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【英国法】漁業規制と川釣りのライセンス

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、イギリスの漁業規制川釣りライセンスについて書きたいと思います。前者は、Fisheries Act 2020FA 2020)、後者は、Salmon and Freshwater Fisheries Act 1975SFFA 1975)が主要法令です。

かなりニッチな分野ですし、この記事が将来ぼくの仕事につながる可能性は限りなくゼロに近いです(笑)ただ、漁業規制は、Brexitの際にかなり揉めた事項であり、そのときの記事は日本語でも結構存在する一方で、その後の顛末については良い資料は見つけられませんでした。

そのような事情もあり、Brexit後のイギリスの漁業規制がどのようになったのか、簡単ではありますが、ここに残しておければと思います。

あと、川釣りライセンスはおまけです!
もし、釣りが趣味の人がいれば、ちょっと覗いてみてください。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。

BrexitとEUの共通漁業政策

Brexitに関する交渉時の状況については、『英国のEU離脱と漁業問題』と題されたJETROの資料がよくまとまっています。

CFPに対する英漁民の不満

EU加盟国時代のイギリスの漁業管理は、EUの共通漁業政策CFP)に委ねられていました。

CFPでは、加盟国の水域に関して加盟国間のアクセスを保証するもので、イギリスにとってみれば、他国の漁船が自国の水域で漁業を行うことを受け入れざるを得ないものでした。また、CFPは、水産資源維持のために各加盟国の漁獲枠(クオータ)を定めており、イギリスの漁民は、このクオータに漁獲高を制限されることになっていました。

もちろん、イギリスは他の加盟国の水域のクオータの割り当ても受けるため、漁民たちは他国へ漁に行くことも可能です。しかし、EU加盟国全体の水域に占めるイギリスの水域の割合は大きく、明らかな漁獲赤字となっていました。

このような状況から、イギリスの漁民のCFPへの不信は根強く、Brexitに係る国民投票直前に実施された調査によれば、漁民の92%がBrexitに賛成票を入れると回答したそうです。

紛糾する交渉

もし、Brexitによって、EU加盟国の漁船が英国の水域へのアクセスが出来なくなってしまった場合、EUにとってその損失は甚大なものになり得ます。他方で、イギリスとしても、漁民たちのCFPへの不満が大きいとはいえ、水産品の輸出の多くがEU加盟国であり、関税がかけられた場合には漁民の生活への影響は必至です。

先に述べた漁民の不満に、上記の事情が入り乱れ、Brexit後のイギリスの漁業規制をどのようにするのか、交渉は難航を極めました。

漁業協定の締結

一時は、交渉がまとまらない可能性も懸念されていましたが、Brexitの移行期間(いわゆるimplementation period)終了間近の2020年12月25日に、Brexit後のUK-EUの漁業に係る協定が締結されました。

こちらの国会の資料がよくまとまっていると思います。

ざっくり言うと、元々EU加盟各国に割り当てられていたクオータについては、引き続き割り当てを行う(つまり、他国は引き続き英国の水域にアクセスし得る)ものの、2026年6月30日までにクオータの25%を英国に移管するというものです。それ以降のEU加盟各国の英国の水域への漁業のためのアクセスは、別途合意を年次でしていくというものです。

イギリスの漁業規制

2020年11月23日に制定されたFA 2020は、Brexit以降のイギリスの漁業規制に関する主要法令です。

なお、以下の説明は、主に、監督官庁であるMarine Management OrganisationMMO)の説明資料を参考にしています。

漁船ごとの許可

ここまでの話から察せるように、英国の領海及び排他的経済水域内で漁業を行なおうとする場合には、許可が必要です。
FA 2020 s. 14(1)は、次のように定めています。

14  British fishing boats required to be licensed
(1)  Fishing anywhere by a British fishing boat is prohibited unless authorised by a licence.
(2)  …

肝心の許可の仕組みですが、FA 2020は、漁業の許可を各漁船に紐づけています(*1)。この許可を通じて、英国水域での漁獲高がコントロールされるようになっています。

日本の運転免許は、運転手に対して与えられるため、普通自動車の運転免許を得た人は、カローラでもポルシェでも運転することができます。他方で、FA 2020のスキームでは、許可は漁船に与えられていることから、たとえ熟練の漁師であっても、無許可の漁船で漁を行うことはできません。

