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あるはずのない記憶

大きすぎるブックエンドに はさまれた
少なすぎる思い出みたいに

不安定に寄り添って
ふたり
古いラヴソングを聴いていた。

生まれる前の
あるはずのない
懐かしい記憶を ゆすぶられながら。

たった
ひとりのためだとしても
だれかのために生まれてきたのなら
たしかな、意味がある。

そんな風に
安心したがる日々があって。

かすれた弱い
高まりのない連なりでも

音は

匂いのように
しっかり
体の中にしみこんでくる。

ふたり

投げ出された脚の
並んでいる爪の
遠い
とるにたりない美しさ。

真実を求めなくなってから
ようやく安らかな気持ちで
互いのなかの静寂と不在を聴く。


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