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言葉のその先を、信じているために。「仕方がない」に逃げないものづくり/宮川真紀さん(タバブックス)

言葉は人を生かすし、人を殺す。

その重みを忘れてはいないだろうか、と自分の言動をふりかえっては、言葉という道具の力を不安に感じる。

一方で、言葉と真正面から向き合ってきたのかを問われると、「はい」とは言い切れないように思う。

言葉の刃を向けられた人が、自ら命を絶ったとき。メディアから聞こえてくる著名人の言葉に厚みのなさを感じるとき。「私たちの言葉をさげすむな」と怒りを表明してきただろうか。

自分だって、言葉を軽んじてしまう瞬間がないとは言い切れない。それでも他者が発した言葉に、そしてその言葉を受け取った自分の違和感に、向き合ってきただろうか。

むしろ、怒るべきだった、と思えていたのか。

怒りを覚えるほど、言葉の先に広がる未来を、そして言葉を発するその人を信じずに、あきらめていた自分はいないだろうか。

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そう痛感したのは、宮川真紀さんの言葉と出合ったときだ。

宮川さんは、「おもしろいことを、おもしろいままに本にして、きもちよくお届けする」というモットーを掲げる出版社「タバブックス」を立ち上げ、8年間にわたって書籍と雑誌『仕事文脈』をつくり続けてきた。

宮川さんは、タバブックスが発刊している雑誌『仕事文脈』のコラムを通じて、たびたび怒っていた。時に国のトップの発言に、時にメディアでもてはやされる人気者に。

相手の表現に対して抱いた自分の違和感を見逃さない生き方は、「言葉を馬鹿にされてたまるか」という闘いのように見えた。

言葉を受け取ろうとする人の存在を、そして言葉から拓かれる未来の可能性を、心から信じているゆえなのかもしれない。

そんな宮川さんの怒りに触れるたびに、言葉との向き合う姿勢について考えるようになった。

言葉は自分を壊すし、自分をつくる。言葉は私たち自身であり、私たちの未来をつくっていく。そう信じていなければ、どんな表現も、一瞬の打ち上げ花火になってしまう。

それなら私も、言葉を手放さないでいたい。そのために闘うことを、あきらめないでいたい。

だから宮川さんに、闘いに向かう原動力について聞きに行くことにした。それでも、言葉を信じているために。


(聞き手/阿部光平、書き手/菊池百合子)

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宮川 真紀(みやかわ まき)

出版社タバブックス代表。東京都生まれ。出版社での雑誌・書籍編集を経て、2006年にフリーランスの編集者として独立。2012年に出版社・タバブックスを設立。同年、文学フリマにて雑誌『仕事文脈』を販売開始、以来年に2回発行している。

2012年9月、「はてなブログ」で公開された「無職の父と、田舎の未来について。」を読んだ宮川さんが、当時大学生だった筆者のさのかずやに声をかけた結果、『仕事文脈』vol.1から同タイトルの連載がスタート。2019年にはこれまでの連載をまとめ、『田舎の未来 手探りの7年間とその先について』と題してタバブックスより出版。


自分がつくりたいものを、つくり続けるために

ー 宮川さんは、いつから本に関わるお仕事をされているんですか?

宮川:新卒で外資系の企業に入って、2年ほど経ってから出版社に転職しました。もともと本を読むのは好きだったけれど、すごく強い興味があったわけではないんです。関わってみたいな、くらいの軽い気持ちでしたね。

転職したパルコでは雑誌の販売をして、そのあと書籍編集の部署(パルコ出版)に異動しました。異動は偶然でしたが、書籍編集の経験は今の仕事につながっています。

当時は「ずっと本の仕事を続けていくぞ」とまでは考えていなかったけれど、この仕事をやっていくのは楽しいだろうな、長く続けられるだろうな、とは思いましたね。パルコには16年くらいいたのかな、仕事にすごくやりがいを感じていました。

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ー その後、独立されたと聞きました。

宮川:40歳を少し過ぎた頃、早期退職制度を利用してパルコを退職し、フリーの編集者になったんです。書籍の企画を立てて、いろんな出版社に持ち込むスタイルですね。

そのひとつに、生理用の布ナプキンに関する本の企画がありました。でも企画を通した版元の出版社が、当時流行っていたダイエット本のように付録をつけてキャッチーにして、もっと派手につくったほうがいいんじゃないか、と言ってきたんです。

