見出し画像

「社長isキング」ではビジョンは実現できない

これまでは、社長である僕にあらゆる権限が集中していました。

いっときは、人事部長とコンテンツ部長、プロダクト部長を兼任していたくらいです。なにか決めるにしても「これどうしますか?」「あれはどうしますか?」と社員から聞かれて僕が判断する、という感じ……。

いわば「僕の個人商店」の延長で成長してきたのですが、これじゃ成長に限界があるなーとずっと思っていました。

気づけば、運営するサービス「マイベスト」は月間ユーザーが3000万人を超え、社員も200人を超えてきました。

ここからもっと大きな組織にして、世界中の人に使ってもらうサービスにするためには権限委譲は急務だと改めて思っています。

社員みんながリーダーシップを発揮できる組織へ

僕らが果たすべき使命は、"最高の選択体験"を実現すること

これがマイベストの「ミッション」です。この1点のみを使命として、僕らの会社は存在しています。

ユーザーに最高の選択体験を提供して、世界中の人が使う便利なサービスにする。日本発のサービスで世界中の人が使うようなサービスを実現した会社は、いまだにありません。それぐらい大変なことなのです。

これは僕だけのリーダーシップでは到底実現できません。社員みんながそれぞれリーダーシップを発揮していくことが求められます。

必要なのは「行動指針」

これまでもミッションを実現するために必要不可欠な価値観として「誠実でいよう・協力しあおう・ストイックにやろう」という3つの「バリュー」を設定していました。

ただ、バリューだけだと「具体的にどういう判断をすべきか」というところまで落とし込めません。これでは「誠実な判断って何?」というように人によって解釈が異なるケースが出てきてしまう。

そこで今回、ミッションを実現するための判断基準をできるだけ手触り感のある言葉に落とし込んだ「クレド」を作りました。(クレドは一般的に「行動指針」と訳されると思いますが、マイベストにおけるクレドは「判断指針・判断基準」という感覚が強いです。)

クレドのとおりに判断すれば、会社のビジョン・ミッション・バリューの実現に向けて全員が同じ判断をしていけるようになる。そうすることで権限委譲がしやすくなり、社員みんながそれぞれリーダーシップをもって事業を引っ張っていけるようになるはず。

これからは、「社長 is キング」だった組織を「社員みんながリーダーシップを発揮できる組織」に変えていきます。

僕らはこうして「クレド」を作った

冒頭でも言いましたが、これまでは基本的に僕が全部判断してきました。

とはいっても「僕がこうしたいから」「僕の理想はこうだから」といったひとりよがりな判断ではなく、「会社のビジョン・ミッション・バリューの実現に向けてどう判断すればいいか」をつねに考えて判断してきたつもりです。

そうやって数多くの判断をしていく裏で、けっこう前から「なんとなく感覚的に判断してきたこと」や「判断基準みたいなものを作るとしたらこんなところかな」といったことをメモしていたんです。

今回作ったクレドは、そのメモがベースとなっています。

別に僕の判断基準に従ってほしいというわけではありません。でも、やっぱりうちの「DNA」みたいなものを作ってきたのは、僕が中心ではある。会社のDNAみたいなものをより明確にして、僕以外の人が意思決定できるように、と思ってクレドを作っていきました。

役員にも見せて意見をもらったうえで、最終判断は僕がしました。自分のこだわりが出てしまった部分も正直ありますが「これはこういう意図があって」「ああそういう意味なんですね」といったやりとりを経て、クレドに落とし込んでいきました。

僕らのクレドはこれだ!

