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9月24日 今の子供は声優の存在を知っている!!

 2021年の「小学生のなりたい職業」第2位に「声優」が入った。これには驚いた。第2位に入るということは、それだけ声優という職業があることを“知っている”小学生が増えたという話で……。やっぱり『鬼滅の刃』の大ヒットで、声優本人がテレビに出る……という効果が大きいのだろう。

 私が小学生、中学生くらいの時代は、声優という職業を知っている人はほぼいなかった。小学生や中学生はまだアニメを見ている頃だが、見ていてもその絵を誰が描いているのだろう、とか、キャラクターは誰が喋っているのだろうか……そういうところに関心が行く子供は僅少だった。
 「あれ? あのキャラクターとあのキャラクターの声って一緒じゃないか?」……ということにもほとんどの子供は気付かなかった。気付いていたのは、だいたい私のようなタイプの子供で、声優の名前まで知っている子供となると、たいていその子供はコミュニティのはぐれ者だった。
 そういう時代は、アニメを作っている人の存在を知っていること自体が失笑の対象だった。「何も知らない」ことが子供たちのコミュニティにおいて上辺に行ける条件だった。私が『生き残るために遊べ!』という本の中で「知能レベルの低い人に合わせる必要はない」と書いたのは、そういう奇妙な社会観を見ていたからだった。
(今なら「アイツらただのバカじゃん」って言えるんだけどね)

img20210924_19164798それが声優1巻94ページ

↑『それが声優』第1巻94ページ。

 20代くらいの若い世代でも「声優」という職業を理解している人はあまりいない。美容院なんかで「職業は?」と聞かれて「声優」なんて答えてしまうと、「じゃあドラえもんやって」とか「目玉の親父やって」とか、よく言われるそうな。だから声優は、「職業は?」と聞かれてもあまり答えたくないのだとか。
 一般の人は、「声物真似」芸人と、「声優」の区別はおそらくついていない。

 私よりも上の世代になると、さらに何も知らない。
 私は「実はアニメーターをやっていた」ということ前の記事で明かしたが、そのアニメーターを辞めた後、別の職種に行ったとき履歴書に「アニメーター」という不思議な職業の名前があるものだから、よく珍しがられて、こう聞かれた。
「アニメの仕事やってたの? 色塗る人?」
 私はこう答える。
私「いや、絵を描く仕事ですよ」
「絵? どういうこと?」
私「アニメってたくさん絵を描くんですよ。キャラクターが動いているように見せるために、そのぶん絵を描くんですよ」
「え?? 今はあれって全部CGでしょ?」
 ……こんなやりとりが3回くらいあった。
 そっか、CGだと思われていたのか……。こう言われて私もハッとしたのだが、今のアニメは全ての線が均一で、リアルな背景の上にキャラクターが載ることが多い。すると一般人には、「人が描いたようには見えない……じゃあCGだな」と考えるわけだ。書き手の存在を意識しないのだ。
 もしもCGだったとしても、それを作るための技術者は当然いるわけだけど、そういう人がいる……というところまでは、普通の人はなかなか思い至らない。
(なにしろコンピューターだから、ボタンを一つ押せば自動で生成してくれる……と一般人は思っているので)
 そういう経験があったから、「そうか普通の人は何も知らないんだ……」という気付きがあって、そういうわからない人に向けた物を書かなくてはならないんだ……ということを理解した。


 そうそう、もう一つ思い出したことがあった。
 アニメーター時代、実家に帰ったときに昔の友人達に会った。その時に、私が描いた動画を見せたのだが、
「お前、なんで同じ絵を一杯描いてるんだよ」
 と笑われてしまった。
「いや、これ1枚1枚違う絵で、これが連続して動画に……」
 と説明しようとしたが、もうその友人は別のことに気を取られて、興味をなくしてしまっていた。
 ちゃんと動画をパラパラとやってみせたのだけど、やっぱり1枚1枚が少しずつ違う絵……ということを理解してくれなかった。
(その動画、アクションシーンの動画で、パラパラとやればかなり明確に違う絵だとわかる動画だったのだけど……)
 ごく普通の人の理解力なんて、こんなものだ。普通の人はどうしてアニメーションが動いて見えるのか、知らないし、考えないし、理解もしない。ついでに一つの物事に向き合う集中力もない。

 この話は行くところまで行くと、「人間の認知能力」の話に行き着く。ごく普通の暮らしをしている人は、自分の身の周りにあるものがなぜそこにあるのか、誰が用意したのか……そういう諸々を考えることがない。知らないし、考えないけど、とにかく「ある」ということを「当たり前」のこととして暮らしている。
 という話を始めると長くなるので、横に置いておくとしましょう。

