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39 更地

男は更地を見つけるたびに写真を撮った。地面以外に何も写っていない、殺風景な写真だ。撮るたびにSNSにアップしたが、反響はほとんどえられなかった。

更地は少し自転車でうろつくだけで簡単に見つかった。駅前まで行って帰ってくるだけで三つも四つも新たに見つけてしまうようなこともあった。

ときどき、慣れた道に突如として更地が出現することがあった。そういうとき、男は立ち止まってそこに何が建っていたのか考えてみるのだった。一度として分かった試しはなかった。

更地だった場所にいきなり住宅やマンションが出現するということもあった。建設中のところを見た覚えもないのに、いつの間にか完成した状態で建っているのだ。

SNSを通して、ぽつぽつと更地の情報が寄せられるようになった。男は時間を見つけては近い場所から順に足を運んだが、一週間でも間が空くとそこにはすでに新しい建物が建っているのだった。

ある日、男の家の隣が更地になっていた。取り壊し工事にはまったく気がつかなかった。毎日のように目にしていたはずなのに、どんな建物が建っていたのかも思い出せないのだ。男はいそいそとその更地を写真に撮り、仕事に出掛けた。

その日は遅くまで残業だった。夜更けに帰宅すると、隣に新しい家が建っていた。朝には更地だったその場所にだ。

男は奇妙な思いにとらわれながら家に戻ろうとした。男の家があったところは更地になっていた。



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