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神のゲーム

ラクロスの魅力を聞かれた時、いつも"それっぽい"答えを出します。「それだけではないんだけど」とモヤモヤしながら答えます。何事に関しても魅力を一言で表すのは難しいと思いますが、特にラクロスに関しては難しいです。ラクロスをはじめた7年前の今頃と、同じ想い、全く異なる想いを同時に抱きながらプレーを続けています。note記事一つではほんの一部しか説明できないのでしょうが、このスポーツの魅力について改めて綴ってみたいと思います。


大学入学後、様々な団体をみてまわり、結果的に入ったのがラクロス部でした。部員数は150人、体育会として本気で「日本一」を目指す環境に強く惹かれ、入部しました。多くの人が大学から始めるスポーツであり、皆スタートラインが一緒であることも決め手でした。10年以上野球をやってきた身として、わかりやすく努力が報われる、やればやるだけ実力が伸びる、という初心者ならではの特権はとても魅力的なものだったのです。スポーツの世界で「日本一」になることは、今までずっと夢に見ながらも到底実現できるものではありませんでした。それが現実的なものとして目の前に現れた興奮は今でも覚えています。

ただ、今更「マイナースポーツ」をすることにはもちろん抵抗がありました。大変な苦労をして日本一になったとしても誰にも見てもらえず、気にされなければ、あまり意味がないと思ったからです。野球という日本で最もメジャーなスポーツをやってきたことへの変なプライドみたいなものもあったのかもしれません。「日本代表になれたらいいけど、なれなければあまりやる意味ないよな」などと当時は小生意気に一年生同士で話していたのを覚えています。


ところが大学入学直後の5月、早慶ラクロス定期戦を目の当たりにしてその懸念は吹き飛びました。競技場の観客席は全て埋まり、立ち見客で溢れかえるほど。応援団も駆けつけ、ものすごい活気に溢れていたのです。後から聞いた話によると早慶戦は毎年7,000人ほどの観客が入るとのこと。この大観衆の前でプレーしたい、と強く思ったのを覚えています。

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このようなはじまりから大学、社会人とラクロスを続けてきて、ラクロスの様々な魅力に気づかされてきました。ラクロスのスピード感、激しさ、ラクロスコミュニティの人たち、、、魅力をあげていくとキリがありません。

ただラクロスの本場カナダでプレーしていくうちにまだまだ出てくるラクロスの魅力、奥深さに、ますますこのスポーツへの想いを募らせています。

ラクロスは元々、北米の先住民族たちの神との繋がりを深める儀式を起源とするスポーツであり、"Creator's Game"(「創始者(神)」のゲーム)と呼ばれています。ラクロスの試合も元来、部族間の争いを平和的に解決するために用いられていたため、試合でこそ激しく身を削り合うものの、試合後は相手を称え合う文化があります。特にカナダで主流のボックス(インドア)ラクロスはかなり当たりが激しく、試合中のファイト(殴り合い)も日常茶飯事ですが、終わればケロッとしているのがなんとも印象的です。

またラクロスをプレーすること、スティック(クロス)を扱うこと、スティックを握っていることだけでも癒しの効果があるとされ、ラクロスが薬のような役割を果たすとして"Medicine Game"の異名を持ちます。特にアメリカとカナダの国境に位置する部族国家集団のホデノショニ連邦(イロコイ連邦)では、新生男児に木のスティックを与え、死後はそのスティックとともに埋葬するなど、文化に深く根付いたスピリチュアルなスポーツなのです。

このような背景はもちろん日本にいる時から知ってはいましたが、強く意識したことはありませんでした。ところがカナダでは、このスポーツの起源に敬意を払う、感謝する、という文化が根付いています。試合前の円陣や儀式等、至る所でラクロスは"Creator's Game"である、との文言が飛び交うのです。だからこそ相手、このスポーツをリスペクトし、フィールドで力を出し切る、全てを置いてくる、というわけです。ラクロスに没頭し、日常の悩みから離れる、という感覚があるからこそ、カナダの夏の国技として愛され続けているのでしょう。

スピリチュアルで奥深い魅力を持つラクロス。漫画のような背景と激しいコンタクト、目で追えるギリギリの速度で動く球。「地上最速の格闘球技」の名に相応しいスポーツです。日本ではやれ「オシャレ」だの「カレッジスポーツ」だの何だの言われ、どこか「軽い」印象を持たれがちですが、カナダに来て改めて確信しました。それらのイメージは本来のラクロスからは程遠い。美しく華麗でありながらも、どこまでも泥臭く、雄々しいスポーツなのです。

そんなラクロスの一面を、いや本質を、色んな人に知って欲しいと願うとともに、一選手としてこの魅力的な世界でどこまでも上を目指したいと思います。


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