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6月25日 ドッペルゲンガーを目撃したお話

 ラジオなんかを聴いていると、時々出てくるネタが「そっくりな人を見たことある?」という話。だいたいが「いやぁ、ないな……」で話が終わってしまうわけだが、私はそっくりさんを目撃したことがある。

 私があのドッペルゲンガーを見たのは専門学校に通っていた頃の話だ。

 学校を出たところで、「あれ? 高校の先輩がいるぞ」と2度見、3度見したが、声をかけず、「先輩……いや、別人か?」と妙にもやもやした気持ちのまま、その場を去った。
 あっ、「そっくりさん」って有名人の話じゃなくて、私の高校時代の先輩の話ね。

 しばらくして、その偽先輩とはとある授業で一緒になり、ちょっと話をしたり、学校周辺の街をぶらぶらしたりしたのだが……。
 そうやって顔を合わせてお喋りをしていると本当に先輩にそっくりで……。太い眉毛、ちょいつり目っぽい感じとか、団子鼻、丸い顔に、柄シャツにサスペンダー、髪は男性だが長髪オールバックで首のところで輪ゴムで止めている。
 顔が似ているだけではなく、服装の趣味や、あの変な髪型も一緒。笑うときのクセや、ポケットに手を突っ込んでちゃかちゃか歩くクセ、あの人が言いそうだなということを言ってくれるし、共通点があまりにも多い。多すぎる。遺伝子レベルで似ているくらい似ていた。話しているとだんだん奇妙な気持ちになってくるくらいそっくりだった。

 それで、どうして先輩とは別人であると認識できたかというと、決定的な違いがあったから。
 ちょっと身長が低かったんだ。あと、私と同じ年だったし、そもそも名前が違ったし。外見的な違いといえば身長くらいで、他のだいだいは一緒。ほぼ先輩なのに、同学年という奇妙な感じだった。

 もはやドッペルゲンガーか生き別れの双子かどちらかだろう、くらいのそっくりさだったが、あの二人を会わせたらどうなっていただろう?
 ドッペルゲンガーだからどちらかが死ぬんだろうか。それとも案外仲良くなっていたりするんだろうか。

 でも結局会わせてみる……ということはしないままだった。なにしろ件の先輩とはそこまで仲が良かった、というわけでもないし、ドッペルゲンガーさんにしてもやっぱりそこまで深い仲にもならなかったから。

 それでも時々思う。あの二人を会わせてみたらどんな反応が起きただろうか……。
 あんな面白い実験の機会を逃したことを、今でも悔やんでいる。

 私のそっくりさん?
 これも高校時代の話で、あるとき同級生がCDを持ってきて、
「これ、お前に似てないか」
 と。
 ものすごくそっくりな人を見かけたので、そのCDを買ってきたというのだが、これが本当によく似ていた。
 とりあえずジャケット写真と同じポーズを取ってみたのだが、顔だけではなく体格を含めてほぼ一緒。
 でも、その人がなんという名前だったのかちゃんと記憶せず。時々思い出してはもやもやしている。あの歌手、なんていう名前だったんだろうなぁ……。
 名前すら知らないってことはすぐに姿を消した人なんだけどね。歌っている姿を見たことすらない。その程度の人だったんだが。

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