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娯楽映画研究所ダイアリー 2022年3月14日(月)〜3月20日(日)

「佐藤利明の娯楽映画研究所」ラピュタ阿佐ヶ谷で開催中!生誕100年、番匠義彰映画の魅力を語ります!

3月14日(月)「渦」(1961年・松竹・番匠義彰)・「のれんと花嫁」(1961年・松竹・番匠義彰)・『エノケンの猿飛佐助』(1937年・岡田敬・東宝)・『殺人幻想曲 Unfaithfully Yours』(1948年・FOX・プレストン・スタージェス)

今日は番匠義彰デー。『渦』(1961年)『のれんと花嫁』(1961年)を観ます。今朝は、長崎開花堂にあやかって、カステラ生地のどら焼きを食べました。阿佐ヶ谷へ、阿佐ヶ谷へ!これから昭和三十年代、東京探検へ。

番匠義彰『渦』(1961年)。井上靖の原作を笠原良三さんと富田義朗さんが脚色。洋画を輸入しているトレンド起業家・佐田啓二さんに恋をしている岩下志麻さん。夫を愛しているのに、構って貰えないフラストレーションから、夫と若い娘に嫉妬して、仲谷昇さんの音楽家によろめく岡田茉莉子さん。
 倦怠期の夫婦に入ったヒビは、割れてしまうか、修復できるか? のメロドラマを新鮮にしてくれる、戦災孤児・石川竜二くん。全てを見守る佐分利信さんの人格の素晴らしさ。
 番匠喜劇同様、入り組んだ人間関係、拗れた夫婦のクライスが、ストンと収まっていくダイナミズム。抑制された芝居と、確かな演出を堪能できる90分。傑作!

ラピュタ阿佐ヶ谷、番匠義彰『のれんと花嫁』(1961年)これまでの番匠喜劇で確立したあの手この手の集大成。
 瞳麗子さんのマネージャー。倍賞千恵子さんの内気なお嬢さん。佐野周二さんの旦那っぷり。月丘夢路さんの色香。伴淳三郎さんの座長芝居も素晴らしく、桂小金治さんと大泉滉さんのコメディリリーフにお腹がよじれる。東京風景も楽しく、麹町の東京開花堂、東京タワー、渋谷の夜景に、大興奮!のれんネタにふさわしく、酒悦のタイアップも効果的。なんといっても、長崎に舞台を移してからの畳み掛け。ロケーションであれだけの人物の出し入れにテンション上がりまくり。桂小金治さんと千野赫子さんがまたまた良い。カステラが食べたくなる幸福な喜劇!倍賞千恵子さん可愛すぎる!

 昨夜は原稿執筆のために久々に『エノケンの猿飛佐助』(1937年・岡田敬)をスクリーン投影。スクリーンプロセスや、同ポジ、ワイヤーワークを駆使したエノケンの忍術は、子供たちに受けたことだろうなぁ。<ミネチュア製作・杉政湘雲>と、盆景作家の杉政湘雲の名前がクレジット。ミニチュアをその道の専門家に頼んでいたのだなぁ。敵側の女間諜!・瀧姫を演じた梅園龍子さんがいい。清々しいお色気というか。一方、エノケン一座のヒロイン女優・宏川光子のツンデレぶりというか、エノケンを袖にする感じは、いつの世にも「あるある」でありました。
 猿飛佐助の師匠(エノケン二役)が杓文字に化ていて、それが忍術の秘密というのがおかしい。杓文字を奪われたら、何にもできなくなる。『クレージー作戦 くたばれ!無責任』(1963年)のハッスルコーラみたいなもの。
 もちろん短縮版なので、ところどころで話が飛んでいて「?」な部分もあるが、エノケンのみのこなし、リアクション、図に乗ったり、下手に出たり、クルクル変わる態度などが楽しめる。

 娯楽映画研究所シアター、続きましては、プレストン・スタージェス『殺人幻想曲 Unfaithfully Yours』(1948年・FOX)をアマプラで。
 世界的指揮者・アルフレッド・デ・カーター(レックス・ハリスン)が、溺愛している若妻・ダフネ(リンダ・ダーネル)が、自分の出張中に、秘書・アンソニー(カート・クルーガー)を浮気をしていたのではないかと猛烈な嫉妬を覚える。

3月15日(火)『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年・20世紀・スティーブン・スピルバーグ)・『レディ・イヴ』(1941年・パラマウント・プレストン・スタージェス)・『只野凡児 人生勉強』(1934年・PCL・木村荘十二)

