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『サリヴァンの旅』(1941年・パラマウント・プレストン・スタージェス

 プレストン・スタージェス研究。四半世紀ぶりに『サリヴァンの旅』(1941年・パラマウント)をDVDでスクリーン投影。才気あふれるスタージェスが「映画作家が求めるリアリズム」「大衆と映画」をテーマに、シニカルでリアルな描写で綴った¥ファンタジーの傑作。

 スクリューボール・コメディといえばそうなのだが、色々と身につまされたり、生々しい描写もあるし、主人公が追い詰められていくプロセスは、ビデオ屋の棚の感覚だと「コメディ」というより「ヒューマンドラマ」になるのだろうなぁと。

 次々とコメディ映画をヒットさせて、ハリウッドを代表する監督して大成功していた映画監督・ジョン・サリヴァン(ジョエル・マクリー)。強欲な妻に財産を食い物にされている他は、ビバリーヒルズの豪邸を持ち、名声も勝ち得ていたので、なんの不満もない筈だった。しかし作家として、自分の作品は生ぬるい。もっと社会的なテーマを取り入れたいと、異色作”O Brother, Where Art Thou?”に取り組んでいた。

 しかし周りのプロデューサーたちは猛反対。ビング・クロスビーやボブ・ホープ主演のコメディ仕立てにしたらどうか? とトンチンカンなことばかり。坊ちゃん育ちのサリヴァンは、底辺の人々の苦労や苦悩がわからないから、社会派映画はムリとも言われる。本人も、それはわかっているので、ならば現実社会の厳しさ、貧困の実態を身を以て知ろうと、ホームレスになって旅に出ることにする。ポケットには10セントだけ。

 映画会社のエグゼクティブやスタッフたちが豪華トレーラーで、彼の監視を続けることになり旅が始まるが、どうしてもうまくいかず、何をやってもハリウッドに戻ってきてしまう。

 ある晩、サリヴァンはハリウッドのダイナーで、芽が出ずに田舎に帰ろうとしていた女優”The Girl"(ヴェロニカ・レイク)から、ホームレスと間違えられて、朝食をご馳走になる。彼女の夢は”エルンスト・ルビッチの映画に出ること”だった。彼女の役名はなく、何者でもないという意味で”The Girl"なのだろう。

 普段のサリヴァンなら「ルビッチ?誰?」なんて言いながら、紹介するのはお手のものだが、あくまでもホームレスに徹しようとするので…といった笑いが展開。結局、彼女に身分を明かし、計画を話したところ、彼女も旅の道連れを希望。二人でホームレスに扮装して、行き先不明の貨物列車に”ホーボー”として乗り込むが…

 リッチな映画監督と売れない女優が、ホームレスになっての社会的実験。最初はシチュエーションコメディとして、おもしろおかしく展開していくが、実験は成功。人の良いサリヴァンは、5ドル紙幣を200枚、お礼がわりにホームレスに配ろうと、夜の貧民街へ向かう。その「善意」が、ひとりのホームレスの「悪意」により、踏み躙られ、とんでもない展開となっていく。

 そこからがかなりヘビー。上っ面の「社会的実験」だったはずが、サリヴァンは記憶を失い、鉄道員に暴力を振るって逮捕され、絶体絶命のピンチに。一方、強盗したホームレスは列車に轢かれて死亡。状況証拠から、遺体はサリヴァンのものとして処理されてしまう。

名声を失うどころか、自分の存在すら抹殺されてしまったサリヴァンは、果たして…

 いつものプレストン・スタージェスらしい「あれよあれよ」の展開なのだが、後半、サリヴァンが逮捕されてからの後半は、かなり生々しい。まさにサリヴァンが目指していた社会派映画のタッチとなる。裁判所の命令で、横暴な雇い主に売り渡されて、強制労働をさせられる。弁護士を呼びたくても、自分の存在すら消えてしまっているので、誰にも取り合ってもらえない。どうにもならない状況のなか、教会の映画界で庶民や前科者たちが「ミッキーマウスとプルート」の短編漫画映画に声をあげて笑うのを見たサリヴァンが、自分の本当の役割を見出すクライマックスのカタルシス!

 そこからはいつものような「あれよあれよ」のハッピーエンドまで一直線。ヴェロニカ・レイクがとにかくチャーミング。ブロンド美女としての神秘的なムードと、ホームレスに扮装した時の可愛さ!サリヴァンのプロデューサーに、常連のウイリアム・デマレスト。執事にエリック・ブロアなど、バイプレイヤーたちのアンサンブルも楽しめる。

ちなみにサリヴァンが撮ろうとしていた”O Brother, Where Art Thou?”は、2000年にジョエル&イーサン・コーエン監督がジョージ・クルーニー主演で撮った『オー・ブラザー!』の原題”O Brother, Where Art Thou?”と同名である。


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