見出し画像

『モーガンズ・クリークの奇跡』(1944年・パラマウント・プレストン・スタージェス)

 プレストン・スタージェス監督のスクリュー・ボール・コメディ研究。『モーガンズ・クリークの奇跡』(1944年・パラマウント)を久しぶりに。日本未公開だったが二十数年前、WOWOWで初放映されて、色々仰天したミラクル・コメディ。1940年代から50年代にかけてハリウッドを席巻した爆弾娘・ベティ・ハットンをフューチャーした戦時下ならではの、とんでもない喜劇。

 初見の時は、モラルが邪魔をしてあまり楽しめなかったが、改めて見直すと、脚本のうまさ、演出の面白さ、そして後半の畳みかけ、ラストのサゲまで、見事見事な傑作でありました。

 第二次世界大戦中の1942年から1943年にかけて製作されるも、その内容が「あまりにもセンセーショナル」という理由でお蔵入り。しかし1944年に公開されるや、1945年のアカデミー脚本賞にノミネートされる高評価を得た。面白いものは、やっぱり面白い。番匠義彰でいうと『さまざまの夜』(1964年・松竹)のような異色作の位置付けだけど(笑)、それは、ベティ・ハットンのヒロインが、酔った勢いで、誰かわからない兵隊と寝て、妊娠してしまう。というプロットのアンモラルさにある。

 大切なのは「その子の父親は誰か?」ではなく、「誰がその子の父親として愛情を注いで育てるか?」にある。戦時中には、こうした「兵隊とのワイルドパーティ」の結果、勢いで結婚したものの、シングルマザーになってしまった女性がたくさんいた、という表に出てこない話があった。ということでもある。

 中西部の保守的な街・モーガンズクリーク(架空)の警察署長・コッケンロッカー(ウイリアム・デマリスト)の長女で十九歳のトゥルーディー(ベティ・ハットン)は、連日連夜、激戦地に赴く兵隊たちのための「サヨナラパーティー」に参加。彼らを慰め、励ますことが「お国のため」と愛国心を発揮。しかし、彼女自身がそのワイルドパーティを楽しんでいて…

 1940年代、第二次大戦中のハリウッドでは『Star Spangled Rhythm』(1942年・パラマウント)、『ハリウッド玉手箱』(1944年・ワーナー)、『万雷の歓呼』(1943年・MGM)、『ステージドア・キャンティーン』(1942年・ユナイト)、『姉妹と水兵』(1944年・MGM)など、戦地慰問目的のために「キャンティーン映画」が、国策として連作されていた。

 大抵は、美しい踊り子や駆け出しの映画女優、一般の女の子が、戦地に赴く、兵隊たちのために、楽しいパーティを企画したり、恋に落ちたり、結婚を約束したり…という、兵隊にとっては「限りない妄想」が広がる「都合の良い」「砂糖菓子のような」ミュージカル映画だった。日本の国威発揚映画とは正反対、夢のような「兵隊慰問映画」を各社が競って作っていた。

 そのパロディとしても楽しめる。ヒロイン・トゥルーディーは「国威発揚のおもてなし」に励みすぎて、警察署長の父・コッケンロッカーは、その貞操の危機を感じて、気が気じゃない。ある夜、パーティが中止になったと嘘をついたトゥルーディー。幼馴染の男の子・ノーヴァル・ジョーンズ(エディ・ブラッケン)と「映画デート」に行くと父親を誤魔化して、出かける。

 幼い頃からトゥルーディーに恋をしていたノーヴァルは有頂天になるが、自分は当て馬と知ってがっかり。目に障害があるノーヴァルは兵役に付けないコンプレックスの塊で、見ていても気の毒なのほど。エディ・ブラッケンが、この愛すべき3枚目を好演。というか本編の主人公はエディ・ブラッケンでもある。

 お人好しのノーヴァルは、朝の8時まで映画館の前で待っている。その晩、トゥルーディーは、兵隊たちと大騒ぎ、酒に酔った勢いで、その中の一人と結婚してしまったが、一夜開けて、全く記憶がない。うっすらと結婚したことだけは覚えていて…

 ここまでならラブコメディなのだが、それからしばらくしてトゥルーディーの妊娠が発覚。しかし父親が誰なのか、トゥルーディーはさっぱり覚えていない。そこで、14歳の妹・エミー(ダイアナ・リン)と相談して、ノーヴァルと結婚してしまえば丸く収まるという悪知恵を働かせる。

しかし、あの夜、兵隊と結婚した事実は揺るがない。離婚してからでないと重婚罪となる。さあ、どうするか? ならばとノーヴァルをその兵隊に仕立てて、偽の結婚証明書を入手しようという計画を立てるが…

しかし、ノーヴァルの人の良さ、優しさに感動したトゥルーディーは、本当に彼に恋をしてしまい、それゆえに複雑な気持ちになって…

そこからの展開がとんでもないほどスピーディで、結局、銀行員のノーヴァルはその資金を勤め先の銀行から拝借して、質屋で第一世界大戦の軍服を手に入れたために、「窃盗」「器物破損」「文書偽造」「重婚罪」で牢屋に入れられてしまう。

しかし、トゥルーディーの父は、牢屋に入ったノーヴァルを密かに逃がそうとするが、そのドタバタで、ノーヴァルの罪はさらに重くなってしまう。

と、収拾がつかないほどの展開の果てに、ノーヴァルが逃亡。物語はそれから8ヶ月後のクリスマスの夜となる。ここからの展開は、未見の方はぜひご覧になってほしい。「あれよあれよ」「え!」「まさか!」「なんと!」の連続。モラルを吹き飛ばし「愛はすべてを超えて」ゆく展開は、まことに鮮やか。「或る夜の出来事」を過ちとして責めるのではなく、「ここから始まる」真実の奇跡に転じさせてゆくプレストン・スタージェスの手腕。わが斎藤寅次郎監督に見せたかった!と、つくづくそう思う。

 しかもトゥルーディーの件は世界中に報道され、イタリアのムッソリーニ、ナチスのヒットラーの知るところとなり、二人を激怒させて、その戦意にまで影響を与えてしまう。ベティ・ハットンは「唄わず」「踊らない」けど、ミュージカル映画の時のような強烈なインパクトがある。とにかくエディ・ブラッケンが素晴らしい。

 ブラッケンはスタージェスの次作『凱旋の英雄』(未公開・WOWWOW放映)にも出演することとなる。そしてヒロインの父を演じたウイリアム・デマレスト! スタージェス作品の常連で『7月のクリスマス』(1939年)、『レディ・イヴ』(1941年)、『サリヴァンの旅』(1941年)、『結婚五年目』(1942年)に続いて珍妙なキャラをパワフルに好演している。

 あれよあれよの急展開の果ての、鮮やかなオチ。この瞬間のためにプレストン・スタージェス映画がある。といっても過言ではない。よくぞ作った!正真正銘の傑作コメディ。

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%81%AE%E5%A5%87%E8%B7%A1-%E5%AD%97%E5%B9%95%E7%89%88-%E3%82%A8%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%B1%E3%83%B3/dp/B089QLZHGF


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。