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[読書記録]わたしの良い子(寺地はるな) / 良い子の定義

私は三人の男の子を育てていますが、あ、一人はもう家から出て一人暮らしを始めたので今は二人の男の子を育てていますが、私の三人息子以外の子どもを育てたことはないので、育児がどうだとか言うことはできません。
人の命を十八年ほどかけて我が身の元に預かり、ご飯を食べさせて成長に合わせて服や靴を買い、人との関係において「ああでもないこうでもない」と一人一人と他愛なく話しここまでやってきたわけですが、いまだに正解は見えません。
まあ一生が終わってみないと、何も分からないのだといつも思っているし、終わってしまえばきっともうどうでもよいこととして、振り返ることもあるのかもしれないしないのかもしれせん。

このお話の朔くんは、お母さんには育てられていないけど、親身に思ってくれる椿さんがそばに居て、心から寄り添って、自由にいさせてくれる、とてもしあわせな子なのだろうな、と思います。

If I were a millionaire, 上靴なんて洗わずに、一週間ごとに新品の上靴を買い与えるのに。
 もしくは上靴洗い専用召使いを雇うだろう。

「わたしの良い子」寺地はるなより

何度上靴を洗濯機で回そうと思ったか!それをまざまざと思い出して笑いました。それでも、上靴のことで「ああめんどくさい」と思いながらも洗ってくれる人がいるということは、それだけでとてもしあわせなことなのだよな、と強く感じました。


寺地はるなさんは、はじめて読んだ作家さんでしたが、

「しまった」という思いで、胸がいっぱいになる。父がかなり酔っ払った時などに発する「しまったしまった島倉千代子」という島木譲二のギャグも思い出す。そしてどうでもいいことばかり克明に記憶しており、尚且つ最悪なタイミングでその記憶を取り出す自分に、ものすごく腹が立った。

「わたしの良い子」寺地はるなより

これを見ただけで寺地はるなさんの思考回路と言い回し、私、絶対に好きだ…!と確信するほどぎゅんとなるのです。

生きてほしい。勉強ができたほうがいいとか、周りとうまくやってほしいとか、朔に願うことは山ほどあるけれども、その根源をつきつめると、結局そこに辿りつくのだった。
わたしは、朔に生きてほしい。「良い子」じゃなくたっていい。ただこの世界を生き延びてほしい。たた、それだけ。

「わたしの良い子」寺地はるなより

「良い子とは?」とか「母親とは?父親とは?」とか「家族とは?」なんていう大きなテーマに真正面から向き合うお話で、今の世の中の教科書にしたいような(この表現は多分筆者が読んだらいやかもしれない)、全日本人が椿さんの価値観を理解している世の中になれば、とてもうまい具合に全てが回るのだろうな、と思いました。
椿さん、とても魅力的でチャーミングな女性なので、お友達なら私も家族に紹介するのに。

下の子のことで幼稚園や学校から電話があって迎えに行った帰り道、毎回ものすごく遠回りをして二人で海を見に行ったことを思い出しました。
そう、誰の事情であっても、その本当のこととその時の気持ちは、本人にしか分からないから。私はいつも殆ど何も聞きませんでした(口下手だったし)。へとへとになって家に辿り着き、ソファに座ったら心も身体もいっぺんに力が抜けていつのまにか眠ってしまい、起きたら、呼び出しを受けたことも海へ行ったことも、わりとさっぱり忘れていました。
でも、それを今思い出して、涙がぽろっと出ました。


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