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レベニュー組織を貫く「収益戦略」と「ストレッチ指標」

各組織の戦略の前に「収益戦略」を立てる

前章で3年後を見据えた「事業の勝ち筋」と1年後までの「戦略」アクションを明確にしました。次に取り組むべきは、マーケティング・セールス・カスタマーサクセス・カスタマーセールスといったレベニュー組織を貫く「事業計画」を立て、「ストレッチ指標」を決めることです。

「レベニュー戦略」とは具体的に以下と定義しています。

今後1年間で、どの顧客から・いくらの売上を作るのかを整理したガイドマップ。レベニュー戦略にもとづき、マーケティング・セールス・カスタマーサクセス・カスタマーセールスといった機能組織の「ミッション」「機能戦略」「KPI目標」が定められる

筆者作成

この「売上づくりの地図」となるレベニュー戦略を組織として設計し、各機能組織と「理解を揃えながら」役割分担できるかが、事業内の組織(マーケティング・セールス・カスタマーサクセス・カスタマーセールス)がスムーズに事業成長に邁進できるかの鍵を握ります。


本章のサマリー

スタートアップにおける収益戦略を考えるとは

  • 「エンプラか、SMBか」の最大の分岐を決めて、

  • 売上実績を「指標に分解」して現状を把握した上で、

  • 「事業計画」を組み立て「ストレッチ指標」を設定し、

  • ストレッチ指標を達成するための「キーアクション」を決定すること

です。事業目標を達成するための計画を指標に分解し、どの指標をストレッチさせて事業を成長させていくか、そのために具体的に何をすべきかを決めていきます。

本章では「エンプラ向けBtoB事業」を前提に、、現状分析から事業計画の組み立て方、「ストレッチ指標」と「キーアクション」の決め方を解説していきます。ぜひ最後まで読み進めていただけたら嬉しいです。

最大の分岐は「エンプラか、SMBか」

「レベニュー戦略」を考える上で、最大の分岐は「エンプラ・SMBどちらを狙うか」です。

RightTouch野村さんが解説されているように、エンプラ向けとSMB向けは「全く違う競技」のため、どちらを選ぶかによって事業の方向性が大きく決まり、それに合わせてレベニュー戦略も決まります。

必ず最初に「エンプラか、SMBか」の論点に決着をつけ、ざっくりでもいいので売上目標を達成するために「売上 = 顧客数 x 顧客単価」がどうなっていないといけないかを試算しておきましょう。

なお、本マニュアルは私の「エンプラ向け」事業責任者の経験に基づいて作成していますので、以降もエンプラ向けを前提にして解説していきます。

「収益戦略」を考えるステップ

では具体的に、どうやって「収益戦略」を策定していくかを見ていきましょう。BtoBエンプラ向け事業で「収益戦略」を考えるステップは以下の4つです。

💡 「収益戦略」を考える4ステップ
ステップ❶ 現状の売上を「指標に分解」して把握する
ステップ❷ 「事業計画」を組み立て「ストレッチ指標」を決定する
ステップ❸ ストレッチ指標達成のための「キーアクション」を設定する
ステップ❹ 「実行戦略」を設計する 

収益戦略を描く上で、現状把握のための「情報・データ」が重要になりますが、それらの「未整備」が進める上でのハードルになるケースも多いと思います。

その場合でも、「正確さ」「厳密さ」にこだわりすぎず、ヒアリングや仮説ベースでも、数値を組み立ててみることが重要です。その上で、今後「モニタリング」ができるようデータ取得方法・運用を整備して、目標との「ギャップの可視化」や「改善のPDCA」が回せる環境を作りにいきましょう。

ステップ❶ | 現状の売上を「指標に分解」して把握する

始めに、過去のデータ(通常は12ヶ月分)を用いて現状を「指標に分解」して把握していきます。

BtoBエンプラ向け事業だと、一般的な「The Model」型のリード→アポ→商談→受注という新規獲得の流れだけでなく、「ABM」型にで既存アカウントの「アップ・クロスセル」を含めた指標を把握していく必要があります。