「いや、読者層が違うと思いますよ」と言ったんだけど、企画が通ったし、出版社の意向に沿う形で出しました。

そしたら、見事に外れて。1年ほど経ってから、品切れ重版未定、つまり絶版の状態になってしまったんです。

せっかく「つくろう」って外部の編集者の立場で企画を出して、版元以前のところではいいチームでいいものをつくれたのに、出版社の意向で理想の形とは違うものになった結果だから、チームに申し訳なくて。私が出版社の意向を止められなかったことに、悔いが残りましたね。

ー それは編集者として悔しいですよね。

宮川:ちょうどその頃に、東日本大震災がありました。避難所の物資不足のなかで生理用のナプキンが足りなくなったり、避難所を男性が仕切っているからナプキンの対応が後回しになったり、そんなことが漏れ聞こえてきたんです。

当時、著者の方がアメリカにいて、「せっかく洗って使えるナプキンをつくってきたから、被災地に布を送りたい」と話していたんですね。

それなら以前製作したこの本に、「緊急用の下着がないときに布は切って使えますよ」と被災地で役立つ情報を足して、新装版にしようとしたんです。それで別の版元を探したんですが、つい最近出したものだし、難しいと断られました。

でもちょうどその頃、1人で出版社を立ち上げる人たちが出てきたんですよね。そのときに「あ、そうか。出版社って自分で始められるのか」と気づいたんです。

ー それで、宮川さんもご自身で出版社を立ち上げようと。

宮川:そうですね。当時すでに出版不況になってきて、フリーの編集者としてずっと出版社に企画を売り込んでいく方法を続けるのは難しいんじゃないかなと思っていました。でも1人で出版社をやるなら、他にもやっている人がいるし、私もできるんじゃないかと。

それで先ほどの書籍の新装版を出すために立ち上げたのが、今のタバブックスです。

より「健全」だから、自分で出版社をやる

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▲タバブックスから出版した書籍

ー 出版社を立ち上げた以上、つくりたい本をつくりながらも、同時にお金を稼いでいかなきゃならないわけですよね。「売るためのものづくり」と「表現のためのものづくり」に、違いはありますか?

宮川:いや、そこは分けてないかなと思います。もともと在籍していた出版社でも、新しい作家さんを探して今までにない本をつくりたいなと思っていたので、その感覚は今でも変わりません。

売れることだけを追求すると、みんな同じように「成功パターン」をなぞってしまう。でもそれは、私がやりたいことではないので。

ー とはいえ、フリーランスで編集者をされていた頃のように版元からお金をもらって本を製作する状況と、現在のように自分でリスクを取りながら本を出版する状況は、大きく違うのかなと思うんですが。

宮川:違いますね。自分で出すようになって、企画勝負の色がさらに強くなりました。

出版社の意向で書籍の出し方を変えたお話をしましたが、タバブックスで出版するのであれば、私が著者や企画内容、装丁の決定に関わるわけですし、製作にかかる費用も自社で持ちますから。重みがありますね。

ー タバブックスは、まだあまり世に知られていない作者の方と書籍をつくっている印象です。そういうスタンスなのは、売れるために企画された大手出版社の本ばかりではなく、さまざまな視点から本が出版される世の中になればいいな、と考えているからですか?

宮川:そうですね。ただ「大手出版社の売れる本ばかり」という今の言葉、ちょっと引っかかっちゃいました。大手だからといって、つくったら売れるわけではないんです。

実際の発行部数を見ていても、大手出版社が手がけたものと独立系の出版社が手がけたものと、あまり変わらないケースが増えています。

ー なるほど。「大手だから売れる」わけではないですね。

宮川:たとえば、差別を扇動したり特定の属性を拒絶したりする明らかな「ヘイト本」も、一時期よりは書店で見かけなくなったじゃないですか。やっぱりあれ、売れないからだと思うんですよね。

「売れるならしょうがない」とバンバン出したって、もう売れないんですよ。とりあえず出版して本屋さんに配本すれば、いっぱい返品されても良しとしてきたサイクル自体に、限界が来ていると思います。

ー 一方で、本が売れなくなっているという話も聞きますよね。それでも宮川さんは、本をつくり続けていこうという気持ちですか?

