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2022/2023 チャンピオンズリーグ ベスト16 バイエルン vs PSG

PSGにとって、またしても悔しいベスト16敗退となってしまったこの試合。バイエルンとはどのような差があったのか、失点に直結するミスを犯したとされるヴェラッティとビチャブは何を見てどう判断していたのか。これら2点を中心に試合を振り返る。

両チームのスタメンは以下。

PSG 3-5-2
ドンナルンマ
ダニーロ、ラモス、マルキーニョス
ハキミ、ヴィティーニャ、ヴェラッティ、ルイス、ヌーノ・メンデス
メッシ、エムバペ

バイエルン 3-4-3
ゾマー
スタニシッチ、ウパメカノ、デ・リフト
コマン、キミッヒ、ゴレツカ、デイビス
ミュラー、シュポ・モティング、ムシアラ

バイエルンは、非保持を基準にすれば、4-2-3-1と表現としても良いだろう(その場合は、デイビスがSB、2列目がコマン、ミュラー、ムシアラ)。

スタメン

両チームの狙い

両チームが用意してきたゲームプランを確認しよう。より明確な意図を感じさせたのはバイエルンの方だった。
まず、ホームゲームにもかかわらず、慎重な入りを見せた。ファーストレグで見せたようなハイプレスは無し。キック精度が低いドンナルンマは完全に放置し、CB3枚にも強いプレスはかけず、まずは陣形優先で構えた。大まかなマーク担当は下図の通りだ。

バイエルンの守備

コマンはマルキーニョスとヌーノ・メンデスの間に立ちながら、マルキーニョスに寄せる。スタニシッチは思い切って前に出てヌーノ・メンデスを、ミュラーはトップ下の位置でヴェラッティを担当する。基本的には初期配置そのままの守備陣形である。
バイエルン全体で最も強く意識されていたのが、ヴェラッティに対するミュラーのマークだろう。ヴェラッティはPSGのビルドアップの中心人物なので、厳しく寄せる、背中で消す等のタスクをミュラーが担っていた。
また、メッシ・エムバペとその他選手たちを分断することを狙っていた。PSGのCMF3枚は、流動的に動き回り、時には最終ラインまで降りてビルドアップに参加する。その時に深追いはせず、上図の通り、前線の守備陣形の幅を狭く保つことで中央を封鎖しつつ、2列目はメッシ・エムバペを背後に置き、正面の他の選手たちとの連携を断絶する。
列を降りてチャンスメークするメッシに対しては、ファールで潰す。メッシは低い位置からでも脅威となるが、ゴールから離れた位置でFKを与えても問題ない。ミュラー、キミッヒ、ゴレツカ、デ・リフトが明らかに目の色を変えて襲ってきた。
そして攻撃においては、コマンとデイビスの突破力を武器にサイド攻撃を仕掛ける。サイド攻撃なら、失敗に終わってもカウンターを受けにくいからだ。また、突破できずにやり直しとなる場合は、ロングキック一発でのサイドチェンジは行わない。CMF、CBをショートパスで経由して逆サイドまで運ぶ。PSGのCMF3枚がピッチ横幅をカバーするのは、かなりの重労働であり、スライドに時間がかかる。ショートパスでも翻弄でき、キックミスによる被カウンターも防げるという算段だろう。シュポ・モティングのポストプレーによるボールキープと陣地回復も効いていたし、ムシアラがハーフスペースやライン間で受けてからのドリブルも脅威となっていた。