① アカウント別の売上

BtoBエンプラ向け事業で重要なのが「アカウント(≒ 企業)毎の売上」の把握です。1アカウントに対して複数の商品・サービスを導入することでARPA(Average Revenue per Account: 社単)を高めていくためには、商品・サービス毎の売上だけでなく、アカウント毎の売上を可視化し、意志を持って引き上げていくことが重要です。

まずは1) アカウント毎の年間のARPA、2)ARPAに含まれる商品・サービスの構成比を把握し、次に以下の例のように3) ARPAの規模感で3つ程度にカテゴリ分けした上で、4) 各カテゴリを新規・既存アカウントに分解していきます。

例) ARPAでのカテゴリ分け。3つのサービスを提供する企業を想定
❶  |  1サービス導入でARPA1,000万円以下。社数は80社(内、新規50社)
❷  |  1-2サービス導入でARPA1,000-3,000万円。社数は16社(内、新規9社)
❸  |  3つのサービス導入でARPA6,000万円超。社数は4社(内、新規1社)

可視化することで、上位アカウントではARPAをいくらまで持っていけているか、どういった商品・サービスの組み合わせになっているか、新規 vs 既存ではどの程度の割合を想定しておくべきかなどを把握していきます。

② 受注ファネルのコンバージョン

次に、新規・既存アカウントそれぞれで「売上=アポ数 x 商談化率 x 受注率 x 受注単価」の各指標を可視化していきます。もし管理できているのであれば「提案金額→受注金額」のコンバージョン率を見れると、より精緻な現状把握が可能です。

重要なのは新規・既存アカウントを分けて可視化することです。新規受注と既存アップ・クロスセルでは当然難易度も平均的な受注単価も変わります。これらをごちゃ混ぜにせず、個別に把握するのがポイントです。

ステップ❷ | 「事業計画」を組み立て「ストレッチ指標」を決定する

次に今後1年間の「売上目標」を「分解」して設定していきます。いわゆる「事業計画」や「予算」を作るステップになりますが、その作り方は事業モデルやフェーズによって作成プロセスはかなりバラツキがあります。

ここでは「成長を前提とする」スタートアップのエンプラ向けBtoB事業(プロフェッショナルサービス)という前提で、流れを解説していきます。

💡「事業計画」作成の5ステップ
1.  売上目標・許容獲得コストの設定
2.  既存アカウントからの売上目標の設定
3.  既存注力アカウントの①個社毎のARPA目標・アカウントプランの設定
4.  新規アカウントでの売上目標の設定
5.  新規獲得プラン(②アポ数 x ③商談化率 x ④受注率 x ⑤受注単価)の設定

多くのスタートアップでは1年間で大きな売上成長が必要になると思いますので、下線①~⑤の何れかの指標で、現状よりもジャンプアップした事業KPI=「ストレッチ指標」を設定することになると思います。そして、この1) ストレッチ指標を何にして、2) どの程度伸ばせると置くかこそが「収益戦略」の最も重要なポイントです。

このストレッチ指標の決定にこそ、本マニュアルで重要視している「ナレッジ」が大きく影響します。なぜなら、1) 何をストレッチ指標とすべきかも、2) どの程度伸ばせると置くかも、各領域の「よくある課題や効果的な解決策」を知らないと、正確な設定は不可能だからです。

各領域での最新のセオリーや成果が出た成功事例を知ることで、自社で現状やれていないことを把握でき、そこを「伸ばし余地」と認識することができます。もちろん全てをそのまま転用できるわけではありませんが、気づき・試してみる意思決定ができるかは、本当に「知っているか・知らないか=ナレッジ」に依存します。

