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11月14日 スターウォーズから見るアメリカ文化と「文化的な顔」とは……という話

IGN:『スター・ウォーズ:ビジョンズ』とは何だったのか アメリカと日本の文化浸透度の違いから分析

 へえー。
 面白い。

 ああ、そうだ。あのね、こんな話思いついたんだけどね……。

 1980年頃、日本はバブルの絶頂期で、儲けたお金でヨーロッパの古典名画を買いあさって、世界中から顰蹙を買っていた。あれ、なんでなのかというと、古典名画はあちらにとって「国の精神」を示すために重要なものなの。歴史を通じて優れたアーティストが描き重ねていったもの……そういうものの積み重ねが、「私たちはこういう文化を持っている」ということの根拠になっている。なので、ナチスがルーブルの名画を持ち去ったという時も怒り狂った。さらに価値もろくにわかってないような東洋の猿が買いあさって、またヨーロッパ人たちが怒った。

 私はこれまでブログで、漫画は「日本的な文化の顔」と書いてきた。ヨーロッパでは歴史的な名画達が「文化的な顔」であるなら、日本の場合は浮世絵や漫画が文化的な顔になる。これは漫画が好きか嫌いか……という話ではなく、文化の顔になっているかどうかの話。
 でも、日本人は自分の文化的な顔がずーっとわからない民族。「漫画が日本的な文化の顔」なんて話をしても、どうせ偉い人達は「サザエさんみたいなのが文化の顔なわけないだろ!」って言うんでしょ。要するに、日本人はその程度くらいにしか自分の文化を理解していないってことなの。
 日本人だけはわかってないけれど、海外の人は日本の漫画とアニメで日本がどういう文化を持っているかを知る。漫画からどんな生活習慣を持っているか知ることができるし、漫画でラーメンやたこ焼きといった食べ物を知った……という話は山ほどある。海外の人からしてみれば、「日本を知ろうと思ったらまず漫画」だ……なんだ。
(実は海外の人と交流を持っているのだけど、海外の人達が日本の文化や習慣をよく知っていることに驚く。ほとんどがアニメで知った……という感じだった。アニメにはそういうインパクトがある)
 ヨーロッパの名画を見れば、ヨーロッパの人達がどういうところに住んで、どういう格好をしていたか知ることができる。それぞれの時代でどういう習慣を持っているかもわかる。絵画を見ると、ヨーロッパの人達がどういう来歴を持っていて、どのような文化の変遷を辿ったかわかる。だからこそ、「文化的な精神」の根拠たり得る。
 漫画もそれくらいの密度を持っているのだけど、そこに気付いている人は少ない。日本人がそういう目線で自国の文化を見られるようになれるまで、まだまだ数十年くらいかかるかな。
(『サザエさん』だってちゃんと見れば、その時代ごとにどういう習慣があったのか読み取るための資料になる。『サザエさん』から文化を読み取ることはちゃーんとできる)

 なんで日本人は自国の文化観がわからないのか……というと、欧米と向き合うことで、初めてそういう認識を持ったから。そこで「欧米コンプレックス」が芽生えてしまった。
 おまけに、浮世絵にしても漫画にしても「大衆文化」だ。安く作られ、安いお金で買えることができる。漫画なんて、もともとは「子供のための文化」から始まってるわけだし。
 一方、ヨーロッパの文化というのは、一貫してファインアート。絵画にしても音楽にしても、もともとは貴族のための愉悦だったので、超高級品。絵画にしても音楽にしても、選ばれた能力の高い人だけが作る高級なものなので、超リッチ。格式が高い。1枚の絵を作るのにだって数ヶ月くらい平気でかける。
 そういうもののみを「アート」として見ていたから、「大衆文化」しか持たない国民としては、貴族の愉悦で作られた高級なアートを前にしてコンプレックスを持ってしまう(日本にもちゃんとファインアートはあるよ。でも「大衆文化」のほうが圧倒的に多様だしボリュームが大きい)。漫画を自国の文化的な顔……とか言うのが恥ずかしいという意識がまず来てしまう。
 日本発のアートなんかも、だいたいが欧米の影響とコンプレックスの産物で、印象派以後の影響で作られたものしかないものね……。未だに19世紀末の意識から抜け出せていないような、印象派のイミテーションみたいなアートを描いている人を見かけると「おたく、まだやってるの?」と言いたくなってしまう。日本人の考える「アート」というものの意識がずーっと19世紀末から20世紀頭くらいの間から動いてない。
 とにかくも、自国の文化がわからないうえに、欧米のコンプレックスが猛烈に強いから、欧米のアートかその影響を受けたものにしか「権威」的なものを見出すことができなくて、お金があるととりあえず「買いあさる」という短絡的な行動しかできない。あと、欧米風の貴族の生活を「模倣」しちゃうとかね……。

翔んで埼玉 イメージ

 コメディ映画だけど、『翔んで埼玉』ってヨーロッパ貴族風の生活をやっている姿をギャグとして描いているのだけど、日本人は「お金持ちの生活」といったらああいうものしかイメージできないんだよね。

