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25 火事

ショッピングモールで買い物をしていたとき、男は突然腹を下した。お昼に食べたものが当たったのだ。

あわてて近くのトイレに駆け込むと、個室はすべて埋まっていた。空くのを待っている余裕はなかった。男は大急ぎでフロアの反対側にあるトイレに向かった。

「避難した方がいいな」

すれ違いざまに誰かが言うのが聞こえた。その言葉に続くようにして、他の買い物客たちがぞろぞろと出口に向かいはじめた。

火事だって。その中の誰かが言った。

男はちょうど人波に逆らうような格好になった。むしろ都合がよかった。これなら絶対にトイレは空いているはずだ。

「そっちはダメだ!」

誰かに呼び止められたが、構っている余裕などなかった。もう出かかっていたのだ。

男は脂汗をにじませながら、トイレマーク目指してテナントを突っ切って走った。

思った通り、トイレには誰もいなかった。男は便座に座ると同時に大量の便を放出した。際どいところでセーフだった。

ふおお、むう。

誰もいないと思うとつい声が出てしまった。少し間を置いて第二弾と第三弾が出ると、ようやく危機は去ったように感じた。

男は大きく息を漏らし、その場でぐったりとなった。

ふと見ると、備えつけのサイドボードに雑誌が読み捨てられていた。

何気なく手に取ると、男の好きなゴシップ記事満載の週刊誌だった。おまけに袋とじも未開封だった。男はほくほく顔でアイドルの密会記事から読みはじめた。

すぐに夢中になり、次に気がついたときにはもう手遅れだった。

翌日、男は焼け焦げた週刊誌を手にしたままの状態で消防隊員に発見された。袋とじは開けられていた。

いただいたサポートは子供の療育費に充てさせていただきます。あとチェス盤も欲しいので、余裕ができたらそれも買いたいです。