この「攻略本」の主眼もこの「ナレッジ」にあるため、後続する章で各領域で「事業責任者が知っておくべき」内容を総ざらいしていきます。プレックス黒崎さん・Chatwork福田さんも解説されていますが、扱える変数・コントロール可能な戦略変数を増やすには「インプットとアウトプットを繰り返して努力し続けるしかない」です。本マニュアルでインプットを圧倒的に効率化して、アウトプットに注力して戦略変数を増やしていきましょう。

ステップ❸ | ストレッチ指標達成のための「キーアクション」を設定する

「ストレッチ指標」を設定したら、次に、具体的にどうやってその高い目標を達成できるかの「キーアクション」を具体的にプランニングしていきます。

事業責任者として短期的に成果を出せるかは、この「キーアクション」の筋の良さにかかっています。そして、このキーアクションの設定にも「ナレッジ」が大きく影響します。

例えば、”営業で大きな成果を出して抜擢された事業責任者”にとって、「マーケティング」や「カスタマーサクセス」といった未経験領域で、KPIを大きく改善する施策を考え、それに投資を振り向けるハードルは非常に高いはずです。そのため「カスタマーサクセス」で施策を打つほうが改善可能性が高いケースでも、気づかずに解像度の高い「セールス」施策を優先してしまい、事業成果につながらない…という結果を招いてしまうのです。

ステップ❷の「ストレッチ指標」で伸ばし余地に気づけるかと同様に、この「キーアクション」で実際に伸ばす打ち手をプランニングできるかも、「知っているか・知らないか=ナレッジ」に大きく依存します。

それぞれの領域のナレッジの詳細解説は各章に譲るとして、ここでは筆者が経験してきた「エンプラ向けBtoB事業」を例にして、ナレッジがいかに「ストレッチ指標・キーアクション」の意思決定に影響するかをサンプルとしてご紹介します。

💡 エンプラ向けBtoB事業での「ストレッチ指標・キーアクション」設定

事業状況
: 前年にターゲット顧客への第1ソリューションの導入は加速。新規事業として取り組んできた第2ソリューションが育ってきたタイミング

ナレッジ: ①営業・カスタマーサクセスともに「既存アカウントへの営業」には向き合いづらい、②既存アカウントに向き合うセールス組織があるとクロスセルでARPAを伸ばしやすい、③営業・カスタマーサクセスとの役割のすみ分け設計が重要

ストレッチ指標: 既存顧客のARPA

キーアクション: カスタマーセールス組織の立ち上げ(営業が属人的にクロスセルしている状態から、専任チームを作り組織的にクロスセルを促進

上記の例でも、RightTouch野村さんのnoteなどで、他社の「カスタマーセールスによる既存顧客ARPA拡大」の成功事例を知っており、それが自社に転用できそうと判断できたからこそ、既存顧客の深耕にリソース・投資をフォーカスできた経緯があります。

ステップ❹ | 「実行戦略」を設計する

売上目標達成に向けた「事業KPI」を分解して、「ストレッチ指標」と「キーアクション」を決めたら、①それらを各機能組織・個人に割り振っていきます。その上で、それらの進捗を確認できる②「モニタリング環境」を構築していきましょう。

この①KPI設計、②モニタリング環境構築は、戦略を「実行」する上で超重要な戦略になりますので、次の章の「実行戦略」で詳細に解説していきます。

本章のまとめ

スタートアップにおける収益戦略を考えるとは

  • 「エンプラか、SMBか」の最大の分岐を決めて、

  • 売上実績を「指標に分解」して現状を把握した上で、

  • 「事業計画」を組み立て「ストレッチ指標」を設定し、

  • ストレッチ指標を達成するための「キーアクション」を決定すること

です。事業目標を達成するための計画を指標に分解し、どの指標をストレッチさせて事業を成長させていくか、そのために具体的に何をすべきかを決めていきます。

次は本章のステップ❹で解説した「実行戦略」を詳細に見ていきましょう。この実行戦略はどんな戦略を実現する上でもすごく重要かつ「こだわった運用」が必須になります。本章では語りきれませんでしたので、ぜひ次の章もご覧いただけたら嬉しいです。


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