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事業戦略大学(教員1名、生徒無限大) 第9回 独自の顧客提供価値をつくり上げる 「考え抜くための戦略フレームワーク入門」

ビジネスにおいて、違い、独自性ほど重要なものはありません。しかしそれを追求することは孤独であり、多くの困難があります。ご自身の独自性は何ですか?

設問1:あなた、あなたの会社が顧客や社会に提供するモノ・サービスで市場でNO1、またその可能性のあるものはありますか?

設問2:それはどのような顧客提供価値をもっていますか?具体的に言えますか?


設問3:競合との違いは何にですか?わかりやすい言葉で具体的に言えますか?

■横並び発想はもう通用しない

かつてはどの業界でも、市場での地位が3位、4位でもなんとか存続できた。しかし今はどうか。家電、銀行、生損保、自動車、鉄鋼などほとんどの業界では、業界1位か2位などの上位企業のみが利益を上げ、それ以外は撤退もしくは相当苦しい事業展開を余儀なくされている状況である。

ある程度の規制があり、業界団体が形成され、市場が順調に成長する段階では、他社と同等レベルのものをつくれば利益もある程度は確保できた。しかし90年代前半のバブル崩壊後、市場は縮小し、海外の低価格品が国内に流入して、かつてのような“他社なみの商品”発想は通用しなくなった。

しかし未だに、業界3位もしくは4位以下であっても、(業界)トップ企業と同じような商品・サービスを、しかもフルラインでそろえている企業が多い。こうした状態を続ければ、企業の体力は消耗し、いずれ事業継続ができなくなる可能性がある。

このような業界や企業では、利益の源泉は独自の顧客提供価値であるという考えが希薄である。たとえそう理解できたとしても、体質や風土を変革するには相当な時間がいる。しかし一方で事業規模が小さく、シェアが低くても、独自の顧客提供価値を生み出せる企業がある。その企業の商品の価格は下がりにくく、利益を確保しやすい。希少価値が市場に認められれば、市場価格を上昇させることすら可能なのである。

■市場ポジショニング戦略とは

独自の顧客提供価値を目指した事業戦略は、市場ポジショニング戦略と、それを言葉で定義づけた顧客提供価値という二つの表現形式で示される。これも事業ドメインと同じように、事業のあるべき姿、すなわち「戦略ビジョン」の一つと言える。

市場ポジショニング戦略とは、自社の製品の競合との差別化を目指すものである。具体的には、顧客の視点からライバルと比較したときの自社の製品事業の相対的な位置づけを、二軸や複数軸からなるチャートで表現し、現状分析と発想、目標設定を行う。ポジショニングマップを作成するにあたって最も重要となるのが、どのような要素を軸にとるかである。通常この軸は、顧客分析や競合分析の結果から判断する、軸の要素を選択するにあたっては、それがあくまでも顧客の視点に立ったものであること、ある程度測定可能であること、ライバルとの位置づけの違いが明確に把握できることが挙げられる。

ポジショニングがチャートで表現できるものであるのに対し、顧客提供価値は、それを言葉で定義づけ、明確化したもので、ポジショニングステートメントとも呼ばれる。顧客提供価値は、顧客への価値創出に関わる社内外のメンバーが常に共有し、実践を生み出すためのマーケティング戦略そのものである。

ポジショニングステートメントには、以下の要素を言葉で示すことになる。

①誰に対して商品やサービスを提供するのか?
②その顧客は今、どのような状況に置かれているのか?
③顧客の購買の最終的な目的は何か?
④顧客に対して何をどのように提供するのか?
⑤顧客がそれに支払うコストはどれくらいか?

市場ポジショニングによる差別化では、製品そのものの差別化はもとより、顧客の問題解決のためのコンサルティングや購買後のサービス、顧客に対する有用な情報提供、製品使用後の廃棄物の処理など、より深い顧客ベネフィットの追及に注力する。

さらに顧客が商品やサービスを使用するにあたって間接的に支払うコストの低減をも同時に進め、差別化された独自の価値を顧客に認識させ、高価格を維持できるように努力する。

独自の顧客提供価値は、高めの価格を維持するだけでなく、顧客に対して独自のブランド価値をつくり出す。その企業しか提供できない価値により生み出される顧客ロイヤリティは、企業にとって重要な無形資産である。また、そのようなロイヤル顧客は、他の顧客に対して、その企業にとって有利な情報を伝達してくれる。

かつて顧客は、商品やサービスの販売先にすぎず、対価を得るためだけの存在であったが、顧客は事業に利益をもたらす重要な資産であるという考えに変わった。さらに最近では、顧客同士を組織化する試みも多く見られ、そこでの顧客同士の情報交換も顧客にとってのベネフィットと考えられる。その顧客同士のネットワークもまた、企業の重要な資産である。

これらをまとめると、事業戦略におけるポジショニングは、収益・利益と資産に以下のようなインパクトを与える。まず、収益・利益については、他社との違いを目指す市場ポジショニングと独自の顧客提供価値によって、価格での他社との競争を回避し、高価格を維持し、それにより収益・利益の獲得をもたらす。また、資産については、ロイヤル顧客をつくり組織化していくことで、顧客そのものが新規顧客を獲得してくれる。またその顧客資産は、他社が容易に手に入れることができないため、大きな参入障壁ともなる。


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