宮川:フリーランスだった頃から、「どっちにしろ難しいのなら、自分でつくるほうがまだ可能性がある」と思って続けています。

版元の意向に沿った本を出して、しかも外部編集者として入るとちょこっとしか儲からないから、お金を稼ぎたいならものすごいいっぱい本をつくらないといけない。それはちょっと割りが合わないし、あまりおもしろくないなと思いました。

ー だったら自分で出版社を立ち上げて、好きな本を出していっても一緒だなと思った、ということでしょうか。

宮川:一緒だなというよりも、割く時間や労力を考えると、自分で出版社をやるほうが健全かなと思いました。

他の版元に持ち込む場合でも、結局は受託の仕事になるんですよね。お金をもらって、書籍を納品する。このやり方だと、お金を出す出版社の意向に合わせないといけないんです。

ー それなら自分で出版社を立ち上げて、自分が最初から最後まで意思を持ってつくったものをちゃんと世の中に出したほうが、健全だという判断だったんですね。

宮川:そうですね。ただ、タバブックスを立ち上げて最初の1〜2年ぐらいは、本をほとんど出せていません。3年目までは、年1冊程度が限界でした。やっぱり、本をつくるには時間がかかりますからね。

4年目の2016年頃から定期的に書籍を出せるようになってきて、今は年間で10冊ほどつくっています。

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「普通」に働いている人が、「普通」に生きていけるように

ー タバブックスでは書籍を出版しながら、会社を立ち上げてすぐに雑誌『仕事文脈』を創刊されていますよね。「仕事」というテーマを選んだ理由は何だったのでしょうか?

宮川:2012年頃、「新しい暮らし方」「ていねいな暮らし」のような文脈が取り上げられてきたんですよ。その風潮に対して「オシャレで余裕があって、でもこの人たちはどうやって生活を成り立たせているんだろう?」と疑問を感じていました。

一方で「ビジネス」の書籍というと成功例があり、その成功を目指すためのハウツーが取り上げられている。もっと違う文脈だと労働運動があったりしたんですけど、自分はどれにもハマらないなと思って。

女性で、普通に仕事して生きている人のことを知りたいのに、私が読みたい雑誌や本はなかったんです。

ー 『仕事文脈』以前にも、仕事に関する書籍の企画を持ち込んでいたんですか?

宮川:はい。2010年前後は、『断る力』をはじめ多くの書籍を出版されていた勝間和代さんがすごく人気でした。だから出版社に企画を持って行くと、「いや、もっと勝間さんみたいな企画を持ってきて」といつも言われて。

それだけ当時は「女性が仕事する」といえば、勝間さんのように金銭的にも知名度においてもかなり成功しないと、「成功」とみなされなかったんでしょうね。

でも私が書籍をつくるなら、勝ち負けでもなく目立ちたいわけでもなく、もっと普通に「生きていくこと」に近い感覚で、「働くこと」を考えたかった

そういう私のような人が興味を持てる仕事の本があったらいいなと思って。それでつくったのが、『仕事文脈』です。

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ー 『仕事文脈』の創刊号で宮川さんが、「気づかなかったけれどやり方次第でお金を生む仕事、今まで働いてなかった人ができる仕事、つまり『ないけど、ある仕事』が増えれば、生きやすくなるのではないか」と書かれていたのが印象的でした。宮川さん自身も「仕事」に関して生きづらさを抱えていたのでしょうか?

宮川:うーん、私自身がものすごく困っていたわけではないですね。でも周囲の人や下の世代には、生きづらさを抱えている人がいるんだなと感じていました。

女性だと、たとえば「ロールモデルがいない」みたいな言い方をよくしますが、仕事を続けるなかで結婚や子育てとどう向き合っていくか、悩んでいる人たちが多いなと。

それなら「こんな生き方もできますよ」と『仕事文脈』で紹介できたら、そういう人にも別の選択肢が見えるようになって、少しは気持ちが楽になるかもしれないな、と思っています。

ー 明確に「これがロールモデルです」と成功例らしきものを定義するのではなく、「こういう生き方もアリじゃない?」と多様な生き方を紹介している雑誌だなと感じます。

宮川:そうですね。だから『仕事文脈』ではなるべく、提言のように正解を定めたり、ハウツーを伝えたりすることはやめようと考えています。

ノウハウを提示するんじゃなくて、その人自身のことを書いてもらう。「これがたったひとつの正解」という見せ方にしたくないんです。

ー 『仕事文脈』は同じ方向に流れていこうとする世の中への抵抗でもあるし、さまざまな生き方を肯定する本でもありますよね。

宮川:『仕事文脈』には「仕事」とタイトルに入っているけれど、働いていない人も意外と多く登場しています。それでも生きていけるって伝えられたら、安心するんじゃないかと思うんですよね。こういう人もいるんだ、自分も生きていけるかもしれないな、と。

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次の世代にきっかけを渡していく「編集」のおもしろさ


ー 編集者という仕事のやりがいは、どういうところに感じていますか?

