのか。
あいつは末っ子だったから、あれは甘えの一種だったのか。
僕が長男で、面倒を見てしまう性格を見越して、ああいう付き合いをしてきたのか。

末っ子というキーワードでこれまでの人間関係をもう一度紐解いて行った時、これまでにもやもやとしていたことが一気に腑に落ちるようになった。

ふと我に返ると、健さんと岡林さんは、依然車内で楽しく末っ子談義をしていた。

途端に二人が恐ろしく見えてきた。

自覚のある末っ子、最強説。


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