さあ、発表になりました!
ラピュタ阿佐ヶ谷に続いて、衛星劇場「番匠義彰監督特集」を5月6月と二か月にわたって放映です!
●5月ラインナップ
かりそめの唇
駄々っ子社長
母と子の窓
抱かれた花嫁
白い炎
坊っちゃん(1958年)

銀嶺の王者

打合せ後、TOHOシネマズ日比谷で、スピルバーグ『ウエスト・サイド・ストーリー』を再見。憎しみの連鎖が戦争になる。今の時代に、スピルバーグがリメイクした意味を考えている。リフを殺された怒りから、衝動的にベルナルドを刺してしまい、自首をしようとするトニーに、ベルナルドの妹・マリアがこう言う。
「あなたを奪われたら、私はあなたを許せなくなる」。このセリフがあるから『ウエスト・サイド・ストーリー』は素晴らしいのだ!

昨夜の娯楽映画研究所シアターは、プレストン・スタージェス監督『レディ・イヴ』(1941年・パラマウント)をアマプラでスクリーン投影。
 スクリュー・ボール・コメディの最高峰!毎回観ていて「あれよ、あれよ」の後半の展開に「やられた!」「参りました!」と唸らされる。とにかく「面白い映画」であります。しかもシナリオと役者の芝居だけで、ここまで楽しませてくれるんだから、プレストン・スタージェスはやはりすごい。

 戦前喜劇映画研究のために、久しぶりに『只野凡児 人生勉強』(1934年・PCL・木村荘十二)をスクリーン投影。
「ノンキナトウサン」の原作者・麻生豊の「人生勉強 只野凡児」の映画化で、のちの「サザエさん」シリーズのような「人気漫画の映画化」の嚆矢ともいうべき喜劇。原作では只野凡児は、ノンキナトウサンの息子という設定だが、本作ではそれが明らかにされない(続編ではノンキナトウサンが出てくる)。
 只野凡児 にはPCLの主力スタアの藤原釜足。その容姿が似ているということで映画化が決まったとか。漫画の映画化らしく3話構成で只野凡児 の行状がコミカルに描かれる。
 大学は出たけれど、就職難の世の中で、悪戦苦闘している只野凡児 (釜足)が、先輩・嵯峨善兵の伝をたどって、あちこちの会社に面接にいくも玉砕。最後に頼みの綱で受けたおもちゃ会社の面接で、社長(丸山定夫)に気に入られて入社が決定。先輩と祝杯をあげたカフェーで、社長が女の子口説いているところに、折り悪しく遭遇。そこで社長に挨拶をした門だから、逆鱗に触れてその場でクビになってしまう。
 大金持ちの家の息子の家庭教師となった只野凡児 。なんと自分をクビにしたおもちゃ会社の社長の家だった。そこでお嬢さん・堤眞佐子に気に入られて、日本橋白木屋にお買い物に行くが、お嬢さんには許婚者がいて…
 といったスケッチで、昭和初期の就職難、サラリーマンの哀感をペーソスたっぷりに描いていくが、なんといっても戦前のおっとりした時代の空気が体感できるのが嬉しい。

3月16日(水)『七月のクリスマス』(1940年・パラマウント・プレストン・スタージェス)

プレストン・スタージェス監督『七月のクリスマス』(1940年・パラマウント)。スタージェスにとっては、2作目となるハートウォーミング・コメディ。といっても、ハートウォームになるのはラストのサゲで、最後の最後までドキドキしてしまう。ちょっとした「悪意」「善良」な人を、とんでもない状況まで追い込んで、結局「善意」「偶然」で幸せになる。

3月17日(木)『三人娘乾杯!』(1962年・松竹・番匠義彰)・『さまざまの夜』(1964年・松竹・番匠義彰)

これからラピュタ阿佐ヶ谷で「三人娘乾杯!」。鰐淵晴子さん、倍賞千恵子さん、岩下志麻さんと1960年代、お茶の水界隈へ! 丸ノ内ピカデリーも出て来るよ!

