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戦略を”絵餅”にしない「KPI設計」と「モニタリング」
事業戦略も収益戦略も「実行」がすべて
ここまでの章で中期的な「実行戦略」と、短期的な「収益戦略」を策定してきました。ここまででもかなりのボリュームがありましたが、ここで気を抜いてはダメです。なぜなら、戦略は「実行」が伴ってはじめて事業成長につながるからです。
そのため次に取り組むのが「実行戦略」を立てることです。成果を出すための2大ファクターである「戦略」と「実行」ですが、この「実行」が戦略以上に成果に大きく影響します。なぜなら、CyberACEの新さんが解説している通り、大きな成果を出すには「極端な」戦略か実行が必要で、極端な戦略は滅多に生まれないため、極端に実行できてるかが勝負を分けるケースが圧倒的に多いからです。
極端な戦略を全うに実行するか、
— 新 敬太@CyberACE取締役 | 組織開発と経営のネタ帳 (@keitara0713) January 23, 2024
全うな戦略を極端に実行するか、
でしか、どデカい成果は生み出せないので、今取り組んでいることに"極端な"要素があるかはチェックポイント。もっと言うと極端な戦略ってそうそう生まれないので、問うべきは極端に実行できてるか?な気がします。 pic.twitter.com/U6qgYB34VO
この「実行」を成功させるための方法論が「実行戦略」です。この章では実行戦略のうち、前編として「仕組み=KPI設計 & モニタリング」を見ていきましょう。
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本章のサマリー
事業戦略・収益戦略を「実行」するためには
「竜巻(日常業務)」の中でも実行する戦略を理解し、
「KPI設計」で正しい & 最重要な先行指標に集中して、
「スコアボード」でKPIをリアルタイムで可視化して、
「定例会議」で実行しきれる仕組みを作ること
です。事業戦略も、収益目標も「実行」されなければ絶対に達成されません。しかもそれを、日常業務が忙しいなかで「継続」しなければいけないため、個々のメンバーの頑張りに任せるだけではリスクが高いでしょう。
本章では「実行の4原則」を理解した上で、キーとなる「KPI・スコアボード・定例会議」の設計方法を解説していきます。ぜひ最後まで読み進めていただけたら嬉しいです。
「竜巻」の中でも実行するための4原則
さっそく具体的に「実行戦略」を検討していきましょう。
実行戦略を考えるのであればゼッタイに読んでほしい最高の教科書が「戦略を、実行できる組織、できない組織。」です。これまで1,000冊以上の読書をしてきましたが、3本の指に入る名著です!
この本が素晴らしいのは「戦略目標と日常業務を区別し、緊急度の高い日常業務=竜巻の中でも戦略を実行する術」を解説してくれているところです。リソースも資金も足りないスタートアップでは、「竜巻」の威力は凄まじく、油断すると日々のトラブルシューティングに忙殺されて、戦略的なアクションが取れなくなってしまった経験をした方も多いと思います。本書ではこの「竜巻」が強い前提で「実行」を完遂するための4つの原則が「4Dx」として解説されています。
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💡 実行の4つの原則「4Dx」
1. 最重要目標にフォーカス: 本当に重要な目標(遅行指標)を1-2個を選ぶ。複数に指標を追いかけようとするほど目標の達成可能性は下がる
2. 先行指標に基づいて行動: 遅行指標ではなく、遅行指標を成功に導く先行指標を追う。①目標達成を予想でき、②チームのメンバーが影響を及ぼせるのが適切な先行指標
3. 行動を促すスコアボード: リーダー用ではなく、メンバー専用のスコアボードが必要。①すぐに見られて、②買っているか負けているかが一目でわかるかが重要
4. アカウンタビリティのリズム: (少なくとも)週次の定例ミーティングで、前週の約束を果たしたか、スコアボードの先行指標・遅行指標はどう動いたか、来週は何をするのかを報告し合う
非常にシンプルかつ一見「当たり前」に感じられますが、4Dxは「言うは易し、行うは難し」です。4つの原則はまとまったセットで、好きなものだけ導入しても成果には繋がりません。だからこそ、この4つの原則を全て実践・定着させる必要があり、それにはマネジメントの相当な「覚悟と努力」が必須になります。
4Dxの1.2.原則は「KPI設計」、3.4.原則は「モニタリング」について規定されていますので、以降ではそれぞれを分けて解説していきましょう。
「KPI設計」のポイントは「経営 & 現場視点」
まずは原則1.2.の「KPI設計」から見ていきましょう。KPIについては樫田さんの「ガールズバー施策」のnoteが本当にわかりやすいので、未読の方はぜひ一度目を通してみてください。
noteで解説されている通り、良いKPIとは次の2つの要件を持っています。
💡 良いKPIの2つの要件
1. 正しさ(本質的であること): KPIの指し示す方向に向かうことが、最終的な目標を達成することに直結していること。正しくないKPIは無益どころか害悪にもなりうる