前段が長くなりましたが、僕らのクレドをご紹介します。

1、ユーザーファーストであること
2、朝令暮改を厭わないこと
3、"なぜ"を5回繰り返すこと
4、持続的なものを作ること
5、ベンチマークよりもよくすること
6、ファクトベースで考えること
7、守るべきものを守ること
8、リアリストであること
9、細部にこだわること

「このクレドを全部ちゃんとできる人なら社長もできる」と言えるぐらい、一つひとつのワードまで、めちゃくちゃこだわり抜きました。

気をつけたのは抽象的になりすぎないことです。

たとえば「つねに革新を目指すこと」という項目もあったのですが、そう言われてもなかなかピンと来ないし、行動に移しにくい。だから、「朝令暮改を厭わないこと」という言葉に変えました。

こんな感じで、イメージしやすく、判断の指針にしやすくなるよう、より手触り感のある言葉にすることを心がけました。

メンバーのみんなが日々の意思決定で迷ったときは、このクレドを拠りどころにしてもらいたいなと思っています。

ひとつずつ簡単に解説していきます。

1、ユーザーファーストであること

「ユーザーファースト」はうちにとっていちばん重要な判断指針です。

もう少しブレイクダウンすると「ユーザーを主語にものごとを考えること」であり「ユーザーの長期利益を最大化すること」であり、そのために「誠実に真実・あるべき姿・品質を追求すること」です。

株主・取引先・従業員など、さまざまなステークホルダーの中でユーザーを最も重視する必要があるので、時には厳しい決断を下さなければなりません。

これは非常に難しいことですが、難しいからこそ価値があることだと思います。非常に難しいことだけどやらなきゃいけないこととして、僕らはいちばん重視しているんです。

実際、マイベストのなかで議論をするときは、基本的に「ユーザー」を主語にします。「ユーザー」が主語になってない議論はないですね。

ちなみに、過去にはオフィスのWi-Fiのパスワードを「userfirst」に設定していた時期もありました。マイベストのDNAの一丁目一番地であることを外部・内部ともに浸透させるためには、なるべく身近なところにおいた方がよいと思ったんですよね。それくらい大事にしているクレドです。

ユーザーファーストについては僕たちの具体的な取り組みをこちらのnoteにまとめているので、よろしければお読みください↓

2、朝令暮改を厭わないこと

「朝令暮改」というのは、一般的には悪いニュアンスで使われることが多いですよね。

だけど僕は朝令暮改は「していい」と思っています。昨日の時点では、その意思決定が正しかったかもしれない。だけど毎日、状況や自分の知識はアップデートされるわけです。つまり今日の意思決定がいちばん正しい確率が高いはず。本当はつねにゼロベースでいいはず。本当はつねにゼロベースで考えるべきで、いままでの議論の経緯を踏まえる必要はまったくありません。

だけどやっぱり「ここまではこう議論してきたから」「こいつこんなに頑張っているからな」「関係性が崩れちゃうんじゃないか」といったことが気になって、朝令暮改することができないんです。過去にとらわれて変革が起こせなくなると、企業は衰退していきます。

僕は企業が潰れるのは朝令暮改できないときだけだなと思っています。

たとえばトヨタっていまはめちゃくちゃ資本があります。ふつうに考えたら潰れるわけがない。だけど数百年後には潰れるときが来るかもしれません。それがいつなのかというと、イノベーションに対応できなかったときだと思うんです。

「朝令暮改を厭わない」はある意味「イノベーションを起こすこと」と同義だと思います。僕らはつねに非連続で成長していくし、そのためには過去に囚われてはいけないし、プライドを捨てないといけません。

産業革命が起きた時、蒸気機関ができたことで馬車の会社は衰退していきましたが、自動車の会社になれば良かっただけだと思います。ベンチャーが自動車を作っていたら、「馬車の一流企業だから」みたいなプライドを捨てて「それいいね。うちもやろう!」と言ってやるのがすごく大切なんです。

そういえば、前職の上司は朝令暮改の塊でした。

僕は新規事業を担当していたので、事業の提案をするんですね。上司から「こういう方向性だったらいいかもね。ちょっとその方向で調べてみて」と言われる。それで次の日に調べていたら「え、なんでそんなこと調べてんの?」と言われるんです。

当時はその振るまいをまったく理解できなくて「マジでなんなんだこいつ」と本気で思ってました(笑)。

だけどその上司は毎日いろんな人に会ってるので、考えがつねにアップデートされてたんです。DeNAの人に会うとDeNAっぽい考えになるし、リクルートの人に会うと次の日はリクルートっぽい考え方になる。とにかく新しい知見をどんどん増やして、上司自身が成長している。常に今日が一番成長した自分になるわけなので、大事なのは常に今の判断のみであるというわけです。

