架旗透

小説をやったりprocessingでグラフィック的なものをやっています。 SF小説同人…

架旗透

小説をやったりprocessingでグラフィック的なものをやっています。 SF小説同人サークル「グローバルエリート」に所属。 https://globalelite.black/

最近の記事

子どもが死を夢見るとき(トットちゃん感想)

心動かされたことはきちんと言語化していった方がいいなと最近思うようになってきたので感想文をやります。 窓際のトットちゃんを観ました。 ラストシーン。トットちゃんは赤ん坊を寝かしつけながら列車の外にかつて見たチンドン屋さんの幻想を見る。 それまで空想シーンは空想シーンと分かるよう演出されてきたのに、最後だけは本当に自然な感じでチンドン屋さんが現れる。この演出、これはトットちゃんの空想ではない感じがする。でも現実にはありえない。 俺はこれはトットちゃんの無自覚な死(黄泉)への願

    • 君のチャネルが開くとき

       朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。  笑顔で3回言う。  3回も繰り返せばニュース番組内で30秒くらいは日本語が流れ「公益性」が担保されたことになる。  タケオ少年の朝はこうして始まる。テレビのスイッチはいつも父が入れる。母が朝食をテーブルに並べ、タケオは三人のコップに茶を注ぐ。薄い黄色のカーテンから差し込む朝日が親子を白く照らす。  世界終了までの刻限を告げられた後は英語、中国語、フィリ

      • クリスタルパパ

         わたしが中学3年生のときの話だ。ある夏の日、父さんから研究室から帰らないとチャットがあった。  その頃父さんは宇宙風邪を引いていた。  家族みんなで夕食を囲んでいるときに、手に持っていた味噌汁をするすると自分の頭にかけ始めたのだ。  当時、地球を訪れる宇宙人の種類が50を超えており、特に害はないが変テコな病気、宇宙風邪が世界中に蔓延していた。    夜に味噌汁を手にすると自分の頭にかけてしまう。  父さんがそのデメリットを気にしている様子はなかった。ただ、血液検査やMR

        • ZARU

           海面下5mの座標に開けてやった時空ホールに次々とゴミが吸い込まれていく。ゴミは水面に隙間なく浮遊しており、日の光がほとんど差し込まない海中からだとホールに群がる不気味な魚影に見えた。  「そうだ、いけ、いっちまえ」  先輩はドクから禁止されたビールをやりながらスクリーンの前で毒づいている。僕は後ろでヨーグルトをスプーンでつつきながらいつものくせで浅く息を吐いた。    「それ、その浅い呼吸、ストレスだよ」  ドクがそう言ってほほ笑んだのは1週間前。業務終了間近で唐突に襲われ

        子どもが死を夢見るとき(トットちゃん感想)