宮川:自分で著者を探し、書籍を企画して、デザイナーさんだったり印刷会社の方だったり、いろいろな人が関わってつくりあげていく。それをまとめる立場から組み立てていくことが、おもしろいなと感じます。

まだ名前が知られていない作家さんの表現をどう整理して、どんな見せ方をして世に出すと、伝えたいことをより伝えられるのかを考えていく。責任もあるけど楽しいんです。うまくはまったときに「やった!」みたいな感じかな。

ー まだ知られていない価値を世の中に出したい、という思いがあるんでしょうか。

宮川:そうですね。前職のつながりがあるので、かつて一緒にお仕事した著名な方の本を出すことも、できなくはないんですよ。でも、あんまりやりたいと思わなくて。もう有名になっているから、他の出版社さんで出してくださいと(笑)。

大手出版社がすぐに書籍化を頼まない方は、要するに名前がまだ知られていない、つまり書籍化しても売れるかどうか分からないんですよね。評価が定まっていないものって、みなさん手を出しにくいんでしょう。

だから、他の人がやらないのであれば「はーい、やります」と。そうやってタバブックスの書籍をつくってきました。私たちも手当たり次第にお声がけしているわけではなくて、文章を読んで感じるものがあれば、その人と向き合ってお願いして、一緒につくっています。

そういう意味でも、『仕事文脈』があることで新しい作家さんにお願いしやすいですね。まずは連載をお願いしてみて、そこから書籍化につながるケースが多いです。

ー 新しい作家さんと手を組んで、ひとつでも新しい価値観を産み出すことは、きっと生きやすい世の中につながっていきますよね。

宮川:そうですね。他の人が気づかなかったこと、これはあったほうがいいんじゃないかと思うものを、一緒にできる人がいて自分がつくれる状況にあるんだったら、やったほうがいいかなと。

Webメディアの記事って、タイトルが目立つものやバズったこと、分かりやすい内容だけを企画にしていると、本当に分かりやすさだけになってしまう。

そうではないものから何か新しい視点で発信している人を見つけていきたいし、見つけることに楽しみがあるな、と思います。

最近だと、文筆家・投資家のヤマザキOKコンピュータさんに書いてもらった書籍『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』を出したんですけど、この人の投資の話を出す出版社はそんなにないと思うんですよね。でも、出したほうが絶対にいいと思いました。

それに今なら、タバブックスからこの本を出しても、そんなに違和感がなくなってきたかなと思います。「またおもしろい本を出しているな」くらい。そういうことをできるようになったのは、続けてきて良かったなと感じますね。

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タバブックスのものづくりと、多様さを受け容れる街


ー 今年の上半期に出版された『仕事文脈』の16号(特集「東京モヤモヤ2020」)の「『東京生まれ・東京育ち』のモヤモヤ」で、宮川さんは「どんどん東京がイヤになってきた」と話していました。それでもこのお仕事を東京でやることに、どういう意味を見出していますか?

宮川:いやあ、意味は見出していないですよ。たまたま、ここにいるだけです。だってもうコロナの後は、東京にいる意味が薄れたじゃないですか。むしろ、東京にいることが辛く感じる人もいるかもしれません。

出版社として考えてみても、東京じゃなくていいと思うんですよね。地方でもできるんじゃないかな。コロナを気にして書店営業が推奨されなくなっているし、本の売り方も変わってきているので、東京にいる意味は本当になくなってきているかもしれません。

ー 東京から離れる選択を具体的に考えたりもしますか?