2. 使いやすさ: KPIを運用し、それを使って事業を良い方向に動かすことが容易であること。使いやすくないKPIは余計な複雑性や運用コストを生み、PDCAサイクルの阻害要因になる
そして、この2つの要件が必要であるからこそ「良いKPIを作るのは大変」です。なぜなら、「正しさ」と「使いやすさ」の2つの要素を「両立」している必要があり、かつワイエヌさんが樫田さんのnoteを図解してくれている通り、「経営視点と現場視点の両方」を持たないといけないからです。
@hik0107 さんの「良いKPIとはなにか」を図解してみた。
— ワイエヌ (@vxyn) January 1, 2019
[図解]良いKPIとはなにか|vxyn @vxyn|note(ノート) https://t.co/5FM9SXnZTf pic.twitter.com/AJcFP2wWYZ
「事業責任者」が設計すべきKPI
KPI設計について本や記事で「KPIは”Key” Peformance Indicatorだから「絞り込み」が大事、1-2個じゃないとダメ」といった情報を見たことがある方は多いと思います。
一方で、販売から運用までを一気通貫で見ている事業責任者からすると「事業にKPIは1-2個だけって、無理じゃない!?」と感じるのではないかと思います。私も「KPIはフォーカスが重要」と最初に聞いたとき、同様の違和感を覚えました。
もちろん事業にとって1番重要なKPIを見極めてフォーカスしていく姿勢は大事な一方、新規事業やスタートアップのシード/アーリー期でなければ、複数のKPIを並列して愚直に改善していくことも重要です。そして既存事業であれば既に「機能組織」が作られており、リーダーとなれる組織長がいるはずです。
そういった状況において、「事業責任者の視点」での適切なKPI設計は以下のような構造になります。機能組織ごとに本当に重要な「最重要目標」を設定し、その達成のために①正しくて、②使いやすい「先行指標=KPI」を決定していきます。
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メンバーの「行動を促す」個人KPI
4Dxの原則3.「行動を促すスコアボード」に繋がっていくため非常に重要なのが、メンバーが追いかけることになる「個人KPI」の設定です。ワンメディアよごろさきさんが解説されていますが、このKPIには「テンションが上がる、エモい指標」を使うことが重要です。
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noteにも記載のある「一生懸命KPI を作った側にとっては、全部の構造を説明して一緒に追いかけたくなるのですが、設計者以外は【KPI ツリー全体には興味がない】と思ったほうがいい」は本当にその通りだと思うので、各メンバーが気持ちよく追いかけられる指標を設定しましょう。
【事例】エンプラ向けBtoB事業のKPI設計
ここまでKPI設計のルールについて整理してきました。ここでは一つのサンプルとして筆者が経験してきた「エンプラ向けBtoB事業(プロフェッショナルサービス)」でのKPI設計をポイントとセットでご紹介します。
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💡 KPI設計のポイント
1. 既存アカウントの深耕: エンプラ向けでターゲット企業が少ないため既存を重視した設計
2. 新規はターゲティング前提: ターゲットアカウントからのアポのみ評価
3. 額が率か: 優先してほしい行動に基づいて意識的に設定
4. マーケ: 自分でコントロールできる指標として「ターゲット事例獲得」を重視。そこで獲得した事例を武器に、①新規はキーマンへのお手紙・②既存はマルチチャネルでアポを打診
5. セールス: 同キーマンクロスセル or 同企業他キーマン新規受注を優先。新規アカウントはマーケ供給か、過去顧客/落ち顧客に専念
6. カスタマーサクセス: プロフェッショナルサービスで高単価のため、顧客側のROIが合う「成果」創出にフォーカスし、アップセル・クロスセルの土台づくりに専念
7. カスタマーセールス: 同キーマンから獲得できる受注を最大化。商品はIDベース課金ではない=商品あたりの単価は固定のため、同キーマンからニーズを聞き、提案しているかの「率」を注視
KPIは「スコアボード」でいかに確認頻度を上げられるか
次に、4Dxの原則3.「行動を促すスコアボード」について見ていきましょう。スコアボードやダッシュボードというと、管理者のための複雑で膨大な数値が並んだものを想像する方が多いと思いますが、「実行戦略」におけるスコアボードは「メンバー」が見るための「行動を促す」ものです。
メンバーのための、行動を促せるスコアボードにしたければ、以下の条件を満たす必要があります。
💡 行動を促すスコアボードの特徴
1. シンプル: 竜巻の中でもメンバーが見たくなるシンプルなスコアボード
2. すぐに見られる: メンバー全員がすぐに見れる状態にすることで確認頻度が上がる
3. 先行指標と遅行指標が示されている: 実績と目標の両方を示す。「現在地」だけでなく「現在いるべき位置」と「ギャップ」を可視化する
4. 勝っているかどうか一目でわかる: 勝っているか負けているか5秒以内に言えるのが必須
5. 更新しやすい: 少なくとも週一回は更新するからこそ、更新しやすいデザインが大切