タイトルバックも可愛い!番匠義彰「三人娘乾杯!」。タイトルには!マークはないのです。

いやぁ、「三人娘乾杯!」おもしろいねぇ。続きましては、番匠義彰映画の異色中のナンバーワン『さまざまの夜』であります。冨永美沙子さんや南田洋子さん、さまざまな女優さんが登場。

番匠義彰『さまざまの夜』(1964年)。北林早苗さんのヒロインが、結構めんどくさいタイプなので、最後の方、津川雅彦さんにバッチリ本質を言われるところで、いつも溜飲が下がる。「青大将の気持ちもわかってやれよ、澄ちゃん!」みたいな感じ(笑)この題材を、よくぞまとめた番匠監督!と、エールを送りたくなる。

今宵はプレストン・スタージェスの傑作「結婚五年目」(1942年)で大笑いして、PCL映画研究「人生勉強 續只野凡児」(1934年)の脚色のうまさ、後半の三原山ロケーションに驚嘆! PCL映画初の大ロケで、後半はセット撮影なし!

さて、モデルナ接種後、30時間ほど経ったところで、やってきました副反応。早めに寝るに限ります。

3月18日(金)「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」(2022年・東宝・満仲勧)・『結婚五年目』(1942年・パラマウント・プレストン・スタージェス)

宝田明さんの訃報。ただただ悲しいです。宝田明さんと初めてお目にかかったのは1990年代始め。1994年の東宝ゴクラク座「100発100中」のインタビューがきっかけで、映画館トーク、NHKFM「特撰映画音楽百年」ではゲストに来て頂き、ミュージカル談義に花が咲きました。東宝「ゴジラ」DVDオーディオコメンタリーを収録したのは二十年も前のこと。「100発100中」DVDのオーディオコメンタリーもご一緒しました。

以来、仕事やプライベートで、本当にお世話になりました。2019年、客船「ぱしふぃっくびいなす」からプロデュースを依頼され、宝田明さんにお願いして、2泊3日の「シネマクルーズ」で、ミュージカルショー「魅惑の宵をあなたに」を構成、演出させて頂きました。

宝田明さんは、大きくて、暖かくて、優しい方でした。仕事には厳しく、どんな時も妥協はしない。常に「スタア」であることを意識しておられました。

僕のことを「朋友」と言ってくださり、どんなときも、優しく、厳しいプロフェッショナルでした。こうして書いていても、次々と宝田明さんとのことが蘇ってきます。折々、宝田明さんの薫陶を受けて来られたことは、娯楽映画研究家として、大きな財産です。

本当にありがとうございました。心よりご冥福をお祈りします。

「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」。みんな大好き安室さん!本当にカッコよかった!間違いなく、シリーズ最高傑作が誕生したのではないかと、おじさん世代も大興奮! 大倉崇裕さんの脚本、満仲勧監督の演出が見事です。刑事ドラマとしてもアクション映画としてもピカイチ。僕らのような1970年代刑事ドラマ世代には本当にたまらない。シリーズとしても最高の出来!コナン君最大のピンチ!大傑作です。渋谷で観ると臨場感倍増!

『結婚五年目』(1942年・パラマウント・プレストン・スタージェス)
 
プレストン・スタージェスの才気は、どの作品にもはっきりしているが、特に本作は「才気」「才能」「センス」が爆発。「あれよあれよ」のスクリューボール・コメディは、かくあるべし!の傑作。

3月19日(土)『娘・妻・母』・『モーガンズ・クリークの奇跡』(1944年・パラマウント・プレストン・スタージェス)・「スタートレック:ピカード」S2 第3話「同化」

本日、3月19日の朝日新聞B e「はじまりを歩く」「男はつらいよ」の始まりの物語。つまり、寅さん曰く「もののはじまりは…」であります。小泉信一さんによる記事です。山田洋次監督とともに、佐藤利明も「兵隊寅」についてコメントをしております。是非是非、ご一読ください。

3月19日 朝日新聞

今日は、成瀬巳喜男監督『娘・妻・母』を堪能。東宝スター揃い踏みの成瀬らしい辛口のホームドラマ。
 森雅之さんの威厳ばかりの長男、宝田明さんのドライな次男。古風な原節子さんの長女、生活に疲れた次女・草笛光子さん、ちゃっかり現代娘の三女・団令子さん。
 さらに長男の妻・高峰秀子さん。昔気質の母・三益愛子さん。宝田さんの妻・淡路恵子さん。そして草笛さんの夫・小泉博さん。その母・杉村春子さん! 
 原さんに恋する青年・仲代達矢さん。まさに完璧なキャスティング! この一家の根幹を揺るがすいい加減な町工場の社長、高峰さんの伯父・加東大介さん。東宝映画黄金時代の底力を感じる佳作。
 なんといっても、中北千枝子さん。すでに「日生のおばちゃん」の前身ともいうべき、投資信託のセールスレディ!
 六十年以上の時を経ても、あの時代の俳優さんたちの若さに触れることができる。いつだって、若くてスマートな宝田明さんに逢える! 映画はタイムマシン! だからこそ素晴らしい。いつだって、何十年経っても、その時代の空気を味合わせてくれる!

