同居人は膝の上_ogp2

2019年冬アニメ感想 同居人は膝の上、時々頭の上

 かわいい猫が出てくると聞いて視聴。ハルちゃんは今期アニメでベストなヒロイン。対抗馬が出てこなかったら、このまま今年のヒロインに選んでしまいそう。
(人間ごときが可愛さで猫で勝てると思うなよぉぉぉぉっぉ!!!)

 人付き合いが極端に下手な青年が、猫との暮らしを通して外の社会と関わり、変わっていく過程が描かれる。
 テーマ設定がよい。自立できない、社会性を持たない青年が少しずつ成長していく過程が丁寧に描かれる。この過程の中に、さりげなく猫が絡んでくるところもいい。テーマにブレがない。ある意味でもっともありきたりなテーマの物語を、なんともいえない暖かで柔らかな作品に仕上げている。

 ただ、個々の描写にかなり難点がある。
 主人公、朏素晴はミステリー作家というが――どうにも作家には見えない。そこそこ人気があり、そこそこ稼いでいる作家だというが、家は古めかしい平屋。部屋の中を見ても、あまり小説家らしさを感じない。
 小説家という人種はだいたいなにかしら生活の中にこだわりを持っていて、その美学で家の中や部屋の中を埋め尽くしているものだ。が、素晴の部屋にはこれといって目を惹くような特徴はない。机も椅子も、その辺にありそうなもの。今時の若い学生も使わなそうな安っぽい絵だ。
 小説を描いている姿にしても、手書きなのかノートパソコンなのか。どっちで描いているのかよくわからない。
 もしも手書きであるならば、私も経験があるのだが、小説が1本できあがる頃には原稿用紙の山ができあがっているはずだ。その描写すらない。小説が完成した瞬間も、その周囲になにも生まれてない。ただ台詞とキャラクターの描写だけで終わってしまっている。
 本好き読書家という設定の素晴だが、しかし部屋の中、家の中にはいうほど本はない。あれくらいの本なら、私の部屋にもある(ここ数年、貧困状態で新しい本を買えてないのだが)。本当の読書家ならもっとあちこちに本があるものだし、本の重みで部屋が沈んだりするものだ。
 本を読んでいる姿にも疑問だ。寝転がって、片手で頭を支えて本を読む姿が度々描かれたが、あの体勢での読書はやってみればわかるが、長く続けることができない。すぐに手首が疲れてしまって、読書に集中できない。読書家ならではの読んでいる姿の優雅さが描かれていない。

 どうにも「語られている設定」と「描かれている設定」に齟齬があるような気がして、私は「これはもしかして、両親の死のショックで、“自分は小説家”だと思い込んでいる病人」の物語ではないか……と考えるようになっていた。「編集者」を名乗る河瀬篤は実は精神科医で、素晴の治療のためにしばし編集者を演じているだけである……と。
 物語の後半まで、私はこっちが本当で、どこで明らかになるのかなーと。どこで「……僕は……小説家じゃなかったんだ」と気付くんだろうなーと考えていたが、第9話のサイン会のエピソードで本当に小説家だったと明らかになり、かなり驚いた。
 そういうどんでん返しのある作品じゃない、ということは理解していたけれども。

 主人公、素晴は少女漫画に出てくるようなイケメンとして描かれるが、ここに今のアニメの問題、キャラクターデザインの選択肢が狭まっているという問題に気付いた。
 まず、あんなイケメンが引きこもった暮らしをしているわけがない。かなり無精な生活をしているのに、どうしてあんなに髪が整っているのか。外に出ない自堕落な生活を送っているのに、手足の長いモデル体型。不自然だ。
 あそこまで人の感情を想像できないような人間が、小説家になれるわけがない。作家はだいたい「生きることが下手」な人種ではあるのだが、ただし想像力はたくましいものだ。素晴からはそういう小説家らしい描写は振る舞いがどこにもない。

 「語られている設定」と「描かれている設定」の齟齬はここにも感じられて、素材は美形として描かれてもいいとして、ファッションやヘアスタイルはあれが正解ではないだろう。このキャラクターでは作品のテーマと合っている気がしない。
 最近……最近だけの話ではないが、アニメキャラクターはアイドルだ。過剰に美形に描かれていなければならない。少女が主人公だったら目を大きく鼻はほぼ見えないくらいの点で描き、男性が主人公だったら鼻筋はくっきり顎を尖らせる。そうすると描かれるキャラクター・絵柄はなんとなくどの作品も似たり寄ったりになってしまう。カテゴライズされやすくなる。
 アニメは絵――だからこそ自由に描けるはずなのに、むしろ「今のアニメ風にしなければならない」という縛りが入って、描ける絵の選択肢が狭まっている。と、いう実態がこの作品からも見えてくる。

 猫の描写はなかなかよかった。
 猫をなでようと手を差し出すと、ちょっと警戒して身構える姿がいい(犬や猫をなでるときは手を上からではなく下から出したほうが良い。上からだと犬も猫もちょっと身構えてしまうのだ)。そういう時の、ちょっとビクッとした猫の緊張感がきちんと描かれている。
 毎エピソードの後半は猫目線で描かれるが、人間目線との微妙なすれ違いが面白い。
 猫は人間に懐くと、犬のように主従関係を築くのではなく、あくまでも「群れの一員」と見なす。猫と人間は「飼い主と飼い猫」という関係になることはなく、猫は誰かの下部になることはない(よく「猫は家につく」というが、実際には本当に懐くと「人間につく」。「家につく」という時は実は言うほど懐いてない時)。それで、「あいつは自分で食糧を狩ることもできないのか。しょーがない。私が狩ってきてやるか」と猫なりのお節介で虫やトカゲを狩って人間の元に持ってくる。人間からするとちょっと迷惑だったりもするのだが、これも猫なりの思いやりなのだ。
(ハルは素晴に対して「面倒を見てやっている」と思い込んでいる。このすれ違い方がまたかわいい。猫は人間に飼われているとは思わない生き物だ)
 そういう猫目線での視点がきちんと描かれているのがいい。人間と猫の気持ちはすれ違い続ける。人間が勝手に「こうだ」と思い込んでいる物語が、猫目線では違うという視点はなかなかユニークだし、猫の描写としてそれなりに理にかなっている。
 1つの物語の中で、2つの物語が常に生まれている。猫目線の物語だから微妙に見えているものが違うし、微妙に着地点も違う。それでも2つの物語が最後には1つの物語として収束していくところが描かれている。これがなかなかいい。
 ハル役を演じた山崎はるかの芝居もよかった。(便宜上)人間の言葉を喋っているが、人間らしさを感じない。人間らしさというか、“女性”を感じない。自然に“猫”を感じられる。可愛いし、猫らしい素直さが出ている。

 ただ、猫の描写にはもう少し枚数を使って欲しかった。猫同士の対話シーン、止め絵にちょっと口が動くだけだったから。枚数を使うと予算が増えるという事情があるから、この辺りが限界だったのかな、という気もするけど。

 絵の作り方にやや難ありな作品ではあるが、物語の進行は非常によかった。1人の青年の成長物語。猫との関係を深めていく物語。小さな作品だが、少し付き合っていたい物語である。
 あと猫のヒロインが出てくると、人間のヒロインは太刀打ちできないんだな、と気付いた作品。小さな作品だが、なかなかの掘り出し物アニメ。

とらつぐみのnoteはすべて無料で公開しています。 しかし活動を続けていくためには皆様の支援が必要です。どうか支援をお願いします。