発達障害者(ASD)の障害者雇用⑦/聞こえてるのに聞き取れないぜ(APD)
前回、前々回で書いた電話と飲み会に対する苦手意識について、APDという角度から見てみたいと思います。APD、記事にこっそりタグを付けていたのですが気が付かれた方いるでしょうか。
発達障害関連の情報収集をしていると時折見かけるこのAPDという言葉ですが、日本語でいうと聴覚情報処理障害となります。Auditory Processing Disorder の頭文字をとって APD。
Auditory=聴覚の
Processing=プロセス(処理)に関する
Disorder=障害
簡単に説明すると、聴力自体は正常であるにも関わらず、日常の色々な場面で聞き取りに関して困難がある、というのがその症状になります。
聴力自体は正常、というところがポイントですね。このため、何か聞こえに問題があるのではと疑って病院に行っても、聴力検査で異常なしとされてしまうということが起こるわけです。
本人が感じている困難が周囲に理解されないという状況に陥りがちになるというのは、発達障害と同じ見えにくい障害といえるかもしれません。
APDについて、発達障害関連の情報収集をしていると時折見かけるといいましたが、どうやらAPDは発達障害と関係が深いと考えられているようです。というのも、APDの症状を訴える患者の実に半数以上に発達障害があるというデータがあるからです。はっきりした因果関係はまだわかっていないようですが、これはかなりの割合といえるのではないでしょうか。
ちなみに、APD自体を発症している人の割合は、人口の約1%と言われています。自覚されていない方も多く含まれていると思いますが、単純に考えると国内だけでも120万人前後の方が聞き取りに関する困難を抱えていることになります。
APDはストレスなどにより後天的に発症することもあるようですが、基本的には先天的な脳機能の問題と考えられています。しかし、やはり詳しい原因は分かっておらず、それゆえ明確な治療法があるわけでもないようです。そうした点も発達障害に通じるところがありますね。
対策としては、環境を調節するなどして本人の困り感を解消していくしかないようですが、これにはどうしても周囲の理解が必要な側面があります。しかし、認知度が低いとなると、周囲への働きかけも難しい部分が出てくるでしょう。
そういう障害があるのだということが少しでも世間一般に広まってゆくとよいのですが、現在、APDはまだまだ一般に認知されているとは言えない状況です。そもそも、診断できる医師自体が日本国内には少ないそうです。つい先日も、都内でAPDを診察できる数少ない耳鼻科クリニックの一つがAPDの扱いをやめてしまうということで話題になりました。
では、自分はADPかもしれないと疑っている人はどうしたらいいのかということですが、そちらのクリニックのサイトにおいて、APDのチェックリストを見て本人が当てはまると思えばAPDと言ってよいだろう、みたいなことが書かれていました(サイトも閉鎖されてしまったので記憶に頼ってます)。
そうはいっても、「当てはまってるな」で自称していいものかどうかはやはり迷うところかもしれません。しかし、現時点では聴覚検査で異常が見つけられず、主観による訴えから判断するしかないとなれば、それでも成立するのかもしれません。
実際、診察を受けたとしても、かなり簡単な問診で診断がつくようです。それでも、医師にちゃんと言ってもらえると、やはり安心するというか腑に落ちる感が大きいというのはあると思いますが。周囲に説明もしやすくなるでしょうし(私自身も現在自称APDですが、自分の聞こえが人と違っていたとはまったく驚きです)。
そのチェックリストを引用させていただきたいところなのですが、サイトが閉鎖されてしまったので別の解説サイトなどで挙げられていたものを拾いあわせて下に並べてみます。いくつあてはまればAPDだというような基準はありませんが、症状の具体例として見てもらえれば幸いです。
・聞き返しや聞き誤りが多い
・雑音など聴取環境が悪い状況下での聞き取りが難しい
・ 複数の人が話していると混乱する
・「え?」「何?」と聞き返すことが1日5回以上ある
・口頭で言われたことは忘れてしまったり、理解しにくい
・早口や小さな声などは聞き取りにくい
・話を聞きながらメモやノートを取るのが苦手
・長い話になると注意して聞き続けるのが難しい
・キーキー怒っている人の話が聞き取れない
・視覚情報に比べて聴覚情報の聴取や理解が困難である
・ 横や後ろから、話している人の口元が見えない状態で話しかけられるとうまく聞き取れない
