見出し画像

9月7日 Splatoon3 ビッグラン スコア報酬の仕組みについて一つ言いたい

【追記】12月2日のビッグランから仕組みが変わり、金イクラの数が固定になりました。

 9月2日~4日まで、『Splatoon3』イベントでナンプラー遺跡にシャケの大群が押し寄せてくる【ビッグラン】が開催された。
 ゲーム自体は楽しく遊んだのだけど……。
 引っ掛かったのがイベント終了後の報酬ボーダーライン。上位5%が156個ってのは多すぎじゃないか?

 ではこれまではどれくらいだったか見てみよう。

資料引用元

 第1回最上位ボーダーラインは137個。これくらいなら普通に頑張れば行ける……というレベル。しかし第2回、第3回とどんどんボーダーラインが上がっていき……第4回は156個。ここまでくると、相当頑張らないといけないレベル。150個以上はほとんど運勝負で、行けるときは行けるし、行けないときは永久にいけない。私も今回のプレイ中で150個以上納品できたのは数回しかなく、最大記録でも152個が限界だった。

 どうしてこうなってしまったのか?
 プレイヤーの練度が上がってきた、というのもあるけど、過去データを見ていると、「前回150個がボーダーラインなのか……これは相当頑張らないと上位5%に入れないかも知れないぞ」……と誰もが思う。そう思ってガンガン頑張る。
 SNSを見ると「200個納品できました!」という人が報告を上げる。ああいったものを見ると焦る。もっと「納品数を上げないと!」という心理になっていく。上級者プレイヤーが納品数ボーダーラインをどんどん上げていく、という現象が生まれて……。

 この辺りは、私の想像でしかないけど、まあそんな感じでしょう。

 これはオンラインゲームの問題点の一つだ。「ユーザー間の自然な経済原理・競争原理に任せよう」……するとトンデモない事態が起きてしまう
 だいぶ前に、私はとあるMMORPGをやっていたのだけど、装備品がとにかくも高い。それなりにいい装備になるとハチャメチャに高い。1ヶ月近く金策をやって、ようやくそのレベルにおける最高装備が買える……という感じ。そのレベルにおける最高装備だから、次の装備を買うためにはまた1ヶ月金策を続けなければならない。
 まあMMORPGってこういうものだから……と思い込んでやっていたけれど、あるとき同じシリーズのオフラインタイトルをやったら、新しい武器が1時間程度の努力で買えることに気付いた。その時に、「MMORPGはしんどい」……ってなった。もう二度とやるまい、と思うくらいに。
 ユーザー間の自然な経済原理に委ねる。一見すると「正しいこと」のように思えるが、実際にやってみると、みんなが欲しいと思う装備品はハチャメチャに高くなってしまう。普通のRPGの水準で考えてもあり得ない価格になる。
 これがオンラインゲームの問題。ユーザー間に自然に発生する市場原理に委ねてしまうと、ちょっとした装備品を買おうにも、競争になってしまって異常な値段になってしまう。それを買うために長時間プレイが必須になってしまう。するとゲームと向き合う環境が悪くなってしまう。オンラインゲームのヘビーユーザーになると「それがオンラインゲームの常識なんだから、そのルールに従え!」という精神論を中心とした考え方になっていく。
 でもちょっと待て。普通のオフラインゲームをやってみろよ。新しい装備品なんて1時間モンスターと戦っているだけで買えるんだぜ? 1ヶ月金策をやり続けなければならない……っていう仕組みはちょっと異常じゃないか? 我に返ってゲームのプレイ時間を見てみろよ。同じエリアを周回するだけの無駄な時間が、プレイ時間の中にどれだけあるか考えてみろよ。

 はっきりいえば、作り手側もプレイヤーがそういう心理状況に陥っていくことを煽っているところもある。プレイヤーをより長時間そのゲームに滞在させるためだ。そうならないためにも、実際には物価の値段は作り手側がある程度制御しておいたほうが、大多数のプレイヤーのためになる。
 現実の経済だって、大多数の消費者の生活を守るために、政府がある程度物価のコントロールするわけだから(政府によるコントロールができなくなると、支持率が下がる)。ゲームの世界になるとみんな「すべて自由経済に任せるべきだ!」と言い始めるのはなぜだ?

 作り手目線の話をすると、ゲームデザインは基本、「しんどい……」と思われてはダメ。「しんどい」と思ったらそのプレイヤーはそのゲームをやめてしまう。時間が掛かる要素があったとしても、「しんどい」と思わせない工夫が大事だ。
 「その“しんどい”を乗り越えない奴はダメだ!」……とか言い始めるとそれは精神論の世界。「付き合ってられん」と答えるしかない。そういうゲームはヒットしないし、ヒットしたとしても長期的な支持に繋がらない。