宮川:そう言われると、具体的にはないですね。今のこの環境が、まあまあ整っているから。タバブックスのオフィスがあるのが下北沢で、このエリアに少しずついいお店が増えてきているので、それはそれでちょっと楽しんでいます。

ー 下北沢という環境にいることが、タバブックスのものづくりに影響を与えているんですかね。

宮川:そうですね、そう思います。環境で考え方は変わるかもしれないですね。

出版社の大手・老舗って、やっぱり神保町に多いじゃないですか。そっちの出版社の人に会うと、いわゆる「出版業界」のイメージ。

でも下北では、会話の内容が全然違うんですよ。このエリアで異業種の店舗をしている人たちと、こんなイベントをできそうだねとコミュニケーションをとったりしています。

タバブックスはたまたま下北沢ですけど、東京の中であっても神保町と下北沢じゃ、表現が変わってくるのかもしれないですね。神保町じゃ、さっきの『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』が生まれる気がしないですもん。

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言葉のその先につながる未来に、責任を持てるのか

ー 次の『仕事文脈』は、どんなものをつくろうとしていますか?

宮川:今まさにvol.17を製作中で(2020年11月発売)、特集を1本から2本にして、ページを増やしました。本が売れないこのご時世に大丈夫かな、どうしたのかな、と自分でも思うんですけどね(笑)。

今回の特集テーマは「ことばはどこへ行く」と「7年8ヶ月」です。前者は、新型コロナが広まり、「ことば」に翻弄されたから。後者の「7年8ヶ月」は、安倍晋三元首相の長期政権のことです。

『仕事文脈』は第2次安倍政権発足の少し前に始まって、ほとんど同じ年月を安倍政権とともに歩んできていて。だからいつも怒っていたんだ、と気づきました(笑)。

安倍元首相の発言について何度も「おかしくない?」とコラムに書いてきたので、政権が終わるタイミングでテーマにしたんです。

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▲取材後に発売された『仕事文脈』vol.17 特集「ことばはどこに行く」

ー たしかに安倍政権の「ことば」に関する憤りは、これまでのコラムによく登場していましたね。

宮川:そうなんです、『仕事文脈』を始めてからずっと怒っている気がします(笑)。

元首相が会見で使っていた言葉が気になるんですよ。内容としては何も言っていないのに、何か言っているような話しぶりをしていて。そういうお茶を濁すような発言があると、許せないな

そういう憤りがずっとあるんですよ。表現に関わる仕事をしているし、文字を扱っているから、適当さには黙っていられないなと。その怒りを書いてきた気がします。

ー 言葉に対する責任のなさ、みたいなことなんでしょうか。

宮川:そうそう。まさにそういうことですよね。

あとは最近の風潮でいえば、メディアでよく聞く「自分だけが1歩抜きん出なきゃ、生き残れない」みたいな発言にも疑問を覚えます。主張としては分かりやすいし、売れるから、書籍にもなりやすいですけどね。

でもその考え方って、「1人だけ勝ち抜けば他の人はどうなってもいい」ってことでしょう? 自分だけが良ければ、本当にそれでいいんですかね?

そういうことをしたり顔で言っている人を見かけるんですけど、その発言に対して責任を取れるのかと。自分の発言に責任が取れないのは、私はダサいと思うんです。

それなのにわかりやすい物言いだから、目立ってもてはやされる。結果、そういう発言を受けて、若い世代が「そうなんだ、他の人とは違う部分をアピールできる自分にならなきゃいけないんだ」「他の人を蹴落としてでも、自分は勝ち残らなきゃいけない」と考えてしまう。

それってすごく、かわいそうなことじゃないですか。

日本の中でだけなら、いいかもしれないですよ。でもそんな悠長なことを言っている間に、どんどん日本が世界に対して遅れていく。

国内でちょっと飛び抜けることを「成功」と呼ぶんだったら、その「成功」って先が短いですよ。今30歳の人が60歳になるまでは大丈夫かもしれないけれど、せいぜい1人分でしょう。その下の世代はどうするんだ、と。そういう怒りを感じますね。

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ー 宮川さんは、今のお話みたいに社会とか周りのことを常に考えてきたんですか? 社会のことを自分ごととして考えるのって、簡単じゃないと思うんです。 たとえば日々の暮らしに忙しかったり、明日の飯が食ベらないような状況に自分がいたら、社会のことは考えられないんじゃないかなって。

宮川:私は、そもそも「明日の飯が食えない」という状況がおかしいと考えます

食えないから考えられないんじゃなくて、食えないのはなぜなんだって背景を知らないと、周りが見えなくなっちゃうと思うんです。

すごく嫌な例ですけれど、「女性が貧困の状態になると、もう水商売をするしかない」みたいな物言いがあるじゃないですか。

それは社会が他の例を提示できていないからであって、本来は選択肢の少ないことがおかしい。その少なさを「おかしい」と思わなくなっちゃう状況が、根本的におかしいと思うんです。

なんで女性が貧しくなったりシングルマザーになったりすると、その先にある選択肢が水商売や売春なの?他の選択肢を見せていないだけじゃないんですか? と。

それなのにおもしろおかしく「貧困女子」みたいに取り上げるのは、やっぱり許せないですね。

自分の意思を貫く生き方を教えてくれたのは、「パンク」だった

ー そういう宮川さんの原動力にある正義感みたいなものって、どうやって形成されたんですか? 何か影響を受けたものってあったりします?

