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羽ばたきで力を得る

鳥は飛行機には憧れない。
あんなぶざまな飛び方には。

羽ばたかない翼は
欲しくない。

ひとが
プールの壁を蹴って
進む時のように
ひろげた翼で
地面を大きく叩けば

私の体は
さえぎるもののない空へと
空気をかき分けながら 
舞い上がる。

ひとつ
羽ばたくたびに
ほどかれて
静かに遠ざかっていく。

ずっと
あなたを待っていた
地上のあの場所が
もう、小さくて見えない。

胸の筋肉を震わせて
高く低く

世界との距離を
思いのままにあやつって

右に旋回し
左に旋回し

世界に撫でられる
その強さまで
いつのまにか上手に
コントロールできている。

はるか下
もう見えないあの場所で

私が待っていた
「あなた」とは
わたし自身のことだったと

水平線も地平線も
丸く見下ろせるここで
今、ようやくそれに気づく。

ただ待つだけの臆病な私に
「わたし」に会うための
勇気をあたえた翼を

ひときわ大きくはばたいて
今度は
視線をさらに遠くまで
さらにさらに遠くまで放つ。


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