 「知っている」けど「認識していない」というものもある。
 例えばアニメファンの中には、アニメーターという職業を知っているけど、特に認識していない……という人達もわりといる。知識としてあるだけ……というタイプの人だ。「アニメーターの生活がつらい? そんなのは知らん。そういう職業を選んだんだから自業自得だ。それよりも俺と○○ちゃんとの関係の方が大切だ!」……こういう考え方のアニメファンもそりゃたくさんいる。そういう人も一杯見てきた。
 私も「知っている」けど「認識していない」というものはたくさんある。ほとんどの人々は、ほとんどの現象や社会に対して、「知ってる」けど、特に「認識していない」という立場のはずだ。世の中そういうもんだ……と理解しているから、私も気にしない。

 で、今の子供たちが「なりたい職業」に声優を挙げる……これはその仕事をただ「知っている」というレベルから、もっと上の「認識している」というところまで進んでいるという意味である。
 だいたい小学生くらいの子供が憧れる対象というのは、「認識しているかどうか」くらいなものでしかない。どうしてYouTuberなんぞになりたいのかというと、その職業を認識しているから。認識したから、その職業に憧れている……という言い方もできる。逆に言えば、それ以外の大抵の職業は特に認識もしていない。小学生だから職業として認識している中で、「楽しそうだから」くらいの判断基準しか持ってないので、本気で「なりたい」と考えている子供はその中でもごく数人でしょう。

 でもそうか……。むしろ私たち世代のほうが、「アニメはテレビでやっているけどよくわからないもの」という認識だ。そのアニメが「誰かが作っている」という認識にまで行き着いている大人は少ない。今の子供の方は、アニメの中身について「誰かが作っている」という認識まで進んでいるということなんだ。
 それは「アニメ=犯罪者予備軍が見るもの」というイメージが急速に薄れていっていることと関係しているのだろう。フェミニストたちは今でも「アニメ=犯罪者予備軍が見るもの」という思い込みの元で猛烈に攻撃を仕掛けてきているけど。フェミニストみたいな変な大人達よりも、子供たちの方がよっぽど進んでいるという意味だ。
 ああ、それは凄いことだな。こういう子供たちの方が、私たち世代よりももっともっと優秀になっていくのかも知れない。時代はそこまで進んだんだな……ということをしみじみ感じるよ。

【追記 2021/10/03】

 ちょっと追記です。
 最近の10代くらいのイラストレーター志望の子達の作品を見るとめちゃくちゃにレベルが高い。私は絵描きの学校に通っていたのだけど、今の子供たちほど絵が描ける子なんて、いたけれどもそれこそ300人に1人くらい……。20年前の300人に1人くらいの実力の10代が、今はゴロゴロいる。そういうのを一杯見てきて、「ああ、今の時代にはかなわんな……」と私なんかはしみじみ思ったりするわけです。
(昔はプロでも「んん?」というくらい下手な人が一杯いた)
 どうして今の10代がそんなに絵がうまくなっちゃったのか……というと早くから「イラストレーター」という職業を認識しているから。認識して、そこへ向かって学ぼうとするタイミングが早い。勉強するための本はAmazonへ行けば一杯あるし、YouTubeでも絵描き教育をテーマにしたチャンネルは一杯ある。知識を得る機会が非常に多い。
 私の時代は、いま売っているような教育本は本当になかった。あったとしても手に入れるのがめちゃくちゃに大変で、欲しい知識がなかなか手に入らなくて苦労した……。「知識を得ることが大変だった時代」と「知識を得ることが容易な時代」を比較すると、知識を得ることが容易になった今の時代のほうが強くなるのは当然。それに、若く、知識を吸収しやすい時期に学べるという点も大きい。
(あと、私の世代は、まず親から反対されるし、友人達に言ったら大抵バカにされて笑われるだけだった。「イラストレーターになるための勉強をしよう」と思ったら、いきなり孤独にならなければならなかった。私の世代でも、それくらい特殊な職業だと考えられていた。「イラストレーターになる」と「宇宙に行く」は同じくらい遠いものだと考えられていた)
 それに、やはり早くから「イラストレーター」といった仕事を「認識」していることも大きいだろう。「認識」しているから、早くから学ぼうとするわけだから。
 それで声優の話だけど、小学生の段階から声優の存在を認識している、という子供たちはきっと芝居の知識を得る機会もきっと早いだろうから、次世代の子供はもっともっとすごい実力の世代が生まれるかも知れない。
 そうすると……私たちの居場所なくなっちゃうなぁ……とかも思ったりもする。


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