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よく泣き上戸と言われます

ベッドでも
人の3倍くらいの速さで話すその人は
イタイノ?と
小さな子供に尋ねるように
初めて声の表情を抑えた。

噛み締めていた奥歯をゆるめて
鼻にかかる涙声で答える。

ううん。
だから やめないで。

夜とは違う
夏の部屋の暗さに目は慣れて

あなたも ようやく
わたしが
涙を流し続けていたことに
気づいたはずだ。

静かな部屋に流れ出す
あえぎのような嗚咽。

わたしたちは
新しい音楽を聴くように
耳をすませ それを聴いている。

聴きながら 奏でて。
だから やめないで。

君がどんな人か
知らない。

泣き上戸だから驚かないでって
言ったのは
このことか。

悲しくはない
苦しくはない

こうしているときだけ
ひとりではないと感じるから

涙は喜びに溢れ
ふたりの境界を越えて
唾液と混じり汗と混じる。

無口だと
いぶかられたわたしの
あなたへの
ふたりへの全肯定。

嗚咽のようなあえぎ。

離さない。

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