プレストン・スタージェス監督のスクリュー・ボール・コメディ研究。『モーガンズ・クリークの奇跡』(1944年・パラマウント)を久しぶりに。日本未公開だったが二十数年前、WOWOWで初放映されて、色々仰天したミラクル・コメディ。1940年代から50年代にかけてハリウッドを席巻した爆弾娘・ベティ・ハットンをフューチャーした戦時下ならではの、とんでもない喜劇。

Amazonプライム「スタートレック:ピカード」S2 第3話「同化」。これまでのスタートレックの主要ネタをどんどん投入しての展開の楽しさ!「Q」に「ボーグクイーン」に「タイムスリップしての歴史修正」とお馴染みの連続体!

やっていることは、お馴染みの展開なんだけど、脚色が見事で楽しいのなんの! 2014年のロスに、セブン・オブ・ナインは、初めて人間として地球の足を踏み入れて、とても嬉しそう。アニカ・ハンセンだった少女時代に戻ったようで、その辺りがグッとくる。

かつて、ボーグに同化されロキュータスとして苦い体験をしたピカードの苦悩とか。21世紀のロスに来たリオスが、かつてのカークやライカーのように、正義感から勝手に人助けをしようとして捕まったり(笑)

次回が楽しみ!

3月20日(日)『サリヴァンの旅』(1941年・パラマウント・プレストン・スタージェス)・『左利きの狙撃者 東京湾』(1962年・松竹・野村芳太郎)

朝、郵便を出しに行って帰宅すると、玄関で配達員の方から手渡された「映画秘宝」最終号。二十七年間、秘宝をフィールドに活動してきた浦山珠夫としてはひとまずサヨナラ宣言です。「日本のサイテー映画」をお題に、久々に浦山スタイルで執筆しました。あれれ一文字だけ誤字… 「回」→「逆」です。それもまた秘宝らしいけど。
 最終号の執筆陣は、ムック時代からのメンバー集結!懐かしくも、相変わらずで、このメディアが果たしてきた役割に、万感の想いを馳せつつ。
 皆さん、本当にお世話になりました!

ムック時代から映画秘宝で執筆してきた浦山珠夫も、秘宝ザ・ラストに参加させて頂きました。映画秘宝では、宝田明さん、若林映子さん、宍戸錠さん、小林旭さん、佐藤允さん、橋本忍先生、鈴木清順監督、川又昂さん、谷啓さん、犬塚弘さん、稲垣次郎さん、芦川いづみさん、桂小金治さん、川地民夫さん、小高雄二さん、清水まゆみさん、浜田光夫さん、渡辺美佐子さん、岩崎加根子さん、稲野和子さん、和泉雅子さん、松原智恵子さん、山本陽子さん、小泉博さん、久保明さん、水野久美さん、山本學さん、山本圭さん、十朱幸代さん、加藤剛さん、小林桂樹さん…錚々たるレジェンド・スターの方々に、インタビューをさせて頂きました。
 娯楽映画のオーラルヒストリーとして、出来ることなら、一冊にまとめたかったです。

今日、13時からの四国放送ラジオ「日曜懐メロ大全集」にリモート出演して宝田明さんの想い出を、パーソナリティの梅津龍太郎さんとお話しすることになりました。13時30分ごろです。

四国放送ラジオ「日曜懐メロ大全集」宝田明さん追悼特集。2019年2月1日に収録して、2月17日にオンエアした宝田明さんが「ゴジラ」を語るインタビューが流れて、万感の想いです。この時、僕は宝田さんの事務所で立ち会っていただけに。最後に流れた「美貌の都」の歌声の素晴らしさ!

3月20日 新潟日報 共同通信配信記事

昨夜の娯楽映画研究所シアターは、プレストン・スタージェス監督の異色作。社会派か?コメディか? 映画監督がホームレス実験をして得たのものは?

昨夜、久しぶりに野村芳太郎監督『左利きの狙撃者 東京湾』(1962年・松竹)。やっぱり凄い刑事映画!八重洲口での狙撃事件から浮かび上がる下町麻薬ルート。京成立石を中心に、西新井橋、荒川、東京湾河口など、川又昂キャメラマン渾身撮影にウットリ。佐藤慶さん、玉川伊佐男さんが出てくると「大都会」のルーツを感じる。祈DVD化!


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