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56 戦争一

自国が戦争に巻き込まれると、男は真っ先に兵隊に志願した。与えられた武器は缶切りが一つだけだった。

いざ戦場に出てみると、自軍の兵士も敵軍の兵士もスマホから片時も目を離すことがなく、戦闘はなかなか盛り上がらなかった。男は缶切りを右手から左手へ、左手から右手へと忙しなく持ち変えながら、敵がミンチになるまで滅多打ちにするという野蛮な夢想に浸って時間をやりすごした。

戦争が終わると、男は精神病院に送られた。窓に鉄格子のついた狭い病室で、男はゴムでできた缶切りを渡された。

医者が来ると、男は「出撃命令はまだか?」と言っては戦況を知りたがった。医者は男に合わせて戦争が続いているふりをしてやった。男は「もっといい武器をくれ。このままじゃやられちまう」と懇願したが、その願いが叶えられることはなかった。



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