見出し画像

勘所7:事業のリスクについて整理された考え・ルールを持つ

事業戦略大学(教員1名・生徒無限大)「事業戦略の勘所コース第6回」 


新規事業においては、リスクをどう考えるかが大変重要である。リスクに対する考え方の整理なしでは、新規事業を意思決定することもスタートさせることもできない。新規事業や事業におけるリスクとはどう考えるべきなのだろうか。まず、リスクは機会や成果と合わせて考える必要がある。事業には、マイナスだけを被るリスクもあるが、多くの場合、どのような機会でどの程度の成果が獲得可能かという議論の中でリスクは考えなければならない。


事業におけるリスクは以下のように分類できる。


①事業存続の根源のリスク。これを負わないと、そもそも事業として存続する意義が失われると考えられるリスク
②負わないことにより事業上発生するであろうリスク
③今の経営体力で負える範囲のリスク
④今の経営体力では負えない範囲のリスク

①事業存続の根源のリスク

電気工事店であれば、家庭内で電気製品や宅内配線などを安全に使えるような状況にするというサービスの品質にリスクを負わなければ、その存在価値がない。大学の研究員であれば、自身の専門領域の最先端の知識を社会に提供できるようにすることにリスクを負わなければ研究者としての存在価値はないかもしれない。

このように、その産業に所属する以上、必ず持たなくてはならない「社会的使命」によって発生するリスクがある。当たり前に感じるかもしれないが、昨今、この社会的使命感から求められる責務がどのようなものかが忘れ去られているとしか思えない不祥事が多い。つねにこれを確認していく必要があ
る。


②負わないことにより事業上発生するであろうリスク


「5年前、環境対応のエンジン開発の意思決定を下さなかったことで、他社との決定的な技術的格差が生じ、現在ではシェアの開きも大きくなった」コニ年前、しがらみの多い関係会社の経営統合の意思決定を先延ばしにしたため、現在ではコスト競争についていけない状況で、親会社も含めた大幅な人員削減が必要な状況になってしまった」―このようなリスクは、リスクを負わない意思決定をした、あるいは意思決定を先延ばしにした結果発生するリスクである。


将来の環境変化やライバル動向などを予測し、どのようなアクションをとるべきか、とらざるべきかについて、絶えず情報収集し、把握しておかなければならない。このリスクが複雑なのは、意思決定の場面では、一見リスク回避のように見える点である。しかし、結果を見ると、実はその態度がリスク発生要因である。また、その意思決定の効果が現れるのは数年先で、そのリスクが実現して損失を負担するのは次の世代であることも多い。


③今の経営体力で負える範囲のリスク


リスクの中で、今の経営体力で負える範囲のリスクとは、たとえば次のようなことである。「3年間新規事業に挑戦したが失敗し、累積損失が二億円出ている。しかしこの範囲であれば、当社の経営にさほど大きな影響はない」「新サービスを開始し、テストマーケティングとして静岡限定でお客様の了解を得てモニターを行ったが、結局、新サービスは事業化できないと判断した。結果としては失敗であったが、テストマーケティングであつたためブランドイメージにはダメージを与えなかった」。


これらの例にあるようなリスクは、新たな事業機会を獲得しようとして失敗し、発生するリスクであるが、そのため事業経営が立ちゆかなくなるまでにはならない、許容可能な範囲のリスクである。しかし、この手のリスクを負うためには、その事業機会を獲得しようと行動することによってどのようなリスクが発生するのかを慎重に分析する必要がある。そしてその対策案を綿密に立て、それに備えておく必要がある。

④今の経営体力では負えない範囲のリスク


このリスクは、例示するまでもなく、③の今の経営体力で負える範囲のリスクとは反対のリスクである。③と同じように、事業機会とリスクの分析により判断する。負える範囲のリスク、負えない範囲のリスクがどのようなものか、つねに事業の実態を把握する。繰り返しになるが重要なのは、リスクは単に避ければよいというものではなく、リターンを得るための制約条件だと考えることであろう。制約条件であるが故に、事業の企画段階に戻り、その企画内容や事業の範囲を限定したり、取り組み方や組織体制を工夫したりする。場合によっては期待するリターンを高くすることもあるかもしれない。またそのリスクは大小さまざまである。あらかじめリスクの影響度と発生頻度などを区分するルールを持っておくべきだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?