対するPSGは、どのような準備をしてきたか。まずマーク担当については、下図の通りだ。

PSGの守備

ルイスがスタニシッチまで寄せ、連動するようにマルキーニョスもゴレツカまで押し上げる。それに合わせるように、周りの選手も立ち位置を微調整する。うまくローテーションするように設計されてはいるが、バイエルンと比べ、初期位置から移動する人数が多く、多少の危うさを感じる。
マルキーニョスの押し上げは、保持時に適用していることもあった。ネガティブトランジッションにおいて、強度高くゴレツカに寄せる効果も狙っていた。また、ミュラーがヴェラッティを警戒したように、ヴェラッティもビルドアップの中心であるキミッヒを警戒していた。
ビルドアップでは、ヴェラッティが頻繁に最終ラインに降りていた。バイエルン前線が3-1の形で中央を固めてくるため、ヴェラッティが降りることで4枚で数的優位を作る。しかし前述の通り、これはメッシ・エムバペとの分断に繋がり、効果的ではなかった。
そんな中、PSGがチャンスを作り出したのは左サイドだった。2分にいきなり決定機を迎えた。マルキーニョスがコマンに寄せられ、左サイドのヌーノ・メンデスに展開する。そこへスタニシッチ遅れて寄せてくるが、素早くエムバペにパス。エムバペは得意のフリック&反転後、ルイスからのリターンを受け、シュートに持ち込んだ。また、ほぼ同様の形で、左サイドに開いたルイスにスタニシッチが遠くから寄せるが、ヌーノ・メンデスにスルーパスを通し、メッシのシュートへ繋げる場面もあった。その後もここを狙い目にしようとしていたが、バイエルンもこれ以上は穴を空けてくれなかった。

前半終了。ファーストレグでは、3-1-6とも言える強気な布陣で押し込み続けるバイエルン、4-4-2でひたすら耐えるPSG、という構図だったが、セカンドレグでは互角な戦いとなった。

ハーフタイムでの最大の変更点は、PSGビチャブの投入だろう。主将マルキーニョスが負傷により前半で交代、途中出場のムキエレもハーフタイムで交代。若干17歳のレフティーをこの大一番で緊急投入せざるを得なかった。

ヴェラッティとビチャブ

そして61分、ついに均衡が破れる。ビチャブからのパスを受けたヴェラッティが、ゴレツカとミュラーのプレスでボールを失い、ゴールを許した。二戦合計2-0となる、勝敗を決したプレーだった。囲まれている味方へパスしたビチャブ、不用意なロストをしたヴェラッティ、批判されているこの2人のプレーを中心に、深掘りする。

まず、直前にはバイエルンのCKがあった。キミッヒのインスイングのボールにゴレツカがヘディングで合わせ、枠を外れた。中継映像では、そのリプレーを流している間に、PSGのゴールキックが再開されており、ヌーノ・メンデスが左サイドでボールを持っている場面から確認できる。ここから、ルイス、ビチャブ、ルイス、ビチャブ、ヴェラッティの順番でボールを繋ぎ、ロストするまで14秒。その間に何が起きたのか。

ヴェラッティがボールを受けた時の配置(映像から確認できる範囲)

ルイスは2回共に強いプレッシャーを受けており、バックパスする以外の選択肢がなかったし、誤った選択であったとも思わない。

ビチャブには時間があった。2回共、ミュラーがやや離れた位置から寄せてきたため、顔を上げることができた。よって判断の正否が問われる。右サイドを確認していたが、シュポ・モティングとムシアラが目に入り、ロングキックでサイドチェンジする選択肢は捨てたのだろう。若い選手なのだから、無理もない。シンプルにクリアすることもできたが、そこまで追い詰められているわけでもなかった。ドンナルンマへバックパスすることも可能だったが、ドンナルンマがクリアするだけになるのは目に見えており、それなら彼自身がクリアするのと変わらない。足元の技術を信頼してもらえていないドンナルンマにも責任がある。結果的には、キックフェイントでミュラーをかわし、ヴェラッティへパスを出した。確かに、経験豊富なCBならサイドチェンジ一発でプレスを無力化できたかもしれないが、それほど悪いプレーではなかったと思う。