宮川:んー、正義感なのかなー。

ー 「許せないものは許せない」とか、「大きなものには迎合しないぞ」っていう抵抗みたいな姿勢を感じるなと思って。

宮川:あー、でもパンクを聴いてた影響はあるかもしれないですね。

ー なるほど! パンクかぁ!

宮川:パンクですね、ここにあったわ(笑)。

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ー すごく腑に落ちました。音楽からの影響があったんですね。

宮川:うん、あるある。ありますね。

初期のパンクが好きだったんですよ。中高生の頃に、セックスピストルズとかザ・クラッシュとかを聴いてて。

ー いや、それを聞いて、全部が繋がった気がします(笑)。僕もパンクが好きなんですけど、最初は単に反社会的な姿勢の音楽だと思ってたんですよね。でもいろいろ聴いていくと、パンクって「自分の意思を持ってる」ってことなんだなと思って。

宮川:そうそう、そうなんですよ。

ー そういう姿勢を、宮川さんにすごく感じていたんです。根幹にあったのは正義感ではなく、パンクだったのかぁ。そう考えると、『仕事文脈』にもパンクの精神性が宿っている感じがしますね。

宮川:それはあるかもしれないですね。

ー 「言葉に責任を持て」っていうのも、まさにパンクな姿勢だなと思いました。ちなみに、パンクの、どういうところに惹かれたんですか?

宮川:見た目も、音も、歌詞も、ジャケットデザインなんかも、めちゃかっこいいなと思って。

セックスピストルズを信奉してたので、原宿でボンテージパンツとかモヘアのセーターを買ったり、髪の毛を立てたくて短く切ったりもしてましたね(笑)。

ー はぁー、すごく似合いそう!そういう青春時代だったんですね。

そんな感じでしたね。高校時代に清掃のバイトをして、ライブのチケットを買ったりとか。

言葉は、きっと届く。そう信じ続けるために

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ー パンクの影響もあったと思うんですが、宮川さんはどうして、ここまで強く言葉の力を信じていられるのでしょうか。

宮川:言葉はきっと、届くと思いますよ。だって、言葉を信じなくなったら、何を信じればいいのかな? 

言葉って文字だけじゃなくて、たとえば歌も言葉だと思います。歌詞があってもなくても、それは表現ですから。

ー 表現を、信じていいと。

宮川:この前、ある方のインタビューで聞かせてもらったんですけど。言葉も活字だけじゃなくて、手で受け取るんだったら「書く」だし、耳だったら「聞く」、心だったら「感じる」、頭だったら「考える」と言えるから、何も活字になった言葉だけにとらわれる必要はない。でも現代人は活字に囚われすぎなんじゃないか、と話してくれて。

なるほどな、と思いました。そういう、活字に限らず「表現」全般を信じていたいですね。

ー 宮川さんは、言葉をすごく大切にされていますよね。

宮川:でも、どんなスタンスであっても、文字を書けば言葉になってしまいます。「こんなもんでいいしょう」と投げやりに書いたり、使い古された陳腐な表現をなぞって「こういう場ではこう言えばいいんでしょう」と言葉を軽んじる態度が見えると、ダサいなと思うんです。

Webの記事でも「今後が楽しみだ」とか「これからどうなっていくでしょうか」のような書き方が、締めの定型文のようになってきますよね。そうやって自分の言葉で書くことから逃げている文章を読んでいると、「じゃあ何が言いたかったの?」と思うんです。

このくらいの文字数で、この程度でいいだろう、最後はこの締め方でいいだろう、となんとなく書いている姿勢は、すぐわかりますよね。

と、私は思うんですけど、どうなんだろう。文章を読んでいて、みんなあんまり「おかしいな」とか思わないのかな。

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ー うーん、その違和感は誰もが気づけるわけじゃないかもしれないですね……。

宮川:できれば、読む人に分かってほしいな。だから文章をたくさん読んで、読解力を高めたほうがいいと思う。そしたら、適当に使われている言葉に騙されなくなると思うんですよ。

私はものすごい読書家ではないけども、1冊の本をつくるにあたって、いっぱい文字を読むじゃないですか。それでゲラをチェックすると、ちょっと「ん?」と違和感があったり、逆にサラサラと読めてしまう妙なひっかかりのなさにすぐに気付いたりしますね。

ー 「この人の言っていることは正しいのだろうか」と考えながら言葉を受け止めるのが重要なんですかね?

