眠れぬ夜の奇妙なエスキース

 盆過ぎの、渡る夜風に笹の匂い、綿あめの匂い、綿あめの、は潰れた銀杏の実の匂い、腐臭は甘い、からみ、つく。


――月なんか無くなったって、あなたは、この地上でいのちがありそうだ。

 愛の告白と分かったので、つい照れる。

――太陽じゃなくて?
――それはさすがにあなたも死ぬよ。人間だもの。

 もっともだ。
 変に誠実に理屈っぽいのは、子どもの頃からの私であったはずなのに、彼といる私は女になる。

――信じないと思うけど。胸をつららが貫いてるみたいで。冷たいんだ、俺は……

 その口を塞いで抱きしめる。あたためてあげたい。とかしてあげたい。真に心無ければ感じず苦しまない。冷たいのはあたたかくなれるから。私の胸にはあなたが灯りあたたかい。なんて、過ぎた女を数えても彼はとうに知っていて、もう、言葉に怯えていた。ただからだにからだで触れた。

 いつか、女性のからだはあたたかいと話してくれた、そのからだは、いったい、異常に熱くあった。
 しがみついた背の肌をすべる汗は爽やかで、発熱によるとも思えない。ねじり込まれる熱さは容赦なく、わけがわからないまま喘ぎ、呻いた。

 うれしそうにゆるんだ顔が目に入り、可愛くて、触れて撫でるとすっと寝付いた。
 そんなはずはない、おかしな話だか、きっと尋ねれば、私もあたたかかったのだろう。

 キスが、甘い人だとはまず思った。それにしたって寝息が、濃く、甘すぎる。 憑かれたように。
 そして尚、彼は蒼然と強く、稲光る。

画像2


以来、彼を心配するのをやめた。



 眠れぬ夜の奇妙なエスキース―Phantom Quartz

3DCG gif制作:磯貝剛さんのご提供でお送りしました。



(了)


☆Special Thanks☆

(たしか)やりきれないお話が好きな磯貝剛さんにご協力いただきました。

ムラサキさんご主宰のアンソロジー【NEMURENU40th「懐中電灯」】に参加させていただきます。

星マリアさんの自伝的小説【新月の雫】で語られる「氷柱」や「光/闇」にインスピレーションを頂戴しております。

加えて、今お名前や作品をあげていない皆様へのSpecial Thanks&あとがきを上げました。
ご覧いただけますとうれしく、どうぞよろしくお願いいたします。


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