なお、新しい免許は発行されません。そのため、新たに漁業を始めようとする人は、既存の免許を譲り受けるしかありません。

許可の種類

漁業許可には、いくつかの種類があります。以下のとおり、主要なもののみを載せておきます。

カテゴリーA - 全長10メートル超
カテゴリーA - 全長10メートル以下
カテゴリーA - 全長10メートル以下(制限付き)
カテゴリーA - 島嶼船
カテゴリーA - 遠洋漁業
カテゴリーB
カテゴリーC
テムズ・ブラックウォーターでのニシン漁
シロギス漁
ビンナガマグロ漁
手釣りサバ漁
養殖ムール貝漁

各許可ごとに細目が定められており、ちょっとここでは紹介しきれないのですが、かなり複雑な規定となっています。

漁業許可を必要としない場合

次のような場合には、漁業許可は不要です。

・ サーモンと回遊マスのみを漁獲する場合
・ 全長10メートル以下の船舶で、ウナギだけを漁獲する場合
・ レジャーで釣りを楽しむ人を乗せるためだけに船舶を使用する場合

この他にも、ジャージー、ガーンジー、マン島の12海里の水域でしか漁業をしないときは、FA 2020の漁業許可は不要です。ただし、この漁は別途ライセンスが要求されることがあります。

罰則

漁業許可なく、漁業を行ったときは、50,000ポンドを上限とする罰金を科される可能性があります(*2)。

少ないように思われるかもしれませんが、当局のガイダンスによれば、違反1件について50,000ポンドとのことなので、複数回の違反が認定されれば、それだけ罰金も膨れ上がります。

川釣りのライセンス

ここまでの話は、ヨーロッパの漁業というスケールの大きい話でしたが、イギリスでは、個人が釣りを楽しむときにも、一定の場合に、ライセンスが必要となる可能性があります。

漁業許可は、上記のとおり、MMOの管轄でしたが(*3)、釣りのライセンスは、Environment Agencyの管轄です。日本で言えば、水産庁と環境省がそれぞれの管轄を持っているイメージでしょうか。

どのような場合にライセンスが必要なのか?

こちらのサイトが参考になります。

これによれば、イングランド・ウエールズ(一部例外あり)において、サーモン、マス、淡水魚、ワカサギ、又はウナギを、釣り竿で釣るときには、釣りのライセンスが必要となります。

要するに川釣りをするときには、ライセンスが必要か否かを検討する必要が出てくるということですね。

なお、スコットランドで釣りをするときは、一部の例外を除き、ライセンスは不要です。また、北アイルランドでは、ライセンスが必要となるようで、こちらの地方行政機関のWEBサイトで説明がされています。

ライセンスの取得方法

見た感じ、特別な資格や講習の受講は不要です。

こちらのページの“Buy now”から購入手続を行って、カードで決済をしたら終了です。

値段は、例えば、マス、及び、サーモン以外の淡水魚を釣れる1-dayライセンスが7.10ポンド(≒1,400円)です。これを高いとみるか安いとみるかは意見が分かれそうです。

土地所有者等の許可

Environment Agencyのライセンスとは別に、土地所有者等の許可を得なければいけない場合があります。

英国では、profit à prendreと呼ばれる、釣りをする権利が観念されており、その水域の土地所有者の所有権に付随する権利と解されています。土地所有者の許可なく釣りをすることは、かかる権利を侵害する可能性があります。

そもそも、所有権者の許可なく立ち入ること自体が所有権の侵害になり得ますよね。

そのため、土地所有者等から釣りをすることについて、許可を得なければならないかもしれず、Environment Agencyも、そのような可能性に言及して注意喚起をしています。

まとめ

いかがだったでしょうか。
本日は、イギリスの漁業規制と釣りのライセンスに関して紹介しました。

全く未知の分野で、これまでの業務で触れたこともなかったので、記事の作成にはそれなりに時間がかかってしまいましたが、知らないことを知るのは楽しい作業でした。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。


【注釈】
*1 s. 15 and 17, FA 2020
*2 s. 19, ibid
*3 厳密には、MMOはイングランドと英国EEZ外の漁業を管轄する当局で、スコットランド等には別途監督官庁が置かれています。


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