宮川:内容だけでなくて、何が気持ち悪いのか、何が引っ掛かるのか、自分が抱いた違和感に気づくことから始まるのかもしれないです。苛々は見逃さないでいることですね。

たとえば話の内容ではなく、話法が引っかかることがあるかもしれない。安倍元首相なんかも、ためて話すような、もったいぶった話し方が気になって、後から新聞に書き起こされたのを読んでみると、やっぱり文字にしても違和感があるんです。

最新号(Vol.17)の『仕事文脈』では校正の仕事をしている方に寄稿してもらったんだけれども、その人も安倍元首相の演説への引っかかりについて書いていて。まさに同じことを感じていたんですよ。

それはきっと、読み解くテクニックよりも、これまでインプットして積み重ねた経験が気づかせてくれる。だから表現にいっぱい触れていたら、違和感を見逃さなくなるんじゃないかな、と思います。

多様な未来をつくるための、バトンの渡し方

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▲2020年11月に開催された、第三十一回文学フリマ東京にて

ー 『仕事文脈』のこれからについては、どうしていきたいとお考えですか?

宮川:ちょっとね、さすがにもう、誰か『仕事文脈』の編集長やらない? といろんな人に言ってて。「またまたー」って、誰も真面目に聞いてくれないんだけど(笑)。

せめて新しい風を入れようと思って、3人の学生アルバイトさんに日替わりで来てもらっています。視点を変えたほうがいいかなと思って、編集の方にも1人入ってもらって。

そしたら人が増えたからアイデアも増えて、ページが足りなくなったんですけどね(笑)。それでVol.17は、特集が2本になりました。

ー ここまで7年以上「仕事」をテーマに雑誌をつくり続けてきていますが、まだまだやりたいことは尽きないですか?

宮川:まだまだやりきれていないところがあるな、と思います。

年2回でこのボリュームとはいえ、意外と大変なんですよ。単行本が増えてくると、本当は仕事文脈のプロモーションもやらなきゃいけないのに手薄になってしまったり。

だから人を増やし始めています。本1冊をお願いするとハードルが高いかもしれないけど、『仕事文脈』ならそんなに負担でもなく参加できるのかなと。新しい人に入ってもらえば、少しずつ関わる人が変わっても、つくっていけるかなと思っています。

ー ひとりだと、できることってどうしても限られるじゃないですか。だから宮川さんのこれからのスタンスとしては、自分のできる範囲のことからやっていき、あとは目指すものが近い人たちと一緒に活動を広げていきたいイメージなんですかね?

宮川:そうですね。自分で出す書籍は年に10冊までかなと思って、今後は一緒にやれそうな人と組む方法があるかなと思っています。今は書籍を私が担当しているので、書籍を1冊まるごと担当できる人を育てたいですね。

でも、私のようにひとりのカラーでものづくりをしていると、会社がすごく大きくなるケースは少なくて。会社の個性を存続させるために、あえて規模を大きくしない人たちを見てきたから、タバブックスで規模をすごく大きくするやり方が合うのかは疑問です。今のところ、どうやればいいのか分からないな。

かつて経験者の人が社員として入ってくれたことがあるんだけれど、うまくいかなかったんですよ。私が一方的に、もう1人の自分の存在を求めちゃったんでしょうね。自分と同じように編集もやって営業もやって、企画も立てることを人にお願いするのは、難しかった。申し訳なかったなと思います。

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ー ひとりで最初から最後までつくれる宮川さんと同じように動いてもらうのは、たしかに難しそうですね。

宮川:今の規模では、誰かひとりにすべてお願いするのは難しいかなと思っていて。少しずつ関わってもらいながら、一緒にやっていける人を探せたらいいですね。

関わる人を増やした『仕事文脈』vol.17も、人が入った分だけ意見にも視点にも厚みが出てよかったと感じました。このやり方を続けながら、どうやって引き継いでいくかを考えています。

