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たまちゃんのはなし/台湾留学外伝


たまちゃんという、沖縄で働く台湾人の友人がいる。

出会いは5年前の高雄留学中、同じ大学に留学していた同期の彼女として紹介された。初めて会ったときの第一印象は小さくて可愛い女の子。でも話してみると流暢な日本語にまず驚かされ、そして凛としていて、好きと嫌いが、人に対しても物事に対してもはっきりしていて(ちなみにかなりの偏食家)、私は漠然と、気が合いそうだと思った。

結局同期とたまちゃんはその後別れて、わたしが日本に帰国してからその同期とも疎遠になった。たまちゃんは大学卒業後、流暢な日本語を生かして東京で働いていたけど、私の上京とすれ違いで、沖縄に引っ越した。でもなんだかんだ、たまちゃんとはたまに連絡取り続けていた。昨日夜もオンライン飲みしていたくらいには仲がいい。

名前の通り、たまちゃんはどこか猫みたいな性格で、私が連絡するとたまに素っ気なかったりするのに、そうかと思えば次の日には「ねえねえ聞いてよ〜」と連絡してきて、勝手だなあ、とも思うけどほんとはそこも含めていじらしいし好きで、結局は2時間位長話したりもする。

たまちゃんを語るにあたり、絶対に外せないエピソードがある。

去年7月、私が出張で深センに行くことになった。そのことをSNSに上げるとたまちゃんから「私もその日深セン出張なんだけどw」と連絡がきた。私が深センを発つ前日にたまちゃんが来ることが分かった。これは運命だ会うしかない!と思い、一緒に夜ご飯でも、と宿泊先を聞いたところ、たまちゃんと私が予約したホテルはなんと同じところだった。

まあ深センで日本人(+たまちゃんみたいに日本企業で働く人)が好んで泊まるホテルは確かに数軒に決まってくるので、ありえない話ではないにしても、同じ日に深センに着いて、しかも同じホテルに宿泊する、その事実だけでかなりの確率だと思う。

思えば私の台湾留学中に1度か2度会ったきり、去年時点で4年が経とうとしていた。当日、一足早く深センに到着した私は、はやる気持ちを抑えつつ、たまちゃんをホテルの部屋で待っていた。

…そこから合流して一緒にご飯、のはずだったけど、連絡が取れたと思えば、たまちゃんの乗った飛行機が大きく遅延したらしく、香港空港に到着してからフェリーで深セン蛇口港に移動、そこからまたタクシーでホテルまで移動するので、到着するのは11時位になるとのことだった。でもせっかくなので一目会って喋ろうと、眠い目をごしごし擦りながらなんとか耐えていた。

するとたまちゃんから「もうすぐ着くよん」との連絡が。その後当時のやり取りが以下。

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そしてガチャッと部屋のドアを開けたその瞬間、なんと真正面の部屋に同じくドアを開けたたまちゃんがいた。思わず2人ともお互いを指差して廊下で吹き出しそうだったのでとりあえず私の部屋に入れて、ドアを締めた瞬間、なぜかお互い涙が出るほど笑いが止まらなかった。お互い「なんでw」「いやそっちこそなんでw」みたいな。

聞いたところフロントで私の部屋の近くにするよう頼んだわけでもないらしい。確かにたまちゃんはそういうことするタイプじゃない。ましてやフロントの人たちが私達が友人関係にあることなんて知るよしもない。同日深セン、そしてたまたま同じホテルに宿泊し、部屋は同じ階どころか真正面。何重にも重なった偶然から私達2人の興奮が冷めるまでにはしばらくかかった。

私が次の日の朝が早かったので、30分ほど話してから次の日一緒にバイキングで朝食を取る約束を取り付けてとりあえずバイバイしたけど、こんなこともあるもんなんやなあ、とさっきの興奮で頭が冴えてしまってなかなか眠りにつけなかった。次の日聞くと、たまちゃんも同じくなかなか眠れなかったらしい。

当時の私は、当日衝撃の再会を終え寝る前、Instagramの投稿に中国語でこう記している。

「妳剛到深圳,我明早就要離開這裏,誰想到我們住的是同一家飯店,而且被安排的房間就在對面,覺得這機率也太神奇,我不知道到底用命運之外的詞該怎麼形容」

本当に「運命」その言葉以外で、起こった一連の出来事を表現する術を知らなかった。私達が同時にドアを開けたあの場面、2人して目を見開いて、今思い出してもまるで映画の中のような、いいシーンだったと思う。

最後に、私が好きな長崎出身の作家吉田修一さんの著書「作家と一日」のある一文を引用したい。

「他人が何を好きで何が嫌いなのかを分からないように、自分が何を好きで何が嫌いなのか、ちゃんと分かっている人間というのは、もしかするとそう多くないのかもしれない。」
              吉田修一『作家と一日』シナノ,2015年,114頁

冒頭でも述べたようにたまちゃんはここで言うところの「自分が何を好きで何が嫌いなのか、ちゃんと分かっている人間」側だと思う。加えて恐らく、自分が何者なのかも分かっている。だから背伸びもしないし、自分をあえて小さく見せることもしない。そんなたまちゃんが、すごく好きだ。

離れたところに住んでいるし、今はこんな状況で、もしかしたら次会うのも4年後とかかもしれない。それでもきっと私達はいつかまた再会するのだろうし、これからも細く長く、心地の良い友人関係を続けられる気がしている。

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