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恋文が届きました

恋文が届いた。
夜明けの5時に。

郵便受けの底が カタンとなって
私の浅い眠りをさました。

毛布をかぶり
はだしのつま先を こすりあわせて
私は
玄関のやわらかい光の中に立つ。

腰をまげ
投げ入れられた封筒を
指先だけを使って拾うために。

それは
独り言のように四角い。
宛先がない。

端を用心深くちぎる。

それから
かさかさ、と音を立てて
白くたたまれた
優しい言葉をひらいていく。

なぜだろう。

差出人は
あのひとなのに
私は
懐かしい父の文字を拾っている。

泣きそうだ。

思いと
こことの
その距離の遠さに。

一瞬で
消えない言葉がここにあるから

すこしだけ
世界のあいまいな美しさを
信じることが
私自身に許される。

私の価値、らしいもの。
あなたの愛、らしいものを。

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