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【AIの歴史と進化】 いまさら聞けない、でも知りたい。 AIってなんだ?(前編)

ソフトバンクグループの孫正義社長(兼会長)が7月17日の「SoftBank World 2019」で、日本国内のAIの普及状況について、警鐘を鳴らしました。

「日本はいつの間にかAI後進国になってしまった。ついこの間まで、日本は技術で世界最先端の最も進んだ国だったが、この数年間で一番革新が進んだAIの分野で、完璧な発展途上国になってしまった(中略)手遅れではないが、今始めないと手遅れになる」

AI(人工知能)は、これからの社会、経済の発展において欠かせないテクノロジーです。とはいいつつも、いまいち“自分とは遠い存在”に感じている人もいるのでは?

しかし、AIエンジニアたちはこう言います。
「AIの研究は、人間の研究である」

そう。AIは、あなたとごく近いところに存在しています。

 *

4月25日、ABEJA本社セミナールームで、「第1回いまさら聞けないAIセミナー」が開催されました。その模様を2回にわたりお伝えします。

前編のテーマは「AIの歴史と進化」。ABEJAのAIエンジニア大田黒紘之(おおたぐろ・ひろゆき)が解説します。

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人間では処理しきれない大量のデータ分析をする

昨今、AIが盛り上がっている背景について、2つの観点から説明します。1つ目はテクノロジーに関するテーマ、2つ目は政治的・社会的なテーマです。

まずはテクノロジーの話です。

近年、データを蓄積するクラウド、計算機としてのモバイルやIoTデバイスなどさまざまなテクノロジーの高性能化、小型化、低価格化が進み世の中に普及しています。またIoTデバイスをインターネットに繋げるための通信技術も発達していて、通信の世界では5Gが話題です。

さらには、IoTデバイス向けの通信機器やデータプランを販売する企業が急増し、あらゆるデバイスがネットに繋がることで、膨大なデータが収集・蓄積されるようになりました。2013年には4.4ゼタバイト程度だったクラウドデータが2020年には44ゼタバイトにまで増加する。つまり、わずか7年間でデータが10倍にもなるといわれているのです。

これほど膨大なデータになると、人間の手でデータを確認したり、分析・処理するプログラムを書くことはもはや不可能です。

よって、それを可能にする、“人間を模倣したアルゴリズム”、つまりAIが注目されているわけです。

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日本ではAIの導入が大幅に遅れている

次に、世界的に見たAIの動向について話します。

AIによるビッグデータの分析が可能になると、省力化などによって今まで不可能だったことも可能になります。現在、世界ではAIを積極的に開発・導入する国が増えていますが、中でも中国と米国は、日本では考えられないほどの莫大な金額を投資しています。2018年のデータによると、米国のAI関連の政府予算額は5000億円、中国は4500億円に上り、一方で日本はその2割程度の770億円にとどまっています。

私は先日、中国の深センに行ってきたのですが、1週間の滞在中に現金を一切使わずにスマホで飲食店、交通機関の費用を決済できたり、ブロックチェーン技術で管理された電子領収書をもらったりと、おどろきの連続でした。最近では、顔認証を使った決済システムも登場しており、技術・仕組みが社会に実装されるスピードを感じて帰国しました。

中国は独自の政治体制を生かして、最先端技術を社会に実装するために投資をしています。AIも例外ではなく、AIを含むさまざまな技術を社会に実装するプロセスがものすごいスピードで進んでいると肌で感じました。

現地のスタートアップ関係者によると、1-2年経つとなんらかの新しい技術が実装されるというスピード感とのことです。

アメリカもDARPA(国防高等研究計画局)と呼ばれている国防省付属の研究機関がテクノロジーの基礎研究に取り組むほか、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に代表される大手IT企業がAIの開発やシステム構築を主導し、世界中から優秀な人材を集めています。

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内閣府の政策討議に関する資料で引用されているMM総研の調査によると、アメリカは46%の企業が「AI導入済み」、もしくは「導入検討中」とのことです。

一方日本では、「AI導入済み」の企業が1.8%、「導入検討中」の企業をあわせても19.7%という結果です。AIの活用においてはかなり出遅れているといわざるをえません。

AI研究の歴史

これまでの話でAIが世界的に注目されている背景はご理解いただけたと思います。続いて、AIとはなにかという基本的な部分を説明しましょう。といっても実は、AIの定義は学者や研究者の間でも意見が分かれているのが現状です。

これまでのAIの研究開発の歴史を振り返ると、主な波は3回あります。まずは1950年代に始まった第1次AIブーム、1970年代の第2次AIブーム、そして2000年代から現在に至るまで続いている第3次AIブームです。