・ 電話やスピーカーなど機械を通したアナウンスが聞き取れない
・ 映画は邦画や洋画の吹き替えよりも、洋画を字幕で見るほうがストーリーが理解できる
・ 音のする方向や距離感をつかみにくい
・ 口頭で名乗られた名前をすぐに失念する
いかがでしょうか。
私の場合、8割方の項目について「あるある、そうそう」と首を縦に強く振るような感じです。
他にも、初見の言葉や聞き慣れない単語がうまく聞き取れないというのもありますね。その昔、電話口で「イチリョージッチュー」と言われて、「はい?」「はい?」「え?」「なんですか?」と何回も聞き返してしまい、相手をうんざりさせたというか、バカだと思われたのは今でもよく覚えています。「一両日中」、相手にとっては当たり前のビジネスワードだったのかもしれませんが、こちらはまったく使ったことがなく、その場で出てくるのも想定してなかった言葉でした。
それにしても、何回も聞き返されたら言い方を変えるとかしてみりゃいいじゃねーかと思ったりもするんですが、当たり前に知ってることを知らないとか、当たり前にできることができないというのは、当たり前の中だけで済ませられている人にとってはなかなかに想像外のことで、やはりお前が悪いとされたり、バカにされたりしがちになるということなんでしょう。
また、対策の一つに、相手の口元を見て話すといいというのもあるそうなんですが、マスクがどうの以前に、ASD者にとって話している相手の顔を見るというのは至難の業なので、これはいささかハードルが高すぎるように思います。
さて、APDという観点から考えてみると、前回、前々回で書いた電話や飲み会に対する苦手意識の底には、聴取環境の悪さがかなり大きく関わっているように思います(私の場合、そこに社交不安障害やパニック障害が関わってくるので複雑になります)。
あるいは、小学校時代に国語の授業で教科書を音読しても内容がまったく頭に入ってこなかったという話を何度か書いたことがありますが、あれなどもAPD由来と言えそうです(国語の授業なんてやることないから時間を潰すためにわざわざ音読なんかやっているのだと、長いこと本気で思ってました)。
また、音楽は好きですが、ラジオや落語のような特に言葉を聞き取ることを主とするメディアや表現にあまり惹かれない要因もこの辺にありそうです。
学校というか教育について考えると、音読だけでなく、基本的に講義形式(教師が話しているのを耳で聞く)であるということ自体が、自分には向いてなかったようにも思えます。理解のしやすさという点から言えば、自分のペースで教科書や参考書に取り組む方がはるかに効果的だったし、自分の特性に合っていた。それは振り返ってみると身に染みて分かることだったりもします。
ところで、国内でAPDを公表している著名人は寡聞ながら知りませんが、海外ではビリー・アイリッシュが公表しています。
ビリー・アイリッシュはトゥレット症候群も公表していますが、これは本人の意志とは無関係に顔や体などにけいれん(チック症)が起きる疾患で、発達障害にカテゴライズされています。ちなみに、私も思春期から青年期にかけて音声チックがありました(これはおそらくストレス性)。
ビリー・アイリッシュはAPDがあることから学校に通わず、ホームスクールを選択したそうですが、まことに本人の特性にあった教育をされたのだなと、3、40年前の日本の画一教育に無理やり押し込められ続けた自分などはうらやましく思います。
また、以前、聴覚や聞き取りに関する自分自身の困難や困り事について述べるときに、聴覚過敏やワーキングメモリの低さを根拠にしたことがありましたが、これもAPDとして捉えた方がしっくりくるようです。
正直なところ、それらの区別がいまいちわかってないというのもあるのですが、素人目にはどうもAPDという概念?には、聴覚過敏もワーキングメモリの低さも包括されているように思われるからです。
例えば、上のチェックリストでいうと「キーキー怒っている人の話が聞き取れない」というのは聴覚過敏的な特性に思えますし、「口頭で言われたことは忘れてしまったり、理解しにくい」や「話を聞きながらメモやノートを取るのが苦手」や「長い話になると注意して聞き続けるのが難しい」といった点などはワーキングメモリの低さから来るものに思えます。
それもしかし、APDと言ってしまえば、すべてひっくるめて表現できるわけです。
というか、それらを明確に区別することはそこまで大事ではないというか。医学的にはどうかわかりませんが、少なくとも当事者的にはそんな気もするわけです。
いただいたサポートは子供の療育費に充てさせていただきます。あとチェス盤も欲しいので、余裕ができたらそれも買いたいです。