今のアルバイトさんも、「タバブックスでの仕事が、自分の活動に何かプラスになると思う人は来てください」という募集に対して集まってくれた、出版社を目指している学生さんです。

でも「大学を卒業したら絶対にタバブックスに入社してほしい」なんてもちろん思わないし、将来私と全く同じように本づくりをしてほしいとも思いません。

ー タバブックスはあくまでひとつのやり方、ということでしょうか。

宮川:そうですね。うまく伝えられるか分からないんですけど(苦笑)、私の色に染まった「宮川的」なものや人を増やしたいとは思わないんです。危険だし、そうじゃないほうがもっとおもしろいものをつくれるので。

だって「宮川的」を増やしたら、私が「良い」と発言したものが「正解」として受け止められてしまうわけでしょう。実際、そういう例って多いじゃないですか。

さっきの「自分だけが1歩抜きん出なきゃ、生き残れない」みたいな発言もそうですけど、ひとつの正解を提示するわかりやすい物言いが提示されて、言葉がひとり歩きする。人気が出るからメディアはその人頼みになり、同じ意見が量産されていく。後に続くものはコピーペーストで、「その人的」でしかない

そしたら受け手は自分の違和感を見逃すようになるし、大きくて強いものに迎合して、自分の頭で考えなくなってしまう。

私はそうじゃなくて、自分ごとから考えた企画を出してほしいし、何かをなぞるよりも自分の頭で考えて文章を書いたり発信してほしい。もっと自分の声を出していきましょう、と言いたいんです。

だからひとつの生き方として、違和感を手放さないでいること、言葉をあきらめないでいる姿勢を伝えていきたいですね。そのための表現方法として、本づくりをこれからも続けていこうと思います。

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■■■ おまけの質問 ■■■

Q:宮川さんが影響を受けた作品は何ですか?

A:セックス・ピストルズ『NEVER MIND THE BOLLOCKS』、クラッシュ『WHITE RIOT』。

『時計じかけのオレンジ』『ブレードランナー』『スターウォーズ』『ロッキーホラーショー』……この辺はインタビューからも想像できるかもですが、もっと遡ってみました。

すると蘇ってきたのがリンドグレーン『長くつ下のピッピ』、佐藤さとるのコロボックルシリーズ、松谷みよ子『ちいさいモモちゃん』シリーズなど当時の現代児童文学。想像力、自立、ジェンダーとかへの鋭さに無意識にものすごく衝撃を受けていたと思います。


Q:休日の過ごし方を教えてください。

A:平和な質問もあってよかったw
仕事以外で最近時間を使ってるのが、畑とラン。畑は、以前有機農業塾みたいのに通った流れで多摩川沿いのワイルドな土地を借りて野菜を作ってるんですが結構広くて雑草との戦い、常に人手不足。興味ある人いたらjoin us!
ランニングは数年前から始めて、フルマラソン走るなら月間最低100km走れと言われ休日距離稼いでます。つらいので温泉&beerをゴールにしてる適当ランナーです。


Q:宮川さんの思う、下北沢の好きなところは?

A:そんなに下北カルチャーを通って来たわけじゃなく、家からも都心からも便利くらいの理由でここにしたんですが……スーツ・ネクタイのおじさんが皆無でいわゆる「マッチョな日本社会」を目にしなくて済む。車が入って来にくく路面店が多いから、散歩したり商店で買い物したり息抜きができる。遊びに来てる子がほとんどでみんな楽しそうにしてるから、めちゃ忙しかったり休日出勤しても「あ、遊びに来てるんだっけかな?」って錯覚できる。


■■■ タバブックスの本 ■■■

『仕事文脈』 vol.17 特集「ことばはどこに行く」

くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話

田舎の未来 手探りの7年間とその先について


■■■ リンク ■■■

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取材・編集/阿部光平
文章/菊池百合子
写真・動画/タニショーゴ(書影を除く)
動画撮影/ホシノダイスケ
アイキャッチデザイン/鈴木美里
制作サポート/浅嶋詩乃
企画・進行/さのかずや


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「トーチライト」は、株式会社トーチがつくる、 「どこに住んでいても、つくってゆかいに暮らす」ためのウェブメディアです。 人よりていねいな暮らしのためでも、自分たちだけが楽しむためでもなく、 現実と向き合い、実践を繰り返し、先につなげていく人と、未来を共創していきます。