第1次AIブームは探索と推論の時代でした。人間が作ったたくさんのルールに基づいてプログラムを動かし、ほしいデータや解を見つけ出すなどさまざまなことができたのですが、解けるのは迷路やチェス、将棋の問題にとどまっていました。複雑な要因が絡み合った現実社会の問題を解決するところまでには至らず、1960年代終盤からは冬の時代を迎えました。

第2次は知識表現の時代。コンピュータが理解できるように人間が論理の式を書き、ルールのデータベースを構築し、専門分野のデータを入力することによって、コンピュータがその分野の専門家のように推論してくれるシステムが開発されました。これを「エキスパートシステム」といいます。

しかし、当時はまだコンピュータがあらゆる現実社会の問題解決のための必要な情報を自ら収集・蓄積できなかったため、人間が膨大なデータを収集してルール化したり知識データベースを構築する必要がありました。

それは事実上不可能なため、エキスパートシステムでは、たとえば感染症の予防や原因調査など簡単な経験やルールに基づくような、限定的な問題解決にとどまっていました。こうした限界にぶち当たったため、1995年頃からAI開発は再び衰退していったわけです。

第3次は機械学習の時代です。AIが学習するための問いと答えのセットである膨大な教師データをコンピュータに学習させることで、AI自身が知識を獲得できるようになりました。これがいわゆる機械学習で、2000年代に数多くの手法が生み出されました。

中でも有名なのが2012年に登場した「ディープラーニング」。深層学習や特徴表現学習とも呼ばれています。今までは人間がものの認識の仕方を教える必要がありましたが、ディープラーニングでは、どう認識するかを教える代わりに、画像などで大量に「正解」を教え、自ら特徴を学んでいくことができます。このディープラーニングが第3次AIブームを牽引するきっかけとなり、現在に至っています。

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ひと口にAIといっても分野は多岐にまたがります。機械学習という分野はあくまでAIの手法のひとつであり、ディープラーニングはさらにその中の学習方法のひとつにすぎません。さまざまな要素が何層にもわたって包括されているのです。

もう少しくわしく説明すると、機械学習はデータを入力することでコンピュータが自ら学習して認識などが可能になるというイメージです。ニューラルネットワークはその機械学習の手法のひとつで、人間の脳内で起きている神経細胞・ニューロンネットワークによるデータ処理のプロセスを模倣したシステムです。ディープラーニングの登場でその学習がさらにうまくできるように進歩したのです。

近年のAIブームでおきた進化

機械学習やディープラーニングなどが登場することでAIがどのように進歩してきたかについてご説明しましょう。

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これまでのAIは、たとえばペットボトルの水を「水である」と正しく認識するためには、水とはなにかという定義をひとつひとつプログラミングで書いて、コンピュータに覚え込ませる必要がありました。

しかし機械学習、特にディープラーニングの登場で、定義を教える代わりに、問いと答えのセットとなる教師データを大量に学習するだけでよくなりました。それによりAIが自ら特徴を捉えることができるようになり、認識の精度が格段に向上しました。

ほかにも試行錯誤で自ら作業を学ぶロボットなど、人間に近い動作に近づける技術も大きく進歩しています。みなさんも文章を書く仕事でGoogle翻訳を使う機会があると思いますが、最近、Google翻訳の精度がすごく上がったと感じませんか? 翻訳、文章生成などの言語の意味を理解する能力の向上の裏にも、機械学習やディープラーニングのような技術が使われています。

このような学習手法の進化に加え、クラウドやモバイル、計算機などの周辺技術の進化もあいまって、産業界へのAIの実用化がすすんでいます。

これまで第1次から第3次まで、AIブームについて話しましたが、それが下の図の右側に当たる部分です。

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※情報の引用元:人工知能の未来- ディープラーニングの先にあるもの 東京大学 松尾 豊 http://www.soumu.go.jp/main_content/000400435.pdf

2012年のディープラーニングの登場により、認知や運動、言語などのデータ処理が可能になり、さらにAIの進歩スピードが加速したのがこの図でわかります。現在はものすごい勢いで日々新しいアルゴリズムが開発され、これまでできなかったことがどんどんできるようになっています。

後編「AIの作り方、回し方に続く。

解説者:大田黒紘之 
ABEJAの開発チーム・リーダー。産業技術高専卒業後、首都大学東京に編入学。高専在学中は、超小型人工衛星の開発、医療機器に関する研究に携わる。現在は、小売流通業向けの店舗解析サービスABEJA Insight for Retailの事業部で、IoTデバイスからPlatformの開発及び運用などを担当している。

取材・文・写真:山下久猛 編集:川崎絵美 

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Torus(トーラス)は、AIのスタートアップ、株式会社ABEJAのメディアです。テクノロジーに深くかかわりながら「人らしさとは何か」という問いを立て、さまざまな「物語」を紡いでいきます。
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