 『Splatoon3』のビッグランもオンラインゲームにありがちな問題に陥っている。
 ユーザー間の過酷な競争が起きはじめていて、上位プレイヤーがガンガンボーダーラインを上げていってしまっている。このままいくと、第5回には160個がボーダーラインになるだろうし、さらに進めば170個、180個とインフレし続けるかも知れない。すると大多数のプレイヤーは「もう追いつけないよ」と脱落していく。
 ユーザー同士の自然な競争原理に任せるとそういうことになる。大多数のプレイヤーにとって「やってられるか!」という現象が起きてくる。次に起きるのは、多くのプレイヤーが何も言わずに去って行く……という状況だ。

 「上位5%」「上位20%」という仕組みはやめるべきだ。
 せめて「納品数135個以上で景品」というふうに作り手側が最大個数を指定する仕組みに変えるべきじゃないか。今のままユーザーの競争原理に任せると、上位5%のボーダーラインがどんどん上がって行ってしまう。
 一部の「うまいプレイヤーしか楽しめない世界」になると、そのゲーム文化は衰退していく。大多数のプレイヤーは「そこそこのプレイヤー」でしかない。「トッププレイヤーについていけるようになるのが当たり前だ!」……みたいな精神論の世界になると、格闘ゲームが衰退していったときのようになる。大多数のプレイヤーが「やってられるか!」という心理になって、離れていく。バトルロワイヤル型のゲームも、楽しいのは一部のトッププレイヤーだけ。勝者の養分となるその他大勢のプレイヤーは楽しくともなんともない。
(いやーな話だけど、「独力で成功を掴んだ!」という人は100%「精神論」という新興宗教の教祖になる。そういう人には、「あの人、天狗になってるなー」と醒めた気持ちで接しましょう。)
 そこそこのプレイヤーでもちゃんと勝利の旨味が得られること。そこそこのプレイヤーでもゲームの中で称賛を受けられて「嬉しい」という気持ちが続くこと。そういうものがないと、ユーザーは離れていく(やめていくプレイヤーは“静かに去って行く”ものだ)。
 任天堂はそういう「声を上げない多数派」の声、聞いてないんじゃないかな。あるいは称賛してくれるトッププレイヤーの声しか聞いてない。

 そもそも「ビッグラン」は、普段のサーモンランとは違うところがステージになる……という趣旨だから、攻略法がすべてのプレイヤーに共有されていない状況ではじまる。私もビッグランの時は毎回探り探りだ。
 例えばグリルの時は、2箇所ある安全地帯を移り変わりながら進めると、安全に金イクラを納品できる。
 しかし残念ながら、私も数時間プレイしたのだけど、このやり方に気付いているプレイヤーに出会うことはなかった。何度ももう一つのほうの安全地帯に移動して「カモン」押しているのだけど、誰も気付いてくれなかった……。
 「攻略法が共有される」までには、もっと数日にわたる時間が必要だ。最適解を見付けるのが大変だし、自分一人が知っていても他のプレイヤーが知っているとは限らない……。私も気付いていない攻略法が一杯あったはずだ。もっとスコアを上げる方法を知っているのに、他のプレイヤーが付いてきてくれないから、なかなかスコアを上げることができない……。

 ものすごくわかりづらいが……カゴのすぐ横にあるわずかな段差が安全地帯。私も偶然ここに飛び込んで発見した。こんなふうに、やっているうちに偶発的に発見する攻略法もある。

 今回のクマサン特別装備のマニューバー。
 一見すると普通の性能に見えるが……実は「スライド」をやったときのタックルが異常に強い。シャケの大群を突撃で一掃できてしまう。
 ……でも最初は「これ、普通のマニューバーとどう違うんだ?」と扱い方がわからなかった。「スライドタックルが強い」と気付いたのは2日目に入ってから。
 気付いても扱いがなかなか難しく、何度水没したことか……。ヘビに突撃しようとして、結構返り討ちにあったし……。わかったからといっても、すぐに扱えるわけではない。

 任天堂の人々はこういう問題に気付いてるかな……。ボーダーラインがどんどん上がり続けているよ、並のプレイヤーが追いつけない、という状況になっているよ……という状態に気付いてるかな……。
 SNSで「拡散されやすい」ものは「凄いプレイヤーの凄いプレイ」のほう。バズりやすいから。そういううまいプレイヤーへの称賛ほど拡散され、そういう実力の高いプレイヤーの発言のほうが強力に拡散されやすくなる(本当は上手いプレイヤーほど「繋ぎ止める」ために頑張らないといけないのだけど、歴史的にそういう振る舞いをしたプレイヤーは存在しない)。それがSNSの性質だからだ。そしてうまいプレイヤーほど「精神論」を正論のつもりでふりかざす。そこで「そこそこのプレイヤー」の声がかき消されていく。しかし、実は「そこそこのプレイヤー」こそがプレイヤーの大半だ。その大半のプレイヤーが「ついていけない」となった瞬間、ブームの終わりが来る。どんなブームも玄人が終了させるのだ。

 ということに、気付いてくれるといいけど……。


とらつぐみのnoteはすべて無料で公開しています。 しかし活動を続けていくためには皆様の支援が必要です。どうか支援をお願いします。