そういった背景から、昨日までの議論の流れを完全に忘れて、つねにゼロベースで「こういう事業のほうがユーザーに喜ばれるんじゃないか?」と意見を言ってくれていました。起業して本当の意味で事業を作る立場、経営する立場になって当時の上司のすごさを理解できるようになりましたね。

それ以来、僕も朝令暮改をためらわないように意識しています。

3、"なぜ"を5回繰り返すこと

「なぜを5回繰り返してくれ」は仕事中でもよく言います。

なんのためにするのかというと「本質を見極めるため」です。そうしないといつまでも対症療法になっちゃって、根本的な対応がとれないんですよね。

あと問題が起こったときは、

1. 原因究明
2. 類似事象の発生有無確認
3. 再発防止策
4. 再発防止策の運用チェック体制

の4つを必ず確認してほしいということもよく伝えています。これは問題対応のフレームワークで、文章にすると長くなります。だけどどうしてもクレドに入れたかったんですよね。

僕は証券会社にいたときから、このフレームワークを使い続けています。

証券会社で上場審査の仕事をしていると、毎日が問題や不祥事ばっかりなんです。バグや問題対処のプロフェッショナルとして、この4つに則って考えてきました。逆にこの4つさえちゃんとしていれば、どんな問題があっても対応できます。

たとえば問題が起こったときに「今後はこうします」って、再発防止策だけ言う光景をよく見かけます。だけどそれって4つの手順のうちの3つめしかないんです。

問題が起こったらまず「なぜ起こったのか?」を5回繰り返して原因究明をする。そうやって問題の本質を掘り下げていき「これまでに似たような話ってないの?」「どうすれば今後は防げるの?」「その再発防止策がちゃんとなされてるかどう確認するの?」と順番に考えていくことが大切なんです。

4、持続的なものを作ること

このクレドは「何かを作るとき」の考え方です。

何を作るにしても、基本的には持続的なものじゃないと意味はないと思っています。会社・事業・オペレーション・コンテンツ、なんでもそうです。

うちのいちばんの強みでもある「オペレーション」を例に挙げてみます。一般的には「とにかくいま回ってるからいいよね」という考え方になりがちなのですが、それではダメです。

持続的なものにするためには、「いま回せてるからいいや」ではなく、「この先もずっと回し続けられるか」を考え、未来を見据えて仕組みを作ることが必要です。

ただし、「複雑で一部の人しかできない」仕組みや「誰かの自己犠牲により成り立つ」仕組みではダメ。仕組み化に至るまでの思考は複雑であっても、最終的にはシンプルにすることが大事です。属人性をできるだけ排除して、誰でもできるような仕組みを作る必要があります。

5、ベンチマークよりもよくすること

このクレドで強調したいのは、どちらかというと「まず最短距離で追いつけ」ということです。

最初からベンチマークを追い抜くことは考えず、まずは追いつくことを考えます。なぜなら「追い抜く方法を思いつくまで走り出さない」となるのがいちばんダメだからです。

最短距離でベンチマークに追いつくなら、何も考えずに同じフォームで全速力で走ればいい。追い抜く方法は追いついてから最後に考えればいいんです。

たとえば「SNSアカウントを運用しよう」となったとき、仕事が遅い人は「どうやったらうまく運用できるかな?」と1週間くらいうんうん考えています。

一方で優秀なメンバーは、ベンチマークを調べたら、ベンチマークと同じように運用してしまいます。実際にやってみて、その反応を見ながらガンガン改善していく。ベンチマークよりもよくするためには、それがいちばん早いんです。

6、ファクトベースで考えること

これは「データや事実をできるだけ集めましょう」ということです。

……と言いつつ、正直なところファクトだけで決められることなんて、実はそんなにないんです。特に世の中にまだないものを生み出そうとしている不確実性の高い事業やスタートアップの場合、ファクトだけで意思決定できる場面は少ない。