 最近は「漫画が世界でこんなにも評価されている!」……なんて話が一杯来てるけども、やっぱり「欧米からの評価」がないと日本人は自国の文化と向き合えないし、そのメディアを通して「こんなに評価されている」という話のだいたいは勘違いに基づくものだからねぇ……。「ジャパニメーション」という言葉は、日本のメディアが勘違いして日本に広めちゃった言葉。あんな言葉、どこの世界でも使われてないよ。
 「漫画が世界に認められている」なんて恥ずかしいから言うもんじゃないよ。これ、完全に日本人の勘違いだから。
 宮崎駿の評価も、『千と千尋の神隠し』の後、ようやく認知されたものだし。

 いつかまた日本にバブルがやってきて、お金持ちが増えてきたら、またヨーロッパに行って古典名画を買いあさっちゃうんじゃないかな、日本人は。文化的な顔とか、そこにその国の人達の精神が映っている……とかそいういうの考えることができないわけだから。
 「権威」が欲しいけど、なにが権威かわからない人は、とりあえず西洋に行って「権威」のシンボルとされているものを金で買っちゃう。文化観とかそういう意識のない人がお金を持っちゃうと、こういう行動を取りがちだ。
 漫画が日本の文化の顔……と気付くのは当分先の話。なにせ、国が予算を出して、きちんとした施設を作って古い資料も保管できる場所を作ろう……なんて話をしたら「税金の無駄遣いだ」「国営漫画喫茶だ」って国を挙げて批判しちゃったのが、私たちの文化観だから。そういうのは税金の無駄遣いじゃなくて、「自国の文化を守る意思があるかどうか」の話だけど、「そういう意識はない」って私たち国民が表明しちゃったわけだから。当時はマスコミに思想をコントロールされていたとはいえ、流されちゃった。日本人全員にとっての「やらかし」だよ、あれは。漫画文化の真価に気づくまであと100年くらいかかりそうだね。

 アメリカの場合はどうなのかというと、アメリカの文化の顔はもちろん映画。アメリカ人は映画を通じて、「私たちはこういう文化観でございます」と世界に向かって表明している。映画を観れば、アメリカ人がどういう生活観、どういうものを食べているのかがわかる。思想や意識も映画を観ればわかるので、そういうものだからハリウッド映画はアメリカの文化の顔になり得る。
 ハリウッド映画が最初からアメリカの文化的な顔だった……というわけではなく、何十年もかけて大量に作り続けた結果、そうなった……という感じだろう。日本の漫画と一緒だ。
 世の中には「ハリウッド映画なんて馬鹿馬鹿しい」なんて言ったりする人もいるけど、アメリカ人の文化観にとっては大事なものなんだ。それこそ、ヨーロッパの名画と同じくらいに。

 で、今回の話題である『スターウォーズ』。『スターウォーズ』は実はアメリカ人の文化観にとって重要なものなんだ。外国人から見れば単に「格好いい虚構」くらいの話なんだけど、歴史が浅い、「建国神話」といったものを持たないアメリカ人にとって、『スターウォーズ』はある種の「神話の獲得」に近い意味を持っている。
 アメリカ人は建国神話を持たないことに対して、潜在的にコンプレックスを抱えているものなんだ。だから、映画の中でそれに当たるものが生み出された……だからこそ熱狂するんだ。アメリカ人にとって映画が文化的な顔……になり得るのは、そういう精神的な意識も創り出す装置にすらなっているからなんだ。

スターウォーズEP1 元老院R

 『スターウォーズ EP1』では元老院なんかが出てきたけれど、あれって、要するにローマ時代をSF的に描写したものでしょ。ヨーロッパの歴史の中でローマ帝国は重要な礎になったもので、「大きな歴史観」を持たないアメリカ人は、どこかしらにああいうものに憧れとコンプレックスを持つものなんだ。それを埋め合わせるものを自国の文化の中から生まれてきたからこそ、アメリカ人は『スターウォーズ』を愛する。
 なので、日本人がどんなに「スターウォーズが好き」と熱狂的に支持しても、アメリカ人の「スターウォーズ好き」とはベクトルが微妙に食い違っちゃうんだ。

 その『スターウォーズ』神話の新たな1ページを刻むことになった『スターウォーズ:ビジョンズ』……私はディズニーチャンネルにまだ入ってないから見てないのだけど、あそこで描かれた多様さも、『スターウォーズ』は許容し、飲み込んでいく。それこそ、ファンメイドの同人ビデオも公式認定して映画のDVDに収録されたりもする。ヘンなものが入ってきても、『スターウォーズ』の中心軸は揺るがず、むしろ多様さの裾野を広げていく。それが『スターウォーズ』の強さ。

 そうそう、『スターウォーズEP1~3』の時代に、ジョージ・ルーカス卿が「日本のアニメプロダクションと何かやる計画を立てているんだ」と当時語っていて、あれは期待したのだけど、どういうわけか流れてしまったらしい(もしかするとそれがイラスト画集『Star Wars Visions』のことだったのかもしれない)。その後間もなく発表されたのはカートゥーンスタイルの『クローン・ウォーズ』。あれはあれで面白かったのだけど、日本のアニメプロダクションが総力を挙げて『スターウォーズ』本家に関わってくるスピンオフアニメが作られたらなぁ……とはよく考える。
 今からでもそういう話が出たりしないものかなぁ……。いっそ、次の『エピソード10~12』は日本のアニメが描く……みたいになったりしないだろうか。


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