最後にヴェラッティ。ビチャブからボールを受ける直前、2回首を振って自身の周囲を確認している。1回目で後ろにヌーノ・メンデスがいること、左後方からゴレツカが寄せてくるであろうこと、2回目で右のコマンが寄せてこないこと、を認知したと考えられる。そして、右足アウトサイドを使って時計回りに反転し、ゴレツカをかわしつつ、コマンとの間にあるスペースを活用することを決断したはずだ。実際、そのようなプレーを実行しようとしている。このスペース認知や判断は、「さすがヴェラッティ」と言える。ただし、ビチャブのパスが左足に来たことで、ワンタッチ増えてしまった。さらには、ゴレツカがファール気味で強く当たってきたが、主審にファールを取ってもらえなかった。これらは誤算だっただろう。
しかし、問題はその前だ。ヌーノ・メンデスがボールを持ってから自身が受けるまでの14秒間、ヴェラッティは反対の右サイドを2回しか見ていない。それぞれ、ボールを受ける9秒前と3秒前だ。左サイドについては、前述の2回を含め、そちら側に体の向きを作った時間もあり、より多く確認している。彼のようなポジションの選手には、より頻繁に、より均等に認知してほしい、と言ったら酷だろうか。そもそもヴェラッティは、高い技術によるプレス回避力は特筆に値するが、球離れが悪く囲まれロストすることもしばしばある。ドライには「こういうデメリットもあるのがヴェラッティ起用だよね」とも言える。決定的な場面で悪癖が出てしまったのは不運だが、責任は免れられないだろう。
ただし、PSGのチーム戦術において、彼は必要不可欠な1人であり、この試合でもネガティブトランジッションでのプレス、スライディングでのボール奪回など、奮闘していた。ミュラーに警戒されながらビルドアップを行い、反対に相手のビルドアップ時にはキミッヒを警戒する、という重要なタスクも担っていた。これらの点は客観的に評価されるべきであるし、チーム内にプレス回避戦術が確立しておらず、彼の個人能力に強く依存してしまっている点も、無視はできない。

さて、話を試合の流れに戻す。スコア1-0(二戦合計2-0)。

バイエルンは直後、シュポ・モティングに代えてサネを投入。ポストプレーから、スピードを活かしたカウンター戦術へと切り替えた。その後も、マネ、カンセロ、ニャブリを投入し、縦への推進力を維持しつつ、重心を下げた4-4-2へ移行しゾーン色を強める。次々と実力者がフレッシュな状態で出てくる選手層の厚さはもちろんのこと、采配の早さも秀逸だった。

一方のPSGが打った手は、ザイル・エメリの投入くらいであった(CBの2連続負傷に交代枠を使っていたことは不運だったが、エキティケとベルナトの投入は何にもならなかった)。しかしそのザイル・エメリも、積極性と個人能力の高さを見せるが、効果的でない部分もあった。ルイスとの交代だっため左寄りの位置に入り、得点のため攻撃的なポジションを取ったが、エムバペとプレーエリアが完全に重なってしまった。「エムバペとの距離感を近く保て」という指示だったのか、「攻撃的にいけ」という曖昧な指示しかなかったのか、はたまた本人の解釈の問題なのか、わからない。いずれにせよ、機転を利かせたエムバペが、珍しく右サイドにポジションを移してしまうこともあるほどの出来だった。

終盤にはロングカウンターから失点し、2-0(二戦合計3-0)。PSGは為す術なく敗れた。

両チームの間には、チームとしての完成度や選手層の厚さに大きな違いがあった。しかしSNS上では、「メッシは放出」「ネイマールはいつも怪我」「エムバペ退団かも」「ガルティエはクビ」「補強しないカンポスのせい」等々、感情論も多いように感じる。どれも間違いではないだろうし、人それぞれの意見があって当然だが、このような時だからこそ、論理的思考が必要だろう。何が良くて、何が悪かったのか。何をやろうとして、何故できなかったのか。どうすれば改善できるのか。一つずつ積み上げていくしかない。チャンピオンズリーグ初優勝の夢まで、PSGの道のりはまだ長い。

以上。

2023/03/08
UEFA Champions League, Round of 16
FC Bayern Munich 2-0 Paris Saint-Germain







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