もちろんファクトを積み上げていくのですが、最後はどうしても「仮説と勇気」に頼らざるを得ません。

すると部下が「僕はA案がいいと思います」と言って、上司が「B案がいいと思う」みたいな空中戦になることも多い。僕は議論が空中戦になったときは「意思決定者」に従うことが大切だと思っています。責任をとるのは意思決定者だからです。

ちなみにそこで上司が「やっぱりB案で行くわ」と決めると、部下は「あいつなんで俺の意見を聞いてくれなかったんだよ」となることもあります。ただ、議論が空中戦になった時点で部下の負け。部下はファクトを集めて、地上戦に持っていかないといけません。

7、守るべきものを守ること

これは「守りのクレド」として入れています。

僕らはユーザーファーストを第一に掲げていますが、正直ユーザーよりも優先しなければならないものがあります。

それは、メンバーの生命と財産・ルールの本質・倫理です。

メンバーの生命・財産を守ることは当たり前として、とくに伝えたいのは「ルール」に対する考え方です。守るべきは「ルールそのもの」ではなく「ルールの本質」だと思っています。

「このルールは何を目的として作られているのか?」という趣旨を理解したうえで、ユーザーファーストをどう実現していくかを考える必要があります。

「ルールは守っているけど趣旨が守られていない」ときは、倫理的にダメで叩かれたり、すぐに規制されたりするでしょう。ただルールを守っていればいいというわけではないんです。つねに「このルールの趣旨は何か?」ということを考え抜かなければなりません。

たとえば、「ステマ規制」なんかがまさにそう。法律に書いてある上っ面の文言だけを見るのではなく、「ステマ規制は誰の何に対する規制なのか」を突きつめて考えていって、「ユーザーにとって最もよい表示とは何か」を追求することが大切なんだと思います。

8、リアリストであること

「清濁伏せ呑む」という言葉だけだと語弊や誤解を招いてしまうかもしれませんが、要は「本当に達成したいことが何かを見極めて、それを達成するためにはどうしたらいいかをつねに考えましょう」ということです。

リアリストとは「本当に達成したいことを達成するために、清濁伏せ呑むこと」かなと思います。言葉だけを聞くと語弊や誤解を招いてしまうかもしれないのですが……。

たとえばよく話すのは「広告」の議論ですね。

僕らは「ユーザーファースト」をいちばん大切にしているので「広告なんてないほうがユーザーにとっていいじゃないですか?」とよく言われるんです。短期的に見ればそれはその通りなのですが、そうすると全体の収益が減ってユーザーに提供できるメリットが減ってしまいます。「それってユーザーにとって本当にいいことなの?」と思うんです。

本当に達成したいことのために広告を掲載することは、僕はぜんぜん問題ないと思います。広告を掲載することによって収益を上げて、その収益でもっともっといいサービスを作っていく。長期的に見れば、そのほうが「ユーザー体験を最大化する」という目的の達成に資することだと思うんですよね。そういう考え方をしていこうよというクレドです。

9、細部にこだわること

最後は「コンテンツのクオリティ」を主眼に置いたクレドです。

これはこのままの意味というか、神は細部に宿ると思うので細部にこだわるし、ユーザー観点でも妥協しないことはとても大切だと思っています。

やっぱり僕らはコンテンツメーカーではあるので「いいコンテンツを作る」判断基準がひとつは必要かなと思って、最後に入れています。

いまだに僕がコンテンツの点や丸の位置まで見ることもあります。もちろん全部は見ていないし、担当者に任せていますが、たまたま目に入ったときは「ここの句読点、変じゃない?」などと本当に細かいところまで言います。

プロダクトのマージン(余白)も1ピクセル単位で指摘します。「これ、1ピク広いんじゃない?」みたいに言います。デザイナーからするとたまったもんじゃないと思うんですけど(笑)。でも、そうやってこだわる姿勢が大切だと思うんです。

いまマイベストでは、クレドを判断指針にしながら、権限委譲をガンガン進めています。社員一人ひとりがリーダーシップを発揮できるような環境が整ってきている面白いタイミングです。

「世界中の人が使うようなサービスを一緒に作っていきたい!」と興味を持ってくれた方は、ぜひ気軽に声をかけてもらえるとうれしいです!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?