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15 同級生

男には高校を卒業してから十五年以上にわたって年賀状を交換している同級生がいた。特別親しい友人というわけではなかった。ただ同級生とだけ言うのがちょうどいいような間柄だった。

いつも向こうが元日に届くように年賀状をくれ、男がそれに返事を書いた。新年の挨拶に近況を一言添え、今年もよろしくと結ぶのが恒例だった。

今年もよろしくなどと言っても、会うことはおろか連絡を取ることさえなかった。高校卒業以来、年賀状の交換以外のどんな関わりも持ったことがなかったのだ。

ある春の休日、男は都心の繁華街で偶然その同級生を見かけた。何しろ十数年ぶりのことだった。記憶にある姿とはだいぶ変わっていたが、それでも一目で彼と分かった。

同級生は、家電量販店の大きな紙袋をぶら下げていた。一人だった。高校時代に交流がなかったわけではないし、こんな偶然など滅多になかった。男は懐かしさを込めて同級生の名前を呼びかけた。

二、三度呼びかけて人波越しに手を振ると、同級生はようやく気づいて男の方を振り返った。目が合い、向こうも男を認めたことが分かった。

男は改めて手を高く振ると、そちらに足を踏み出した。ところが、相手はまるで何も見なかったかのようにすっと顔を背け、そのまま行ってしまったのだ。

男はもう一度同級生の名前を呼んだ。しかし、相手は聞こえないふりで遠ざかっていくばかりだった。男は軽い裏切りにあった気分でその後ろ姿を見送った。

年が明けると、まるでそのときの出来事などなかったかのように、同級生から年賀状が来た。散々迷った挙げ句、男もまた何事もなかったようなふりで返事を出した。

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