具体的なダッシュボードの作り方はビジネスダッシュボード 設計・実装ガイドブックで非常にわかりやすく、丁寧に解説がなされていますので、構築方法に興味がある方はぜひ一度読んでみてください。
スコアボードのポイントは、とにかく「見にきやすい・見にきたくなるかどうか」です。追いかけたくなるエモくて良いKPIを設計した上で、日々の業務でスコアボードを見ることで、「テンションが上がる瞬間」とKPIを紐づけられるかがカギになります。チューリング田中さんが解説している「KPIを気にする頻度とKPI達成は正相関する」はその通りだと思います。
体重計に乗れば乗る程痩せ、家計簿を確認すればする程お金は増え、マーケティングダッシュボードを見れば見る程リードは増え、営業ダッシュボードを見れば見る程売上は増える。KPIの進捗は「KPIを気にする頻度」と正相関する。改善したいKPIがあるならいつでもすぐに確認できる体制を作り切る事が大事
— 田中大介/チューリング株式会社COO (@DaisukeMAN) February 20, 2022
「定例会議」の質が実行しきれるかを決める
最後に4Dxの最後の原則「アカウンタビリティのリズム」について見ていきましょう。
ここまでの「KPI設計」も「スコアボード」も実行戦略の必須要素ですが、「定例会議」を通して実行を続けて始めて「竜巻」の中でも戦略目標に向き合い続け、達成することができます。そのため、この「アカウンタビリティ」こそ、実行戦略の最も重要な要素です。
具体的にやるべきことは、前週の約束を果たしたか、スコアボードの先行指標・遅行指標はどう動いたか、来週は何をするのかを報告し合う「週次の定例会議」の設定です。この定例会議では以下の3つを議題とします。
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シンプルに見えますが、定例会議の設計・運用には気をつけるべきポイントが沢山あります。メンバーをサポートし、目標達成に向けたアクションを実行し切ってもらうるには、ここまで「こだわった」定例会議での組織的なサポートが必要だということです。
💡 定例会議を成功させる鍵
予定通り開く: 竜巻が吹き荒れていても「毎週同じ曜日・同じ時間」に開く
簡潔に行う: テキパキと進めて、20-30分に収める
リーダーが先陣を切る: スコアビードで結果をレビューしたら、次にリーダーから先週の約束について報告する(活動の手本になる)
スコアビードを掲げる: 更新されたスコアボードを見ながら会議を行う。スコアボードによって、チームの意識を常に「成果」に向かわせる
成功を称える: 約束を果たし、指標を動かすことができたら、チームと個々のメンバーを称える
学習事項を共有する: 一週間で先行指標を動かすのに効果のあった・なかったことをお互いに学ぶ
竜巻が吹き込むのを防ぐ: 日常の仕事や雑談は別の場で!スコアボードを動かせる活動の話し合いだけにフォーカスする
協力して道を切り開く: 約束の実行を阻む障害があれば、協力して取り除く
竜巻が吹いていても実行する: 竜巻が吹いていても、約束を実行することは無条件の義務。その週に実行できなければ、次の週までには必ず実行し、責任を果たすように促す
約束にはルールを: 「一つか二つ」「最も重要」「具体的」「私が(個々人が責任を持って実行できる)」「今週」「スコアボードを動かす活動」が翌週の約束の要件
ナレッジワーク麻野さんも解説されていますが、定例会議の機能不全は成果に直結します。たかが「定例会議」、されど「定例会議」です。戦略やKPI設計が正しくできていれば、成果を決めるのはメンバー個々人の「実行=やり切り力」であり、それを組織として支援するのが「定例会議」なので、手を抜かず細部にこだわって設計・運用していきましょう。
成果があがっていない組織は大抵、定例会議が機能不全になっている。未来に向けた経営戦略の話をすべき取締役会で月末に向けた営業案件の話をしている。成果を生み出すためのPDCAの話をすべき進捗会議で細かいタスク確認をしている。会議の目的を適切にデザインし、実行できる組織は以外に少ない。
— 麻野耕司 / ナレッジワーク (@asanokoji) June 9, 2022
具体的にどういった定例ミーティングをやると良いか・どんなフォーマットを使うと良いかなどは、田岡さんのnoteにフォーマット無料ダウンロード付きで解説されています。ぜひご一読ください。
本章のまとめ
事業戦略・収益戦略を「実行」するためには
「竜巻(日常業務)」の中でも実行する戦略を理解し、
「KPI設計」で正しい & 最重要な先行指標に集中して、
「スコアボード」でKPIをリアルタイムで可視化して、
「定例会議」で実行しきれる仕組みを作ること
です。事業戦略も、収益目標も「実行」されなければ絶対に達成されません。しかもそれを、日常業務が忙しいなかで「継続」しなければいけないため、個々のメンバーの頑張りに任せるだけではリスクが高いでしょう。
本章で学んだ「実行の4原則」「KPI」「スコアボード」「定例会議」を活用して、絶対に「実行」しきれる組織づくりにトライしてみてもらえたらと思います。
次は収益戦略のキーとなる「マーケティング」について見ていきましょう。
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